第54話 破壊神な女系
『起動ワード、アリー・W・トレアドール』
『確認』
『トレアドール系譜』
『現任、神官長』
『セルガ・W・トレアドール』
『起動条件・確認・一致』
『神殿管制人格、起動開始......同期先検索......』
ヴォーン
「えっ!?」
バスク動力長の私室の椅子に座る、セルガさんの目の前に......
黄金に鈍く輝く、カチューシャが現れる。
シュ
「きゃあっ!」
あっという間に、セルガさんのおデコに、取り付いてしまう。
『同期アイテム・装着完了』
『同期、開始』
ヴォン
ピキン
「う」
セルガさんの身体は、急に固まる。
「!セルガさま!?」
「同期アイテムか!」
『アリーに『再会』出来るとはねぇ〜』
(モニタリング状況は?)
(オーパーツ臓器達が、起動時から開始)
(
【......おうふ!? え? ほ?......】
目覚めた『アリー』さん?だと思うが、つぶやく声は『精霊寄り』に聞こえる。
【アレ? ニーグさま?】
「......アリー、起きてしもうたか......」
【アレ? ガルク?......じゃないのです?】
「......お久しぶりです。
『
現任の、施設動力長をしています。
ガルクは『祖父』ですな」
【『千年前』!?......そ、そうなの......
では、ガルクは天に召されて......】
「召されてません。ドワーフの里で『工房長』をしております」
【えーと? デルク副長さんは......】
「父のデルクは現在、王宮施設動力長を任じられております」
【そうなのね......千年......】
(......『
(まぁ、そうなんじゃよ......普段はな......)ヒソヒソ
【千年!?】
アリーさん?は、椅子から勢い良く立ち上がる!
【そうよ! 魔族との紛争は、どうしたの!?どうなったの!?】
アリーさんは、いきなり興奮状態に陥った様だ。
「おい!アリー!落ち着け!」
【そうよ!魔族は滅しなければならないの!生きとし生けるものは平穏に暮らせるべきなの迷える子羊を惑わす魔族はそんざいしてはいけないの】
彼女の視線は、前を見ているようで見ていない。
【絶望が美味って何よ絶望を味わうために不幸に導くて何よみんな
「......なるほど......感情が『暴走』しやすいのですね」
「そうなのじゃ......神殿武装の強化計画に並行して、神殿コアの武装管制精霊の元として、
アリーは自らの魂の複写に、志願してくれたのじゃ......」
【ゆるさない許さないゆるさない許さないゆるさない許さないゆるさない許さないゆるさない許さないゆるさない許さないゆるさない許さないゆるさない許さない】
「......ところが『複写した魂』を元に、管制精霊を組み上げたら、特に闘争心が暴走しやすくての......」
「あぁ......」
【ゆるさない許さないゆるさない許さないゆるさない許さないゆるさない許さないゆるさない許さないゆるさない許さないゆるさない許さないゆるさない許さない】
「手法手順を変えて、数回『魂の複写』を行う途中、アリーの脳に負担がかかり、
アリー本人には『記憶喪失』に
「え」
「何とかアリー本人へ、記憶を戻そうとしたのじゃが、自分や肉親の名は思い出せても、
神官長として『代々伝承されるべき記憶や技術』は『
「それは......」
「まったく
更に最悪なのは『代々伝承されるべき記憶や技術』が、
『このアリー』に保存されてしもうたのじゃ」
【まぞく......魔族......まぞくはどこ?】
「『代々伝承されるべき記憶や技術』を失ったアリーは、引退した。
幸い『先代』神官長が存命でな。
一代飛ばして、次代の神官長に『代々伝承されるべき記憶や技術』はなされた......
