第14話 初魔人3「無茶苦茶だ!」



たけしはその場から微動だにせず、

ホームランを確かめるバッターの様に、残心を取る。


上空に丸く空いた雲間から、天使の梯子てんしのはしごの柔らかな陽光ようこうが降り注ぎ、

武良自身と手にする漆黒しっこく六角柱ろっかくちゅう八尺棒はっしゃくぼうを照らす。


その黒光りくろびかりは、異様いよう迫力プレッシャーとして、公都のかなりな広域から確認出切た。


ドッ、ガッボォーーン!


かなりな高密度の質量に吹き飛ばされ

高く中に舞っていた巨大魔人ギェンガー巨躯きょくは、

ようやく頭から水面へ飛び込む。


高い水柱が立つ。



ザバザバザバ!


『ブバァ! フザケおって!』


巨大魔人ギェンガーは激しい怒り顔で、生首の様に首から上だけ水面から出す。


ザバザバザバザザザザー


巨大魔人ギェンガーは三又ピッチフォークの石突きを湖底に付き、

つえにしてヨロヨロと気だるそうに、その巨体を立ち上がって来る。


自然と彼の視線に、三又ピッチフォークの歯先が入る。

......歯先は一つの又間を中心に、拳を握った様に内反して曲がって居る。


実は、この三又ピッチフォークは巨大魔人ギェンガー自身の強い魔力を込めて作り出レプリケーションされた、自慢の業物だ。

そうそうのパワーが加わらなければ、こんな風にひしゃげて曲がらない。

つまり、この蝶のごとく小さい新参勇者は......


『......ふん! なかなかに、ヤルではないか!......

だが!オマエの獲物黒い棒の、異常な重さはナンだ!』


「ほう。気付いたか。コレ黒い棒は、ブラックホール......う?」


(たぶんこちら異世界では、宇宙空間の概念がいねんとかは、まだ無いよなぁ......)


そう言う『一連いちれんの物理学』をどう説明したものか、しばし戸惑とまどう。


『ぶらっくほーる? ナンダそれは?』

「あ〜、すまんが俺は、こっち異世界に来てから一刻も経過していない。こちらの言語にまだ慣れていない......何と言うか......」


(巨大な質量=重力と言う観点かラ、

星......と言うカ、大地の力と言う説明は如何でしょウ)

脳内アプリ戦術管制せんじゅつかんせいAI はやぶさが、脳内会話で進言しんげんする。


(なるほど。どちらも質量と重力が関係するしな)


「え〜、この黒い棒は、大地の力を『応用』して居る。

まぁ、御前さんは大地に殴られたと理解してもらおうか」


『......わからぬ!』


「バッサリとスルーかよ!」


『フンッ! 御主おぬしが大地の力を使うと言うなら、その大地を割ってやる! 教会ごと、地の神マグマに飲み込まれるが良いわ!』


ザバザバザバ!


巨大魔人ギェンガーは威嚇しながら全身を、禍々まがまがしく紅い魔力に輝かせ、フワリと中に浮かぶ。

その紅い魔力は聖湖に向かい、降り注ぐ。


(!紅い魔力エナジーハ、真っ直ぐに地下深くに向かって居まス!)


隼が、脳内でわめく。


(地の神って......マグマか! このみずうみの底から活火山を築き上げ、熱い溶岩を噴き上げる気だな!)


そんな事態になれば教会建物はおろか都市そのものが、無限に湧き出る溶岩に呑み込まれるだろう。


「やらせん!」


フッと、たけしは消える。


巨大魔人ギェンガーの左頬に、右腕を振りかぶった態勢で現れる。


ドゴン


巨大魔人ギェンガーの巨大な左頬に止まろうとする、銀色の蝶に見える、猛の小さな右フックが入る。


「ゴワッ!」


ギュルルル!


凄まじい右フックを喰らった巨大魔人ギェンガーは、妙なうめき声とともに竜巻の様な勢いで、その巨体が反時計回りにブン回り出す。

禍々まがまがしい紅い魔力は、たちまち四方に霧散むさんする。


ドッパーン!


巨大魔人ギェンガーは、その巨体をキリキリ舞いさせながら、再度高い水柱を上げて聖湖に沈む。


『ブハァ!ぐはぁ!......滅してやる!すべて消し去る!』


ザザザザザザ


巨大魔人ギェンガーは、すさまじい憤怒ふんぬの表情で、中空に飛び上がる。



ガオオオオオオオオーーーーン!!



ギェンガーは、咆哮をあげる。



如意にょい!」



猛が手にしている八尺棒が、ぐわっと巨大化する!


ちょうど、ギェンガーと同じ倍率だろうか?

ギェンガーが持ちやすいかもしれない大きさだ。

が、猛の両手にも、八尺棒の残像?が見える。


猛が八尺棒の残像を、棒術のにように振り回し始める。


ブォン!ブンブン!


すると猛の真上に浮かぶ巨大化八尺棒も、

猛が操る残像の八尺棒とシンクロして、

動き始める。

いや巨大な質量が、

凄まじい勢いで振り回され始めた!


ギェンガーは一瞬で冷静になり、右手を挙げる。


バチッ!


その右手に、巨大なハルバートが現れた。

漆黒で、凄まじい重量感だ。


猛は棒術の構えを取り、ニヤリと微笑む。


たのしませてくれるかな?」


「お主......本当に勇者か?

