第18話 報奨(ほうしょう)?




「きゃああああああああああ」


コケむした高台の公園?から、へばって居る龍神の紅い髪......と言うかたてがみ? が目視出来る距離なので、

セルガさんが一叫ひとさけびの間に、龍神の目前の岸辺に降り立つ。


しかし、事態は深刻しんこくだった。



「まっ!」

『これは!』



セルガさんとワードマンさんは、何度目なんどめかのあせる表情に成る。


分析アナライズ!)


猛はセルガをそっと降ろすと、無言で分析する。


三又みつまたのピッチフォークが龍神の左前腕を突き抜け、

教会城壁の岸辺地面に、深く食い込んでいるのは一目瞭然いちもくりょうぜんである。


龍神左前腕の3D分析展開図ぶんせきてんかいずとAR表情を、視界内に立ち上げる。


十トン・トラック並の太さの、龍神の左前腕の肘辺りに立つ。


最も深刻なのは、三又のピッチフォークから禍々まがまがしくうごめ瘴気しょうきがグイグイみ出し、

左前腕全体にグングン侵入し、龍神の細胞内を侵食し『魔族細胞』へと、ガンガン『作り変えて』行いってる。


マズいな、程なく龍神の左前腕は、魔神化まじんかする。


更には、左前腕から龍神の体幹に向かって、グイグイ侵食しようとして居る。

つまり、さっきの巨大魔人由来ゆらいの『瘴気しょうき』が、龍神の脳髄まで支配すれば、

さっきの魔人の様な『龍魔神りゅうまじん』が、出現するって訳か。


……『龍魔神』のブレスと対戦って事態は、イヤだなぁ。

何としても、防がないと。


『タケシ殿…… 何かしてます?』


ワードマンさんが、年の功と守護天使の能力で『アナライズ分析』に、気が付いた様だ。


「ははは、まぁ」


笑ってゴマかす。


幸いにして、左前腕の肘前に装着されて居るリングの様な装飾品が、

リングの内径に『前腕の断面図』状に障壁を発生させて、龍神の体幹への侵入を防いでいる事だ。

観察すれば、龍神の全身のあちこちに、同様な装飾品が見られる。

恐らく同様な事態が過去に起こり、その対策の為に作られたのだろう。


(うん。この防衛機構も、この異世界で生き抜く為に、

参考にしよう)

(はイ)


さて、龍神に俺の『診断と治療法』を伝えたいが…… この世界の価値観とマッチするかなぁ。

む! リングの魔力が、減りつつ有る。

ヤバい、リングの魔力切れの前に処置しないと!


「セルガさん。龍神りゅうじん様と至急しきゅう会話したいです。どうすれば?」


「はい! そのまま話し掛けて、差し上げて下さいませ!」


「ありがとう。では、龍神様!」


龍神に向け、案外通る腹からの声で、話し掛ける。


『ガルゥ、グゥ?(ううぅ、何だ?)』


龍神からの『念話』での返答が、脳内に響く。


「龍神様の『左前腕を切り落とす必要が有る』と、私は判断します。

それも、一刻も早く」


キッパリ断定する。


「え!?」


セルガさんは、提案に驚く。


が、ワードマンさんは、納得なっとくの様子で、一つうなずく。


ふっ


龍神の口の端が少し上がり、ニヒルに笑う。


『ググルゥ、ルルルグぅ』

(よい。悪魔素エビル・エレメントに侵された部位ぶいは、切捨てねばならぬ。新参勇者よ、よい診たてだの )


「そんな! 私とワードマン様で、治癒魔法を……」


『グォグォ。グルルリウウ』

(いや、治癒魔法こそ、この悪魔素エビル・エレメントには悪手なのじゃ。

迂闊うかつにかけると魔力を吸収した魔素が、暴走するのじゃ。

それで我は、連れ合いを『龍魔神りゅうまじん』としてしまったぞ。

ほうむり去るも、身も心もすりった )


「…… そんな…… あなた様は……」


『ゴッゴッゴッ、グリュゥム(はっはっは、新参勇者の『腕前』を拝見しようではないか)』


(やべぇ。治癒ヒール魔法の事は念頭に無かったよ。また、この瘴気しょうきは『悪魔素エビル・マナ』と呼ばれて居るのか)

(『悪魔素エビル・マナ』、おさえましタ)


「それで、指や腕の装飾品アクセサリーはどうしましょう? 全て悪魔素エビル・マナに反発出来ている様子ですが」


『ゴルル(よい。任せる)』


「では悪魔素エビル・マナを他に逃さぬ様に、フィー…… いや『結界』を、張ります」


ヴォン


龍神を中心に、フィールドを張る。


『グル(ほう)』


『えぇ。密度が濃い『結界』ですな』


「…… スゴい」


御免ごめん


シャリーン


清亮せいりょうすず音色ねいろの様な、抜刀音が響く。


インベントリ無限収納から、自ら鍛えた日本刀『銀鈴鬼ぎんれいき』を、抜刀する。


リーン


清涼な音色は音叉おんさのごとく、周囲に拡がる様に響く。

特に魔力を通していないのに、その存在は周囲を圧倒し、邪気じゃきを払う。


『ガオ!』(おお!)

『おお!』

「まぁー」


一柱ひとはしらと、一天使いちてんしと、一人ひとりは、その太刀の『凄まじい実力』に気が付く。


猛が以前担当した案件でめぐり合った、なんでもない数打ちの古刀だった。

武器として必要性があったので、その場でレプリケーションし、全く新しい刀へと打ち直す。

邪鬼じゃき破魔はまするすずを有したので、『銀鈴鬼ぎんれいき』と名付ける。


「では、前腕肘寄ぜんわんひじよりのリングから、肘側ひじがわを、切らせていただきます」


『ガウ!(よし、来い!)』

今から自分の腕が切られると言うのに、何故か龍神は『わくわく』して居る様子。


武良は、真円流しんえんりゅう・十一代目惣領そうりょうとして、『銀鈴鬼』を構える。

武士が切腹時、後ろから首を落として『安楽死』させる『介錯人かいしゃくにん』の真剣さで。


「 まいる 」


チャキ


銀鈴鬼を、振り上げる。


きえぃ!