じゃがアリーは紛れも無く『天才』でな。
アリーが編み出した『神聖魔法』は、多い。
それが、このアリーの中に、眠っておる。
じゃが、このアリー対策をせずに
解決の糸口が見つかるまではと、封印と
ニーグは、改めて猛を見つめる。
「我の夫が、糸口であるとはな」
「やれやれ、立て続けに、こき使われますね」(苦笑)
「すまんのう。この埋め合わせはするでな」
「種付け以外で、願いますね♪」
「おーい。つれないぞ」
「そこの余裕たっぷりのバカ夫婦!、
バスクが、物申す。
【魔族を撃滅するのよ!タイ・クォーン!】アリーに乗っ取られたセルガさんは、叫ぶ。
たゆん たゆん
(セルガさんの、
(アイサ)
『武器管制回路・起動』
『
神殿コアが、眩く輝き出す。
ヴーン
【はなてーーーーー!】
..................
プシューーー
何かが、抜けてゆく。
しーん
【......あれ?】
「相変わらず、
武器を使用する時は『
「......アリーさん......と言うか、トレアドール家の女性には『※
(※
『構造を理解せずに、無理矢理動かして』壊したのに、『壊れちゃった(てへぺろ♪)』と言う。
「......」
心当たりがあり過ぎるワードマンさんが、真顔で押し黙ってしまう。
「これ、アリー。『龍の咆哮キャノン』は、設計はされたが作られては、おらぬのじゃ。
必要な魔素量も確保出来んし......千年前と相変わらず、空回りしておるぞ」
【へ!?】
アリーさんは、さっきまでの『感情の激高』が、嘘の様に無くなった。
そのまま呆然自失と、突っ立ってしまう。
感情も全て抜け落ちてしまった様に、無表情となる。
「隼。アリーさんから『代々伝承されるべき記憶や技術』は、サルベージ出来たかな?」
「はい。完了しました......セルガさんの『伝承項目』に加えます。
また、こちらのアリーさんの暴走傾向の原因が、判明しました」
隼は、クリスタル臓器の『脳』の立体映像を映す。
そして、魔力の流れを表示する。
「そうか。クリスタル脳は、働きが均一なのか。
『
「はい。働きが『ジャンケン』になっていません。
『前頭葉』の『前頭連合野』の『理性』を
発した『感情』のままに、どこまでも暴走してしまうのです」
「『ブレーキ』を、付け忘れて居たのか」
「『アクセル』『ブレーキ』の概念自体が......」
「そこからか」
「......
「喜んで。......例えば、私の脳の働きは『こう』です」
自分の脳の立体映像を浮かべると、魔力の流れを重ねる。
脳の各部位が、それぞれに活動していることを、示している。
すると脳の前側にある、『前頭葉』の『前頭連合野』の働きが主体で、脳全体の働きをコントロールしている様に見える。
「あ! 感情を抑える働きが、そもそも無いか」
「なるほど、働きか......
【ほぇ〜。夫さんの世界?は、医道も先進しているのだね〜】
「この脳の『魔素や魔力』の流れのままでは、複写したアリーさんの『感情』は抑制されず、
どこまでも感情が『増幅』されて、落ち着かないでしょう」
隼は、落ち着いた声で、解説を進める。
「そうですね、魔法の『
「「【あ】」」
ニーグとバスクとシャイカの声が、ハモる。
「ですので、クリスタル脳自体を、セルガさんの脳を基準に『作り替え』ましょう」
「......うむ......」
「そうしてくれ......そうか、『
シャイカは猛を、まじまじと見つめる。
「?......なんでしょう?」
【いやぁ、文武両道の
心底感心した、キンキン声をあげる。
「ありがとう......ございます?」
この人なりに、
ニーグは、苦笑する。
右手で猛の肩を叩く。
「シャイカに『凄い』と言わせて、納得させるとはの!我が夫は、大した者よ」
「ありがとうございます」
苦笑を返し、肩をすくめる。
「クリスタル脳の改修、完了致しました」
「じゃぁアリーさんを、『素体』に移してくれ」
「アイサ」
呆然と立つアリーさん......否、セルガさんの右隣にセルガさんより、やや強が気そうな女性が、現れる。
たゆん
......御立派な『たゆん』は、家系なんだろうね。
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