どこぞの傭兵崩れではないのか? 戦になれすぎだ!」


猛は、苦笑いする。

「案外目利きだな。まぁ、そんなところだ」


ブォン!


巨大八尺棒の凄まじい質量を、

猛はギェンガーに叩き込む。


ドゴン!


「ぐぅ!」


ハルバートもなかなかの業物だ、しかし、

ギェンガーは、腰砕けになる。


(押し負けている!)「なんだその質量は!」


「だから、大地の力だよ(知らんけど)」


ブォンブォン、ゴゥッ!


凄まじい重量物が聖湖の水面の上空を、

縦横無尽じゅうおうむじんに、う。


ガキン!


ドゴン!


ギェンガーはハルバートを操り、何とか巨大質量の猛攻をしのぐ。


しかしハルバートは、見るまに歪み始めてゆく。


「無茶苦茶だ!」

ギェンガーは、思わずボヤく。


ドゴン!


魔人理不尽には、言われたくないな」


猛は棒を叩き込みながら、苦笑する。


「ええい!」


分が悪いと思ったギェンガーは、再度紅い魔術を、

湖底に撃ち込もうとする。

火山を噴火させて、戦場の基盤をひっくり返そうとする。

最初の紅い魔術で、溶岩マグマ層は浅い所まで上がって来ている。


「させん!」


フォトン・ソード!


猛は迷い無く、右手を高くかがげ、

フォトン・ソード光子の剣を、強くイメージする。



きらり



猛の右手に、青白く清涼に輝く双刃そうばつるぎあらわれる。





フォトン・ソード光子の剣は、彼の右手から消える。



きらり



フォトン・ソード光子の剣は、巨大魔人ギェンガーの目の前に現れる。



そのつるぎ清涼せいりょうで強い青白い輝きは、公都に所在する者全員の目にとどく。



◯ ◯ ◯



「この...... 輝き...... いえ、

こんなに膨大な聖魔素がギュっと集約された聖剣って......」

副司祭メルダは、優しく温めてくれる

陽光の様な輝きに、思わず見とれてしまう。


「そうね...... 先程の聖魔素の炸裂弾? どころでは無い聖魔素量ですね......

巨大魔人ギェンガーの悪魔素など、少なく感じてしまいます」


ディグリーの中で、今度の勇者様は

『史上最強で、圧倒的に強い』と、確信に変わる。



「おう! これが新参勇者様の『聖剣』なのか!?

こんなにも、強く暖かい輝きは…… 初めてだ……」


ぶるっ


魔法の素養が乏しいタキタルでさえ、

何かを感じ取り、一つ震える。



◯ ◯ ◯



「おばあちゃま♪ すっごーい、キレイよ♪」


真上に現れた、強く優しい青白い輝きに、幼女は思わず輝きに手を伸ばして微笑ほほえむ。


「……本当だねぇ。なんて御優おやさしい光……」


美熟女の恐怖は、少し和らぐ。



◯ ◯ ◯



『ふわっ、ははははは! こんな小剣で、我を倒すと言うのか?。片腹痛いは!』


巨大魔人の高笑いは、公都全域に響く。



猛は、一つ肩をすくめる。


「では、フォトン・ソード光子の剣威力いりょく、その身でとくと味わってもらおうか」

『仕方ないなぁ』と言う表情で、ニヤリと悪い笑顔をする。


ズドンッ!


『ぐはっ!』


光の双刃剣は、呆気あっけなく巨大魔人の鳩尾みぞおちに、突き刺さる!。


フォトン・ソード光子の剣の輝きは、すっかり巨大魔人の体内に隠れる。


巨大魔人は、少しうつむいたままふるえ、動きを止める。


『グフッ! ぐおおおおお! ぐああああああああ!』


突然、もだえ出す。


『あがががががが! があああああああ! がっ!』


巨大魔人は、大きな口で絶叫し、天をあおぐ。


カッ


巨大魔人の両目、その鼻、口、両耳などの『全ての穴』から、

溢れんばかりの強く青い輝きが、噴き出し始める。


『あああああ~ うわああああ~ 』


情け無い声を上げながら、全身のあちこちが『破れ』、強い輝きが『破れ』から漏れ出す。


巨大魔人は、内側で輝く強い光に、内側から燃えて行く。


ズズズズズズズズズズズ


巨大魔人の鳩尾を中心に、巨大な体躯をも吸い込む、巨大な光の渦巻きが起こる。


ドドドドドドドドドドドドドドド


震度四位の地響きが、起こる。


内側からの光に燃え、崩壊し始めた巨体は、

光の渦巻きに吸い込まれて行く。


『ぐああぁあぁぁ! まさか! これ程までの……』


ファサッ


光の渦巻きが小さく消えると共に、巨大魔人も、跡形あとかた無く消え去る。



◯ ◯ ◯



「…… おばあちゃま。あんなにおっきな『まじん』が…… きえちゃったぉ……」


幼女は、両面を見開き、素直に驚く。


「…… す、すごい……」


すっかり晴天せいてんになったさわやかさに、美熟女の胸から、恐怖が消えて行く。


「おばあちゃま♪ こんどの『ゆうしゃさま』って、

ほっんとーうぅに、おつよいのね♪」


幼女の瞳は、きらきら輝く。


「そ、そうね! 今度の勇者様って、

『本当に強い』んだね」


余りの安堵に、ポロリと涙がこぼれる。

同時に、強い『希望』が、湧いて来る。







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