第62話 被害者の会 11/26(土)文章追加。




聖光剣の勇者』は一人、『密談の間』に戻って来る。


「済んだかの?」


『はい。後は、流れに』


「......ですね」


この国の最高権力者の前でも、この三人の態度は、平素と変わらない。


セムカ王は、じっと『聖光剣の勇者』を見る。


『なんでしょう?』


「そろそろ、素顔を見せてくれるだろうか?」


「セムカ、『素顔を隠せ』と提案ていあんしたのは我じゃ」


提案ていあん!? あの......ニーグが!? 提案ていあん!?......えぇ!?」


セムカ王は白ヒゲの口をポカンと開けて、驚いて居る。


「あはは。たしかに二度、確認したくなりますね」

「まったくです」


ワードマンとタキタルは、苦笑するしかない。


それだけ龍神ニーグの傍若無人ぼうじゃくぶじんに、周囲は振り回されている。

まぁ、そんなに無理難題でも無いので、したがうが。


龍神ニーグが気をつかう存在は、『聖光剣の勇者』が初めてだろう。


「それはそうじゃ。我が敬愛けいあいする、夫だからの」


『......なるほど。ニーグ様からの『被害者の会ひがいしゃのかい』でも作りましょうか』

猛は、ポツリとつぶやく。


「な!誰が、われ被害者ひがいしゃと言うのじゃ?」


『私が、被害者の会ひがいしゃのかい発起人ほっきにん』でも良いのでは?

議題は......『種付け一択たねつけいったく』とかで』


「ぶっ」

「な、なるほど!、あっはははは」

たね......ぶっ、ぐわっはははははははは!」


身に覚えのある三人は、吹き出す。


おそらくセムカ王も被害者であったのだろう、大笑いし始める。


「はっはっはっは!ニーグ被害者の会ひがいしゃのかいか!わっはっはっは!」


パンパンパン


笑い過ぎて、自分の膝を叩き始めてしまう。



「おいセムカ。笑い過ぎであろう」


『ほう? 身に覚えは、無いと?』

銀色ヘルメットを被って居ても、猛の視線は、ニーグを見たのはわかる。



「いや、そうは言わぬが......」



「ぶぶっ!わははははははは!」


セムカ王のツボを、さらにけた様だ。



カシュン


猛は銀色ヘルメットを、収納する。

そして。


「初めまして。聖光剣の勇者こと、たけし円鐘えんしょうと申します」


黒髪に 黒い瞳の素顔で、セムカ王に挨拶をする。


セムカ王は、猛の左目モノクルの端から除く火傷跡や切り傷に、やや驚いた表情をする。


「ふぅむ。タケシ殿は、異世界でも歴戦の戦士であったか?」


「はい。地球異世界での敵勢力のエネルギー......魔力工房のコアが暴走致しまして。

爆発致しますと大地が割れ、火山が噴火し、大陸ひとつが無くなる状況でした。

止めるために、やむ無くこの左目と左腕と左脚を失いました」

猛は、ほろ苦く微笑む。


イケメン俳優級の甘い微笑みに、顔左側の名誉の負傷が、超一流の戦士としての迫力をえる。


「ううむ」

セムカ王は、何故なにゆえうなる。


「? どうされましたか?」


「いやはや、こんなに良い男の威丈夫いじぃうぶであったとはな......

