第20話 龍神の夫
「展望室からでも、遠見魔法が通らない障壁を貼られて居るそうで」
礼拝堂に戻って来たタキタルは、ディグリーに報告する。
「そうでしょうねぇ。魔素量が
まだ黄色の魔法陣を操作しながら、彼女は苦笑しながら返答する。
「あれ?
「神殿
「成る程。 立て続けに無理させましたからな」
「えぇ。神殿コアにも本調子に成って貰いませんと、セルガの現在位置も探れませんし」
ハッ
何かを感じたディグリーとタキタルは、
同時に、天上の大穴の先に見える『
◯ ◯ ◯
「おおーう。派手に吹き飛ばしたの」
屋根上空まで高度を上げた龍神ニーグヘッズは、一目見て苦笑いする。
教会神殿の大屋根の一部が吹き飛ばされて居り、大穴が空いている。
「さっき
セルガさんの『
猛は『
「……なるほど。セルガが、『
龍神ニーグは状況を察し、『それは気の毒に』と言う表情に成る。
『……爆発の勢いまで、召喚しちゃったと……』
ワードマンさんは右手を額に当て、こちらも『沈痛な表情』に成る。
「ううう」
セルガさんが腕の中で、どんどん『小さく』成って行くのがわかる。
「……じゃぁ、その穴から入りましょう」
「あぅっ」
何かに
「……タケシ。『傷に塩を塗り込む』と言う
「……『二度ある事は三度ある』と言う事態は、避けたいですねぇ」
彼女に『巻き込まれた』武良としては、ついディスてしまう。
「『……』」
天然ドジっ子特性セルガをよく知る、龍神ニーグと守護天使のワードマンは、
セルガが『これまで巻き起こした
無意識で、激しく同意してしまった。
「うううう」
セルガは、言い返せない
◯ ◯ ◯
「あれ、
大穴の上空に来て、やっと大穴の規模を実感する。
直径が、野球場の内野ほどは、ある。
神殿大屋根が大き過ぎて、やや小ぶりに見えていた。
「爆発の威力が、さっきの『光の爆発物』と同じなら、建物自体が吹き飛んでおるよ。
通常召喚陣の周りに、障壁を張る。
だから爆発の衝撃は、この太さで真っ直ぐ上に抜けたのだろうな。
だからこの大きさの穴で済んでおる」
龍神ニーグは、苦笑いしながら解説する。
三人は大穴の中に、エレベーター位の速度で、降下して行く。
床から高さ六階分はブチ抜きの、円形大礼拝堂か。
真下の円形の床には、野球の内野位の巨大魔法陣が見える。
光の差し込むステンドグラスを背後に司祭演台があり、
巨大魔法陣を挟んで、信徒が座るベンチが野球スタンドの様に多数並ぶ。
現在は、中世ヨーロッパ型式の全身甲冑で完全武装の兵士達が、多数ひしめいて居る。
天井に空いた大穴から差し込む日差しが、三人の影に遮られたのに気付いたのか、
数人がこちらを見上げ、指差しながら叫んでいる。
「『
セルガさんは打ち合わせ通りに、『異名』で指示してくる。
「セルガ、あの王都衛兵隊はなんじゃ? うん? タキ坊も居るな」
龍神ニーグは礼拝堂の
ふむ。
2/3を占めるブルーグレーの甲冑で左肩が青いのが、王都衛兵隊か。
すると、残りの全身白い甲冑が、この教会の衛兵隊なんだな。
「はい。本日は、白黒ハッキリさせるのです!」
セルガさんは顔を上げ、決意の表情をする。
……龍神ニーグ様の質問の答えに、成って居ないと思うのだが……
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
逆光でよく見えないが、ディグリーの視界に三人の人物が、空いた穴から降りてくる。
ゆっくり降りてくる彼らが、近づいてくると、誰なのか認識できた。
まずは、龍神ニーグヘッズ様 ......あ!左肘から先が無い!
