第24話 隊長の背中





「うりやぁああああ!」




タキタル隊長が、気合の咆吼ほうこうと共に立ち上がる。


チャキ


タキタルは、愛剣をひろいあげる。


「ハァ!」


ブン!ビュン!


愛剣を、無理矢理振るう!


「せい!」


ブン!


愛剣を青眼に振るい、こわばった身体を、

無理矢理振りほどく!


背筋を伸ばし、背中を無理矢理伸ばす。


「ふー」呼吸を整える。


ジャキン


愛剣を、納刀する。


すっくと、立ち上がったタキタル隊長の背中は、

たのもしい。


「王都衛兵隊! 公爵亭に撤収する!

また、公爵様とハナマサ勇者管理局長を、運ぶ輿こしと馬車を手配せよ!」


「「「は、はい!」」」


気合いを入れ直したタキタル隊長の銅鑼声どらごえに、

某然としていた衛兵隊達は目を覚まし、撤収準備に走り出す。


タキタル隊長はディグリー神官長を助け、立ち上がらせる。

「ディグリー神官長。この教会の神官長代理を指名し、教会コアに登録願いますか」


「わかりました……」


ディグリー神官長は頭を振ると、しばし中空を見る。


「公都衛兵隊諸君しょくんは、持ち場に戻れ! 以後は、神官長代理の命に従う様に!」


「「「ははっ!」」」


公都衛兵隊達は、各自の持ち場に向かう。


巨大魔法陣の上には、タキタルとディグリーだけになる。


「…… あら。既に神官副長のメルダを、神官長代理に指名されて居りますは。

つい先程、第一守護天使ワードマン様の権限で」

彼女は艶っぽい苦笑で、タキタル隊長に報告する。


「…… ふむ。第一守護天使ワードマン様が『セルガ様を預かる』と言う事ですな……

龍神ニーグヘッズ様と、あと『聖光剣の勇者』様も」

タキタル隊長は担架に載せられる、タイ公爵とハナマサ勇者管理局長を、横目でうかがう。


「…… はぁ。のち次第しだいは『聖光剣の勇者』様に、全てゆだねるしかありませんね」

ディグリー神官長は『バサッ』と長い睫毛の目を伏せ、

タイ公爵達に見えぬ様、顔をそむけ、どこか安堵あんどした様に微笑む。


「そうですな。『聖光剣の勇者』様は、ワードマン様が認めたおとこですし……

ニーグ様も『彼の子種を所望する』程、気に入られた様子。

この歪んだ世界の『ゴタゴタ』の解説も、受けるでしょう」

タキタルも、タイ公爵達から反対のステンドグラスを見上げ、ニヤリと笑う。


ディグリーも、ステンドグラスを見上げる。

「『聖光剣の勇者』様は、この『ゆがんだ世界』に衝撃を、もたらされるでしょう。

そして、タイ公爵の様に『叩き直断罪して』下さいますは」


「同感です。『聖光剣の勇者』様の『果敢かかん断罪怒り』ブリに、胸がきましたぞ。

存分ぞんぶんに『よどみ、ゆがんだこの世界』を、き回していただきたい」

タキタル隊長はニヤリと笑いながら、期待に顔を上げる。


カッカッカッ


タキタルが足音の方を見ると、気が利く腹心が近付いて来る。


「おう。リーグ曹長、どうした?」


「タキタル隊長。追跡ついせきの手配は如何いかが致しましょう?」


「追跡? 誰のだ?」


「はっ? あの、『王意下知』叛意者はんいしゃセルガ……様のです」

ディグリー神官長の手前、気を利かせ、セルガの敬称に気を使う。


「ほう。では、その『王意下知』の巻物はどうした?」


「あ!」


そうだ、燃え尽きてしまった。

…… 初めての事例だ。


「一度、ディグリー神官長とハナマサ勇者管理局長と王都に戻り、

王宮内閣に問い合わせなければならぬ……

セルガ様側に、第一守護天使様と龍神様と……

『聖光剣の勇者』様が居られるでな。

われ、王都衛兵隊長ごときでは、判断つかぬ」


気の利く腹心は、頭の回転が早い。

並べられた名前を聞いて、顔色を青くする。

「成る程。大軍を動かしても、対抗出来るか判らぬ『絶対強者』な方々でした」


「そうだ、ケイオ。下手につつけば、大都市一つなど、簡単に消える」


横でディグリーも、深くうなずく。


頭の切れるケイオ・リーグ曹長は、焦土と化した大都市を想像出来、ブルッと一つ身をふるわせる。


「了解致しました! …… 御指導ありがとうございます」


「うむ。ではケイオ、撤収を急げ」


「はっ!」

ケイオ・リーグ曹長は姿勢を正し、タキタル隊長に敬意を示し、自分の部隊に向けて走り去る。


くすり

ケイオ・リーグ曹長御気おきに入り、ですのね」

ディグリー神官長は、楽しそうに微笑む。


「はい。将来楽しみです」

タキタル隊長も、楽しそうに微笑む。





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