婿むこに欲しいな」


「おい。セムカ」


「わかって居る。ヌシの夫を横恋慕よこれんぼする気は無いぞ。

......しかし、ヌシより絶対強者がおるとはな」


ニヤリ、と好々爺こうこうやの悪い顔する。


「で、あろう♪」

ニーグは、得意げに微笑む。


「王も、話が早そうで、がたき」

猛も、獰猛な笑顔を浮かべる。


「やれやれ、『似た者夫婦』か......で?何を望む?」


「はい......私の以後の行動を、御放念ごほうねん頂けたらさいわいです。程近く、勇者連合を整えて、進呈致します」


「......ルミナス」


呼ばれたルミナスは、現れる......が


猛に向かって、ひざまづく。


「ルミナス?」


「失礼ながら、王。 猛殿にはすでにヴォーグ神より、

自由人フリーマン』の称号を直々じきじきたまわられて居られます」


「な!?」


セムカ王は、慌てて腰を浮かす。


すっ


猛は右手を挙げて、セムカ王を制止する。


タキタルより他の王国人が居たら、『無礼者ぶれいもの!』と抜刀するだろう。


それだけ王に対して不遜ふそんな態度だ。


しかしセムカ王は、ひとつうなずき、再度座る。


「それは、この間の事だけに願いたい。一歩出れば、王として敬わせて頂きたい」


「ふむ......いっそこの『椅子王座』を、明け渡したいのだが」


「まだ『楽』しようと、しないで下さい。魑魅魍魎ちみもうりょうを片付けるまでは」


「それこそ、任せたいのじゃが」


「セルガさんと、同じ事を言わないでくださいねー」


猛は、ニカっと笑う。


「......タキタル」


「は」


「ヌシの言うた、新参勇者殿の『笑顔が怖い』との意味が、ようやくこのみたは」


「御意」


タキタルは猛の真後ろで、四十五度の深い同意の礼をする。





○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○


コポコポコポ


隼執事が、英国イングランド式ゴールデンルールで紅茶を点てる。


カチャ


そのままティー・カップを、セムカ王の前に置く。


「どうぞ」


相伴しょうばんに、あずかる」


しゅる


ゴクリ


「ほう......美味い」


「恐れ入ります」


「地球?の茶葉と......茶の作法も完璧だの」


「ありがとうございます」


「......」


「? いかがされましたか?」


「ヌシは......本当に、ゴーレムなのか?」


「はい」


隼は、上着の前合わせを、少しひらく。


......肋骨っポイ骨組が見え、見事にカラッポだ。


「......高度に訓練された『人族』の執事にしか、見えん」


「ありがとうございます」


「そう。制御魔法陣の、容量が段違いすぎる」


あ。リルハが、まだ居た。

フラーレン形態の魔法オーブに夢中で、彼女自身の気配も消えていた。

隼は、ちゃんと彼女の前に新たなカップを出していたが。


猛の素顔を見られてしまったが、後で守秘義務を確認して置こう。


「これまでの平面な制御魔法陣では容量不足で、人族の動きを真似出来ない」


「その通りです。ドロイド使い魔それぞれに『量子人工脳』が入って居ます。

『人族の脳神経系』を模倣コピー出来て居ます。


彼ら『使い魔ドロイド』は、我らの大切なパートナーです。

日々、諸々もろもろと助けてもらっています」


「......不思議。まるで『親族』あつかい」


「その通りです」


「......もし、この『使い魔』を犠牲にしなくてはならない事態に陥ったら?」


「『この素体』限れば、犠牲にします」


猛は、トントンと自分の頭を叩く。


「使い魔のソウルの本体は、ココ猛の脳内にありますので」


「......むぅ。ずるい。なんて無茶苦茶に、なんでもあり」


「......渡り人勇者の、いわゆる『ちーと御業』であるか」

セムカ王は、白ヒゲをもてあそびながらつぶやく。


「しかし、確かに......『聖光剣』殿の『ちーと』は、無茶苦茶だ」

ほろ苦く微笑む。

急に、真剣な表情になる。


スっと、右手を差し出す。


「......国民の為に、助力じょりょくを頼めるか?」


「喜んで」


猛は、その手を握る。


「......こんなに、われ安堵あんど出来る存在が有るのだな......」


握手を解くと、セムカ王はしみじみと呟く。


「......そうですね。王の立場は『国の隅々』まで、気を配れなければなりませんからね。

日々生活している国民の先達として」


「ふむ......具体的に言語化されると......王とは大変な役職だの」


「でも、成りたがる『魑魅魍魎ちみもうりょう』が多すぎるのですよね」


「そうなのだ。亡国の罪を、みずか背負せおいたいのか?と問いただしたい」


「そうですね......国家運営は『赤子の世話』に似ている様に思います」


「なるほどな......世話が悪ければ、うしなうの」


「おいタケシ」


「はい?」


「腹が減った」


「分かりました、そろそろおいとまするとしましょう。では、セムカ王にもコレを」


セムカ王にも、白いコースターを渡す。


「......もう終いか......あぁ」


セムカ王は、猛を見る。


「すまぬが、そのモノクルを外しては貰えぬか?」


「良いですよ......ただ、ただお見苦しいモノを目にされますが?」


「かまわぬ」


「では......」


右手をモノクルにかけ......


カシャ


ハーフミラーのモノクルが外される。


......その下には......


