第46話 やっぱり、無茶苦茶?




「「「「美味うまい! うまい! うまい!」」」」


がっ がっ がっ ガツガツ ガツガツ


夕刻前でまだ空は赤くなり始めだが、明かり代わりのキャンプファイヤーを焚き付ける。


衛兵隊や戦術神官女性達全員の五十五名が、傷も癒えて、その火をかこんで地面に座りこみ、

軍用アーミー・メストレーを膝に抱えて、先割れスプーンをせわしなく動かし、

ハヤブサ執事より配給はいきゅうされた大盛りの野戦糧食レーション・ライスカレーをガツガツ食らって居る。



教会衛兵隊の宿舎は目の前なのだが、まだ建物内は黄色体制イエロー・アラートなので、魔道設備ライフラインが動かない。


ならば、ここに簡易キャンプを設営して、異世界グルメを振舞おうと言う運びになる。


『教会上層部』のメルダもリモート中なので、すぐに話はまとまった。


ついでに魔道設備ライフラインが止まった教会内の全食堂にも、教会人員全員に、新参勇者からの御挨拶として

異世界の野戦糧食レーション・ライスカレーを、振る舞う手配をした。


全食堂でも、同じ勢いで食事がなされているだろう。



団体に一斉に出す食事てコレだよねと、執事モードの隼は、ライスカレーを全員に配給した。

ステンレスの軍用アーミー・メストレーの真ん中の広いくぼみに、

サイコロステーキ位の(人造)肉が、ゴロゴロしているライスカレーを大盛りに盛る。

周りにはパックの飲み物や、丸いポテサラや、デザートのゼリーも添えてある。

カラフルな色合いが、欠食十代の食欲を、そそる。


全員まだ十代なので、皆食べ盛りだ。


「美味いですね~♪ 辛うま? いくらでも食える♪ らいす?も食べやすいし」

「そうすねー、ちゃんとデカい肉入りだから、イイですね。肉久しぶりです」

「しかしこの『肉』は、とても柔らかくで美味いですね♪ なんの肉です?」


隼執事は、ただ微笑ほほえむ。


「おや、そうなのか。肉が久しぶりなんて」

ワードマンが、問い返す。


『はい~。タイクソ公爵に真っ先に、教会への予算を削られましたからね!』

常に予算で悩まされているメルダさんは、自室でライスカレーを堪能しながら、ぷりぷり激おこである。


教会敷地内の畑の野菜だけでは、欠食十代の多数の口をまかなえない。


実は今回の遠征も、魔獣肉を期待されていたのだが、蜘蛛系なので『肉』は『収穫しゅうかく』出来なかった。


「なるほど。マスターの許可後デスが、(人造)肉を、定期的にお渡し出来ると思います。

あ、カレーのオカワリも、いくらでもどうぞ~」


ウォーーーー♪


隼執事のその言葉に、若者たちのテンションも『歓喜かんき』にダダ上がりである。


災害避難所で見るような、カプセルホテル位の簡易個室かんいこしつを人数分出す。

今夜は全員そこで、ゆっくり休んでもらおう。


男女別トイレも、多めに設置する。


風呂とかシャワーは......え?

あ、全員が『浄化じょうか』魔法が使えると。


あぁ、遠征では魔力節約の為に、身体とインナーだけ浄化する慣例かんれいなのね。


へ~


ん?


あれ? 俺は......寝てる?


この『夢』っぽい衛兵隊の情報は......あぁ、隼の体験か。


これは、今の状況は......保護ガード・クリスタルの中か......


あぁ、ファザンとやらの一撃を、食らってしまったか~。


サジタリウスのゆみ? ロイヤル・ガード?


へ~


えーと。火器管制レコーダーはと......


あー、反撃シークエンスが出ちゃったか。

うん。強制停止シークエンスを、隼に委ねて良かった。


(恐れ入ります)


(おう、隼。ありがとう。現在の状況は......

[隼と記憶の同期を行う]よしよし、隼、手配は完璧だ)


(恐れ入ります)


(あー。いくつかの武器ウェポンに、使用制限が、かかったか)


(はい。まぁ、今回のミッションでは、適切では無いかと)


(そうだな。解除は地球の『侍』クラウドと、再接続出来たら検討しよう)


(アイサ)


(では、そろそろ起きるとしよう)


(アイサ)


ポーン


猛が収まるクリスタルが、起動音をひとつ鳴らして、ゆっくり立ち上がって行く。


「ワードマン様。マスターが目覚めました。心身共に健康体です。守護を、ありがとうございました」

執事モードの隼が、ワードマンに新たな茶を出しながら、伝える。


「おうそうか!」


「おおう♪寝坊者が、やっと起きるか」

ニーグも嬉しそうだ。ライスカレー入りステンレス・バケツを尻尾で抱え、スコップの様な匙で、ガツガツ食っている。


かぱり。


ハラハラハラハラ


クリスタルが別れて開き、フォトン粒子となり、消えて行く。


「やほー。やられちゃいました~」


うーん


照れくさそうに、背伸びしながら、ヘラヘラ苦笑する。


「なんの!騎士らしい名勝負でしたよ。

敵ながらファザンも 、深紫ディープパープル騎士団の次席として、いい戦いぶりでした」


「うむ。観戦かんせんしていて、血湧ちわ肉躍にくおどったぞ。のう」


龍神ニーグは、自分と同じようにライスカレーをガッツく衛兵隊を、振り返る。


ウォーーーー!