そして、守護天使ワードマン様の気配を感じる。セルガをおまもり頂けたのね。
......セルガは、赤い顔でお姫様抱っこされているが、元気そうで良かった。
......でもセルガを抱いてる、見たことがない全身銀色甲冑の、偉丈夫は ダレ?
......もしかして、召喚時に見た勇者さま? 衣装が違うのでは?
三人は、目の前に降りてくる。
圧倒的な存在感は
銀色全身甲冑の戦士に、あった。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
シールド内部の電子モニターから360度センサーだけ動かして周囲をうかがえば、
大勢ひしめく兵士達の視線が、自分に集中しているのがわかる。
満員スタジアムのピッチャー・マウンドに、立った見たいだな。
地球で過去に大歓声の中、始球式で投げた記憶が一瞬浮かぶ。
優しく、セルガさんを下ろす。
「ディグリー。タキ坊。久しいな」
龍神ニーグは公都衛兵隊集団の先頭に立つ、ディグリーと呼ばれた、
セルガさんと同じデザインの神官服を着たアラフォー美女と、
人族男性としては、欧米人プロレスラーの様に
「恐れ入ります。お久しぶりです......タキタルです」
「お久しぶりです、ニーグ様」
二人は龍神ニーグに、
タキタルは、さり気なく訂正する。
ディグリーは頭を挙げながら、ハッ、とする。
「龍神ニーグヘッズ様、我らの為に
ディグリーは、龍神ニーグの左腕が無い状態に触れ、感謝を述べる。
ガシャ
カシャン
合わせて其の場の全員が、重そうな全身甲冑で、ぎこちなく頭を下げる。
「良い。頭を上げよ。真に巨大魔人を倒したのは我にあらず。
むしろ我を助けて頂いた、こちらの『
龍神ニーグは、『自分の出番じゃ無いな』と油断していた猛の首に、
右手の肘まで掛け、自分の右側巨乳を、武良が
『うわわ』
猛は、情け無い驚きの声を出してしまう。
ちなみに『ヴォイス・チェンジ』を起動しており、自分の声に電子音を乗せ、個人判別を避ける。
フェイスプレートに覆われて居るので、特に心地よくは無いが、左側の視覚が遮られる。
「ディグリー。タキタル。我は『聖光剣の勇者』殿の子種を
「「え!?」」
ディグリーとタキタルの両面は真ん丸に、見開かれる。
ザワザワザワ
大人しく待機して居た衛兵隊員達も、一斉にザワつき出す。
(ワードマンさん。ワードマンさん! 聞こえますか?)
猛はワードマンに向かい、念話を飛ばして見る。
(おや、タケシ殿。念話も使われますか)
(はい。で、教えて下さい)
(はい、どうぞ)
(ニーグ様の『私の子種が欲しい』宣言を聞いたら、皆さんが『ザワつき』だしました。どんな意味が?)
(あ~、つまり…… 『私の夫』と『
(はい?
(えーと…… 龍神ニーグ様と『同格』宣言と、言い換えましょうか。
タケシ殿は『人族なのに龍神と同格』と認められ、龍神の男親(予定)、および夫と認定されました。
つまり『龍神の肉親』として『無条件』で龍神族の加護を受けられる、
(うぉー、なるほど……)
俺は龍神と『肉親
一般人は、龍神に
だから、ここの人類は『俺の意向』には逆らえない、と言う事か?
龍神の宣言は、『切り捨て御免』の様な『治外法権』的な認定か。
メリットとデメリットの比率はどうかな?