銀色の頭蓋骨眼窩が現れ、眼窩には生身の眼球の代わりに、銀色の眼球があった。

銀色眼球の中央には、紅い光りを鈍く放つ『カメラレンズ?』がある。

その『カメラレンズ?』は、生身の右目と共にセムカ王を見つめると

(キュイキュイ)とピントを合わせる動きをしている。


地球では、燃やされて銀色の骨格と機械だけの姿になっても、

しつこく殺りに来る映画の、殺人サイボーグの目のようだろう。


「......なるほど、ゴーレムの目とはな。正確な形の金属であるのが、逆に生々しいの」


「実はこのゴーレムの目は、肉眼では見えない各種の......魔素を『感知』出来まして。

戦略上の情報収集に便利でして」


「......どんなモノを感知出来る?」


「例えば......生きているモノは『体温』を発します」


「うむ」


ニーグ様が座る椅子の背後の壁に、天井に届く程の見事なタペストリーが掛けられて居る。


キュイ


サイバーな赤い瞳は、ちろりと『それ』を、見る。


「そこの部屋の隠し部屋に、二十名分の体温を感知しています......天井裏には、四方に八人」


セムカ王は、軽く両手を挙げる。


「......正確だの」


カシャン


モノクルを戻す。


シュン


左腕の長袖を消し、義手の左腕を肩関節までむき出しみする。


カシャン


左腕は左肩関節から外れる。


コトン


生身の右手で目の前のテーブルに置くが、軽い音がする。


シュルシュル


外れた左肩関節から、触手の様なモノが伸びる。


生身の右腕と左腕代わりの触手で義手を持ち上げ、

セムカ王に差し出す。


セムカ王の視線は、義手を持ち上げる触手?に釘付けだ。


「お......う?」


戸惑いながらも、王は義手を受け取る。


「!なんと!......こんなに軽いのか!?」


「はい。魔力を流す『触媒』で有れば良いのです。ですのでゴーレム機能も無い『ただの人形の腕』です。

身体強化魔法をかけて仕舞えば、私の意識と連動出来て『普通に動かせる』ので、内部ゴーレムは不要なのです。

材質は......近いのは......カブト虫甲虫等の甲羅こうらに近い『キチン質』の強度を、科学的に上げています」


ポコン ポコン


セムカ王は義手を右手拳で、軽く叩く。


コスプレ用の、プラ板で出来たナンチャッテ甲冑の様な、ハリボテっポイ音がする。


「ふうむ。金属ではないのか......で、その触手?もか?」


「はい。壊れにくい義手とは言えメンテナンスは必要です。それ用のマジックハンドです」


とは言え、ムチとして使えば立派な武器となるが......


「......ふうむ、あらゆる事項に対処されておる。油断ならん夫だのう」


「そうじゃろう、そうじゃろう」


ニーグは、最高責任者に夫が認められた様で、喜ぶ。


「いや、余計よけい警戒けいかいされちゃった気が......」


猛は、苦笑いをする。



「そうじゃ、ルミナス」


「は」


「猛殿に、『王権称号ロイヤル・タイトル』を授けよ」


「御意」


ウォーン


見えないモノが、猛に降り注ぐ。


ピコン


猛の頭上に、ヤーディン大国の紋章が浮かぶ。


タキタルは、心中で少しうろたえる。

コレで国内に『王権が二つ』存在してしまう。

仮にセムカ王と勇者殿の意見がたはえば、国内は大混乱になってしまう......


「有り難き」


猛はアッサリと、セムカ王に一礼する。


「なに。『自由人フリーマン』の称号は、国中を彷徨うろつくには強すぎる。

出逢う国民全てを自然と跪かせる趣味は無いのだろう?『王権称号ロイヤル・タイトル』なら必要な時にだけ出せば良いでな。

またタキタルを含め、国軍をこき使ってやってくれ」



おいおい......それって『王位と王権の移行』じゃね?

猛殿が『新王』じゃないか!

タキタルは、焦る。


「助かります。御気遣おきづか有難ありがと御座ございます」


猛は、ほがらかに微笑む。


「ヤーディンを、頼む」


セムカ王は武人らしく、猛に一礼する。


「はい。では『セムカ王』も、『これまで通り』ヤーディン大国の舵取かじとりを、よろしく御願おねがいたします」


にっこり♪


ウォーン


ピコン


「う!」

セムカ王の表情が、固まる。


!......ここで『王位と王権』かえし!だと......

さすがだ!

タキタルは改めて、猛殿の『したたかさ』を実感する。


「あっはっはっは!セムカ!

主が得意な『王侯貴族の絡め手』で、キレイに逆手さかてを取られるとはな♪

どうじゃ、コレが龍神の夫じゃ」


「ううむ」


綺麗に返された王は、椅子に身を預ける。


「む!?......は?......はい!」


急にルミナスが、慌てて誰かと『会話』し始める。

......この、パターンて......


「王!......神意かむいたまわりました」


「なっ!?」


セムカ王は聞くなり、思わず立ち上がる。


「......『タケシは覇王はおうたる有能な人材で、引きとどめたいのは理解する。

が、地球の神の『愛し子』故に、いずれお返しせなばならぬ。

タケシの事は、放念せよ』......」


「......一切合切いっさいがっさいを理解致した。

神の御心のままいたす」


セムカ王は右手を胸に当て、祭壇に向かい、深く一礼する。


シャリーン


「あ」

猛は、今の鈴の音に反応する。


「うん?」


セムカ王は、顔だけ猛に向ける。


「今の『鈴の音』は、地球の神からの『返答』でして......

『宜しく』との事です」


身体を起こしたセムカ王は、微妙な苦笑をする。


「......無茶苦茶むちゃくちゃだの......」


うん

うん

うん


他の三人は、みょう達観たっかんした表情ひょうじょうで、うなずく。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る