この地域では、感動し心踊らされたら『歓喜』をあげる。


全員が『歓喜』をしめす。


「ありがとう」


猛は『頭を下げず』に満面の笑みをうかべ、礼をのべる。


左目は眼窩がんかにそっておおうハーフミラー・モノクル半透明を付け、

モノクルのハシから『重度のヤケド』っぽい跡や、刀傷がのぞく。


無表情では、隻眼せきがん歴戦れきせん勇者ゆうしゃたる、重厚じゅうこう迫力はくりょくかもしている。


が、元が一流俳優級のイケメンのたけしが笑うと、周囲しゅういなごませ、トキメカせる笑顔となる。


キュン


全員が『強面こわおもて』と『超イケメンの笑顔』のギャップに、ハートを鷲掴わしづかみされてしまう。


しかしまぁ、

ギェンガーや、魔王や、 深紫ディープパープル騎士団の次席との激闘で示された『真の勇者』の絶対強者ぶりを目の当たりにして、

口にはださないが、新参勇者さまには希望と共に畏怖いふも感じていた。


正直、クリスタルに入っていてくれて......気が楽だった。


「......素敵すてき......」


神官女性の誰かが、ポツリと小声でつぶやく。


うんうん うんうん うんうん うんうん


みな、思わず頷いてしまう。


「......そして、こんなにも『太い甲斐性かいしょう』を、御持ちなのよ......

教会人員全員にも、同じ食事を振る舞われたもでしょ?

かなりな金額よ......」


半分以下になっちゃったライスカレーを、寂しい気持ちで眺めながら、リートもつぶやく。


うんうん うんうん うんうん うんうん


「王侯貴族からの縁談が、殺到するんでしょうね~」


「そうでしょうね~」



猛も 軍用アーミー・メストレーを隼執事から受け取り、衛兵隊達の円陣の中にスタスタ入り込み、

そこに出されたキャンプ・チェアーに、自然に座る。


同じ先割れスプーンで、ライスカレーを豪快にほおばり出す。


「美味い!」


えっ?!


衛兵隊全員が、驚く。


これまで王侯貴族との合同作戦もあったが、

大概たいがいは自分達で持ち込んだ、豪華な箱馬車か豪華なテントにこもってしまう。

命令が下知されるだけで、言葉を交わす等は一切ない。


こんな風に『同じ釜の飯を食おう』と振舞ふるま王侯貴族偉い人は、生前のワードマン様を初め、数えるほどだ。


「異世界の食事は、どうだい♪」


「えっ!?......あ、その(モジモジ)とても美味しいです」

隣にいた女子中学生ほどの神官が、食べる勢いを落として、真っ赤に赤面しながら答える。


「良かった。いっぱい食べてくれ。

みな頑張ってくれたね♪ 三日間、御苦労さま。

今日は、ゆっくり休んでくれ」


や!やさしい~!


ジィーン


みな胸に暖かいモノを感じ、三日間の激戦で疲弊ひへいした心がいやされる。


「......あやつは、『前線死線の軍隊』を熟知しておるの」


「はい。将軍以上に、『ひとりひとりの兵のいたわりり方』を、体現されてますな。決して強いだけでは、ありません」


「うむ」


ふぅー♪


美味しかった~


みな、三回くらいお代わりして、腹も落ち着いた様だ。


「ねぇ。この『レモネード』......ポーション入って無い?」

「そうよね! でも、ポーションほどは『重くない』わよ」


「それはね、経口補水液と言って、『たくさん汗』をかいて、外に出てしまったミネラル魔素を補うドリンクなんだ」

猛は、優しく伝える。


「へぇ! あ!......ありがとうございます?」


「えーと......勇者さま。この美味しい『肉』は、なんの『肉』でしょうか?」


「えーと。レプリケート......いや、魔素元素から直接『作り出した肉』なんだ」


「なるほどー。だから臭みも無くて、食べると『魔力』が補充されるのですね」


「うん。色んな味の食材を、これからも出すから、いっぱい食べておくれ♪」


ウォー!


また歓喜が上がる。


そんな猛の態度に、みなの緊張もも和らぐ


「あの、勇者さま」


「おう、なんだい?......君の名は?」


「タム、と申します。あの......」


「うん? 何かな、タム」


「勇者さまの、あの凄い闘技は......流派はどう言うものなのでしょう」


「あぁ。『真円流しんえんりゅう』と言うんだ」


「真円!......流......。トレアドール流とは、違いますね」


「そうだね。昼にワードマンさんと模擬戦して、感じたよ」


!え!模擬戦!?


?何故だろう。男女全員の目の色が、かわったぞ。


(それはそうですよ。あんなに素晴らしい戦いを見せ付けられて、憧れぬ闘士はおりません)


(あぁ~)


大谷翔平に憧れる、野球ボーイみたいな。


「模擬戦が、どうかしたかな?」


「ハイっ!......弟子にしていただけませんでしょうか!」


なるほどね。ちょうど良い。


「いいよ」


「あの!、真円流の秘伝もあるでしょうが、強くなりたいんです!......ワガママかもしれませんが、是非......え?」


「いいよ」


「......いいのですか?」


「いいよ」


あっけらかんと、OKを出す。


「でもね、トレアドール流も真円流も、総合格闘技だね。

あくまで対人戦用であって、『種族の戦力差』ある魔獣との戦いには、向いていない」


......


それを痛感した全員は、肩を落とす。


魔獣一匹倒すのに、ここに居る総掛かりで、やっとだった。


カラン


空になった 軍用アーミー・メストレーに先割れスプーンを置き、隼執事に渡す。


レモネードのタンブラーを、傾ける。


ゴクリ


喉をうるおす。


「そこでだ、その戦力差を埋めるために、全員が『勇者』に、なってもらう」


ニッコリと、宣言する


はい?


いきなり、何を言い出したんだ?


全員の頭の上に、クエッション・マークが浮かぶ。


「......やっぱり『無茶苦茶むちゃくちゃ』なのか?」


カムランは、思わずつぶやく。






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