(補足しますと、貴殿がどんな『善悪』を行いましょうとも、龍神は貴殿に味方し守ります)
(……
(
この世界の龍神達は『貴殿を優先』に守ります。
なので、人族側として、タケシ殿の意向に逆らえなく成りましたな)
まぁ確かにピンチの龍神を救ったけど、龍神は人類を守ってる訳で。
同格扱いなら俺も『救世主』の頭数だよねー。
魔族退治の責任度合いが、えらく上がった様な……
だから『素顔隠して』正解か。
(そこらへんは、ニーグ様に感謝しないとな)
「よいな」
龍神ニーグは
ははっ
ガシャガシャ
また全員が、一斉に『肯定』の一礼をする。
◯ ◯ ◯
龍神ニーグは、猛の頭を離そうとしない。
この体勢は、無防備で好ましくないが。
『ニーグ様。そろそろ離して下さいよ』
「うん? 人族の『恋人同士』は、イチャイチャするものだろう?」
『これは
断固として、イチャイチャとは言えません!』
うんうんうんうん
周りの衛兵隊達は、無言で頷き合い、猛に同意する。
「むふん。我の男ならば、抜け出してみる良し」
ニヤリと、可愛く?微笑む。
まったく、
ふと、右手一本で抱き付かれている状態では、彼女の左脇や脇腹が無防備なのに気が付く。
ようし。『自分の男』だと言うなら、多少ふざけてやれ。
こしょこしょ
コチョコチョ
「ぐひゃっ、ははははははっ!」
龍神ニーグは、文字通り飛び上がり、高らかに笑う。
ディグリーとタキタルを始め、其の場の全員は『何が起こった?』と、目が点に成る。
「ちょっ! くおっらっ!」
ブン!
一瞬で憤怒と真っ赤にと成った龍神ニーグは、ヘッドロックを解き、
くるりとその身を反時計回りしながら右豪腕を振り回し、
猛をドツき飛ばそうとする。
ひょい
アッサリかわす。
「ぬぅっ!」
ブン!
バシンッ!
怒れる彼女は右豪腕と、ムチの様に尻尾を振るい、捕らえようとする。
ひょい
またも、軽々とかわす。
するり
素早く彼女の背後に回り、彼女の両脇から両手を回し、彼女を拘束する。
「クソっ!」
龍神ニーグは、尻尾を動かそうとする。
ダンッ
遠慮無く、尻尾の先を左足で踏みつけ、押さえる。
「ああんっ!」
彼女は
ディグリーとタキタルを始め、其の場の全員は、気まずそうに視線をそらす。
「いや! あの! おい! タ……いや! 離せ!」
龍神ニーグは自分の上げた嬌声に、更に真っ赤に成りながら、
猛の名前を言ってしまいそうになるが、こらえる。
ふっ
自分のフェイスプレートを少し上げ、彼女の右耳にそっと息を送り込む。
「イッ! ひイヤぁぁん!」
龍神ニーグの両脚はガクガク震え、背後の猛に寄り掛かる様に、
ココも弱いのか。
『ニーグ様。降参して下さいませ…… もう一度、耳に『
ぞくぞくぞく
猛のしぶい低音の声も、龍神ニーグには快感でしかない。
「わかった! まいった! 降参だ!」
猛が両手を離すと、彼女はズルズルと彼の足元にへたり込む。
「あうううう」
龍神ニーグは女の子座りで、子鹿の様にプルプルと
『失礼しました』
ピタリと降ろしたフェイスプレートの中で苦笑しながら、龍神ニーグに右手を差し出す。
ギラリと、龍神ニーグの目が光る。
ブン!
素早く腰を浮かし、尻尾を猛に叩き付ける。
ガシっ
左手で、音速で飛んで来た
もみもみもみ
「あひゃ!ああああっ!」
龍神ニーグの腰と両脚は、再度ガクガク震える。
「くっ!」
ゴウッ!
下半身の
飛び上がった彼女は、右
猛の顔面に繰り出す。
ガシっ!
またもや、右手で軽々受け止める。
もみもみもみ
もみもみもみ
左手の尻尾を、ガンガン×ガンガン揉む。
「ひああいぃあ、あああああっ、ヤメて! やめて! ああぁん! いひぃ!ダメッ!」
龍神ニーグは、またもや
『ニーグ様。まずは落ち着きませんか?』
「何を言う、御前がくすぐった……」
龍神ニーグは、キッと猛を
もみもみもみ
もみもみもみ
「いひゃあぁぁいあ、ああああああ!
