第16話 戦略的ハニー・トラップ



「! 魔王の右手!? まさか魔王みずから、出て来れるの!?」

さすがのディグリーも、焦る。


巨大魔人クラスまでは、悪魔素デビル・マナの質や量は、研究されて居る。

さすがに魔王と成ると、四百年前の一例しか無い。


それでも被害状況から逆算すれば、ニーグ様レベルの龍神が数柱の束で戦っても、魔王は倒せないだろう。


事実、前回の魔王には龍神ニーグ様の同胞が、数柱倒されてしまった。


( 逆に『龍神の一柱が、悪魔素デビル・マナに侵され、魔龍神として襲って来たのには参った』と

過去に、ニーグ様とサシ呑みの時に、ボヤいて居たっけ )


「まさか! まだ、四百年前の『五国騒乱』の様な濃度の瘴気は、

現在まで、測定されていませんよ!?」

メルダは、魔法陣を読み取りながら叫ぶ。


そう。四百年前ヤーディン大国は、周囲五カ国の主要国を隷属させようと、大軍を動かした。

ヤーディン大国の軍首脳は『一年で終わらせる!』と、大軍を動かした。

もちろん周囲五カ国は連合を組み、抵抗する。


結果、停戦まで五年も掛かる。


当然、ヤーディン大国と五国の国内は荒れ、破壊と死が蔓延まんえんし、怨嗟えんさ絶望ぜつぼう瘴気しょうきの濃度が、高まる。


そしてそれは、、デモンズ・ゲート魔界の門を出現させる濃度となる。



◯ ◯ ◯



『「! 魔王の手です!」』


セルガさんとワードマンさんの声がハモる。


デカい手だ!

あれが噂の『魔王』か!

いきなり『ラスボス』かい!


猛はその『巨大な魔人の手』に非常な嫌悪感けんおかんを感じる。

なので、初手から攻め込む!


「フォトン・ブラスター! 発射!」


ブォン!


先ほどの『龍神のブレス』の、三倍の太さのブラスター破壊光線が、

一基の戦闘ドローンから、放たれる。


魔王の右手にクリティカル・ヒットし、

魔王の右手は、はねあがる!


(威力を、少ししぼろう)

(アイサ!)

(押し返すぞ! 連射!)

(ヨロコンデ〜)

猛の肩は、かくりと少し下がる。



ブォン!

ブォン!

ブォン!

ブォン!

ブォン!

ブォン!

ブォン!



八機の戦闘ドローンから一発ずつ、フォトン光子ブラスター破壊光線を連射する。


ブラスター ニ発目で、巨大な右手はデモンズ・ゲート魔界の門から離れる。

ブラスター 三、四、五発目で、デモンズ・ゲート魔界の門の奥に押し込む。

ブラスター 六、七、八発目で、デモンズ・ゲート魔界の門の奥に、かなりの規模の爆発閃光が見える。



(隼。メテオ隕石・バスター・ミサイルを一本、起爆準備きばくじゅんび


(いつでモ!)


武良の無限収納インベントリから出された、五メートル程の長さのバスター・ミサイルが、武良の頭上に現れる。

そのまま、デモンズ・ゲート魔界の門の中に、マジック・ハンドでヒョイと放り込む。


「次元結紮けっさつ!」


武良のイメージ通りに動く光子の『マジック・ハンド理力の手』を、

デモンズ・ゲート魔界の門となった『次元の裂け目』を覆う様に広げ、

ガシッと鷲掴わしづかつぶす。


ズシュン


(よし! ミサイル、起爆!)

(起爆!なう!)


キカッ


ドッ、ゴンッ!


ズズズズズズズズズズズン


ドドドドドドドドドドドドドドド


押し潰し切れなかった『裂け目のわずかな隙間』から、凄まじい閃光があふれ、震度五位の地響きが伝わって来る。


ミサイルが『向う側むこうがわ』で、大爆発だいばくはつした事がわかる。

魔族ひしめく魔界とは言え、デモンズ・ゲート魔界の門の向こう側は……



◯ ◯ ◯



「...... 前代未聞ぜんだいみもんて、こう言う事を言うのね......

こうもあっさり、魔王の進軍世界の終わりを、ひねり潰すなんて」

礼拝堂の大窓から一部始終を目撃していたディグリーは、

ぐったりと疲労困憊ひろうこんぱいした表情で、思わず呟く。


「只今の光の爆発の威力は、先程魔法陣の障壁を辛うじて通過した『勇者様の光爆裂弾』と同じ威力ですのね......

勇者様からであろう『聖なる光線』も、一線が龍神ニーグ様のブレスの威力を、はるかに越えています」

副司祭メルダの顔も、ぐったりと青い。


「...... 恐らくは、デモンズ・ゲート魔界の門の向こう側の『魔界』は、甚大な被害を被っていますな」

タキタルは少し、気の毒そうな表情を浮かべる。


「...... そして、何気に聖なる光線を『連発』したはよね......

勇者様は何発、連発出来るのかしら?」

仮面のような、美しいほほえみを浮かべるディグリーの右眉毛あたりが

かなり強いストレスを受けて、ピクピク痙攣を起こしている。


龍神ニーグ様のブレスは、二連発したら五分程『回復時間』が必要なのだ。


つまり、ブレスを連射できうる新参勇者様は、

龍神様より、圧倒的に!強い。

ヤーディン大国を含むこの大陸では、これまでは龍神が、絶対強者だったが......



世界の終わりの危機が、去った事を肌で感じたディグリーは、安堵すると共に、

桁外けたはずれな絶対強者な新参勇者様への、今後扱い方を懸念する。

確実な事は、新参勇者様は、ヤーディン大国軍なぞ片手間で全軍を殲滅せんめつできると言う事実だ。


「新参勇者様への御対応の注意喚起の回覧書を、教会全てに回さないと!

少なくとも、龍神様レベルの御対応を要請しなくては!

御対応を間違えれば、国が滅びるはよ!」


「......セルガ様ならば、天然で新参勇者様を認め、素直に敬愛けいあいされるでしょう。そこにけるしか......」

副司祭メルダも、ディグリーの懸念けねんは、理解出来る。


つまり天真爛漫てんしんらんまんなセルガが、新参勇者様の実力を素直にたたえる事で、

新参勇者様とセルガが『情』をわす事で親しくなり、セルガが組するヴォーク神教側に、味方して頂くのだ。

戦略的、ハニー・トラップと言うわけだ。


「...... メルダ。流石さすがね。そうだは。全てセルガの『天然(のハニー・トラップ)』に、任せるしか無い様ね」

ディグリーは教義妹セルガをややディスりながら、やっと苦笑いを出すことが出来た。



(……見事な敵への『止めの刺しブリ』…… 今度の勇者様は、歴戦の戦人いくさにんの様子…… 気を引き締めねば)

教会の窓から新参勇者様一連の戦いブリを、つぶさに観察していた王都衛兵隊隊長タキタルはタキタルで、

名も知らぬ新参勇者を、そう心の内で高く評価する。





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