裂帛れっぱくの気合で、銀色の刃筋が、はしる。


シュッ、パッ!


『銀鈴鬼』から繰り出された『斬撃ざんげき』は、十トン・トラック並の大きさの腕を、一刀両断する。

リングのフチから肘側を、一定の厚みでキレイに切り取る。



『ググゥ、ゴロルル』

( 見事だ。腕も剣も際立きわだっている。

御蔭おかげで、たいして痛みもないぞ )


「それは何より」


シャリーン


鈴の音の様な刃鳴りを立てて、銀鈴鬼を納刀のうとうする。


すぐに、インベントリへ納める。


ザバッ


ザザザザザザザザザ


左腕が自由になり、龍神は右手を地面に付き、ユックリその巨体を水中から起こし、岸辺に上陸する。


波が岸辺に、打ち付ける。


シュ~


すると、龍神の巨体は岸辺で、見る見る小さく成って行く。


「あ、あ、あ。(これで、良いかな?)人族の言語をしゃべるのは、ずいぶん久方ひさかたぶりだの」


(うわぁ。さすがは異世界。人類に、モーフィングしちゃったよ。隼、データー取れたかな?)

(はイ。バッチリ。後程検証致しましょウ)


武良の目の前に、真紅髪あかがみ金眼きんがん威圧系北欧美白美女いあつけいほくおうびはくびじょ

『ボン・キュッ・ボン』の豊満な姿をほこらしげに、スラリと長い足で立って居た。


デカい。


身長183cmの猛より、やや視線が高い。


金眼の瞳は爬虫類はちゅうるい瞳孔どうこうの様に、垂直方向すいちょくほうこうに長いたてスリット状になっている。


あざやかな真紅髪あかがみは背中まで生えていて、たてがみの様だ。


人族へ変化した時、全身の龍鱗りゅうりんは、ボンデージ風に変わる様子だね。


で! 上から『ボン・キュッ・ボン』の大事な部分が、人族の美白肌に成っていて『むき出し状態』ナンですけど。


なので現在ヌーブラの様に、貼り付くタイプの上下ビキニ・アーマー(かな?)を、装着して居る。


ビキニ、ちっちぇえー。

豊満巨乳の下乳が、剥き出しじゃん。

ずいぶん挑発的ちょうはつてきな、衣装だな。

ブラジル人女性のマイクロ最小・ビキニみたい……


そして彼女?は猛に向きなおり、キチンと居住まいを正し、こうべれる。


「勇者殿。深く感謝する。われニーグヘッズは、勇者殿の御蔭おかげで命拾いした。この恩は、忘れぬ」


「どういたしまして。御役おやくに立てて、何よりです」


たけしは、サラリと返答する。


「『「……」』」


何故なのか、龍神ニーグとセルガさんとワードマンさんは、無言で武良の表情をジィっとうかがう。


「え? どうされました?」


らんのか?」


「はい? あの…… なにをです?」


そこでセルガさんが、ハッと気が付く。


「あぁ、ニーグ様。タケーシ勇者様は、巨大魔人が現れた少し前に、異世界から御出でになられたばかりです。

申し訳ありませんが、この世界の文化や風習等を、まだ何一つ、御説明できて無いのです。


あの、タケェシ勇者様。

こちらの世では、大きな御活躍ごかつやくをされましたら『御希望のモノ』を一つ、『褒賞ほうしょう』として、受け取れるのです。


今回は龍神様を御助けされました。

龍神様は深く感謝し、その報奨ほうしょうを、下知げちされたいそうです......が」


「……はぁ」


いきなり言われても、勝手知らぬとしては、

要望も何も、なんも言えねぇ。


「そうですよね。『右も左も分からない』のに、何も希望出来ないですよね」

セルガさんは申し訳なさそうに、一礼する。


「ほう! 召喚されてすぐの初戦なのに、彼処あそこまでの戦いぶりか!

最後の、デモンズ・ゲート魔界の門に放り込んだ『光の爆発物』の『とどし』は、見事であったぞ!

……ふぅん」


龍神の金目が細まり、怪しい表情になる。


「どうじゃ? われに御主の子種をくれぬか? おぬしも人族男子なら、今の人族姿のわれなら、欲しかろう」


「はい?」


彼女? はズイと猛に近付き、その豊満威圧系なカラダを、グイグイ彼に押し付ける。


至福…… あれ? デジャブ? どこで……?


ボフン


彼女? は、猛の頭を、正常な右手と肘先までの左前腕で器用に抱え、自分の谷間に押し付ける。


彼の鼻腔は、良い香りで満たされる。

至福…… あ、セルガさんの(たゆん♪)でか。

ふむ。この香りは、オスを発情させるフェロモンかな。


「もちろん他に、褒賞を渡す。なぁ、良かろう?」

彼女? はグイグイ、猛に甘えて来る。


「……」

『……』


セルガさんとワードマンさんは、少々困る。


龍神ニーグヘッズ様が、『強い子孫の卵を産むために』常に『強く賢いオス』を求めて居るのは、分かる。


が……正直、後にして欲しい。


この『大変有能大当たりな勇者様』には、是が非ぜがひでも、味方に成ってもらいたい。

その説明と説得の時間が、欲しい。





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