あっ…… だめぇ! やめっ!ああっ! わかった! まいった!」
龍神ニーグは、真っ赤な顔で床にヘタり込んだまま、猛に頭を下げる。
(……おい)
(……龍神様の本気の攻撃を……
(……あぁ)
(……あの『
(……すっげぇ……)
(……確かに『龍神様の夫』だ……)
(……龍神様とのイチャイチャって、『ああ』するんだ……)
(……すげぇ……)
(……サスガは、勇者様だ……)
シャープなデザインの
『
そして、この時より『聖光剣の勇者』様の存在は『龍神様より上位』と、この異世界に深く認識されて行く。
一部『龍神ティマー』と言う異名も、
実際に龍神ニーグも、これ以降彼女が
『ニーグ様♪』と猛が彼女に
彼の手が『何かを揉む』様に『もきゅもきゅ』動かされると、
『わっ、わかった!』と『
◯ ◯ ◯
「さぁ、御立ちください。皆さんの話を
龍神ニーグの右手を、優しく握り、引き上げる。
「…… むぅ…… はい……」
龍神ニーグは、微妙に納得行かない表情を浮かべながら、素直に立ち上がる。
にやにや
にやにや
衛兵隊員達は、初めて目撃する龍神ニーグの『しおらしい仕草』に『親近感』を感じ、
ニヤつきながらも生暖かい眼差しを向ける。
甘かった。
じろり
龍神ニーグは、その生暖かい
全員、絶対強者の『強い殺気』を感じ、慌てて龍神ニーグから目をそらす。
こほん
「ところで、この物々しい状況は、どうしたのだ?」
龍神ニーグは、やっと気持ちを立て直したのか、一つ
「
タキタル隊長は、重々しく返答する。
「……
「はい。そちらの、セルガ・W・トレアドール様です」
セルガさんは表情に、一瞬緊張を浮かべる。
「……容疑は?」
龍神ニーグ様は、無表情に問う。
「
この度はセルガ様が、
「セルガ。普通は『神官位』の者が数人で召喚するもの。……貴方一人で召喚するなんて。
魂が飛ばされて肉体に戻れない前例も有ったのに。何故『命をかける』無茶をしたの!」
「……
三年前セセタ村は、先程の巨大魔人に一晩で
昨年はモガ村が…… 更に、魔族魔獣の犠牲者は、毎日の様に出ます……
でも『
それなのに『新たな勇者召喚は禁止』なんて……
でも! 今回! 『
教会神殿はかの巨大魔人に『
新たな勇者様の
「……そうですな。今回の勇者様は『
しかし、王意に逆らった事実は、変わりませぬ」
タキタル隊長は、セルガの熱弁を、無慈悲に断罪する。
「セルガ。早く『我ら』に
真っ直ぐ『ヴォーグ教会
さもないと……」
ディグリーは、セルガ達だけに聞こえる様声をひそめる。
「おっおぉ~う! これはまた派手に、吹き飛ばされましたねぇ」
礼拝堂入口方向から、
「ふむ。歴史ある礼拝堂を『手前勝手』に吹き飛ばしたのだ。損害額は甚大だな」
尊大な野太い声が、返答する。
二人のやり取りを聞いたディグリー神官長の
「タイ公爵様! ハナマサ勇者管理省長!
敬意を払うべき貴族の入室に気が付いた衛兵隊の一人が、大声を張り上げる。
ザッ
ガシャガシャッ
衛兵隊達が、一斉に姿勢を正す。
「なんじゃ、カールにハナマサ。主らも来て居たか」
「龍神ニーグ様。
ハナマサ勇者管理省長はワザとらしい
…… タイ公爵は、『守るのは、当たり前だ』と言わんばかりに尊大な態度でそっくり返り、無言だ。
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