第13話 初魔人 2





三番砲塔の出入口からアリつぶの様に、

砲員がワラワラ出てくる。

砲塔が案外大きくて、人々がミニチュアの様だ。



障壁再起動シールドさいきどうに三十秒!」

代わりに立ち上がった魔法陣を一瞥した副司祭メルダが、叫ぶ。


チカチカ


ディグリーのそびえ立つ谷間に埋もれる

ペンダントの一部が、チカチカと青色にまたたく。


龍神ニーグ様! おいでになられたは!」


ディグリーは、弾ける笑顔で叫ぶ。




◯ ◯ ◯




『しまった! 再障壁!』


ワードマンさんは、慌てて自分の目の前に魔法陣を一つ立ち上げる。


真っ赤で、動きが無い。


『ぬぅ! 神殿コアが過負荷で固まっている! 再障壁に三十秒か!』


ワードマンさんは、あせる表情になる。


巨大魔人は、障壁が無くなった城塞砲塔じょうさいほうとうに向け、

無慈悲に三又のピッチフォークを振り上げる。


教会の城塞砲塔じょうさいほうとうから、

慌ててまわる衛兵達が、

右往左往うおうさおうして居るさま

遠目とおめから見える。




( なにか撃つか?

隼!フォトン光子・ソードを……)


武良は、自分の武器を起動しようと......



ブオオオオオォン!



そこに、凄まじい太さの破壊光線ブラスターが、教会建物の裏側から到達とうたつする。


『おうっと!』


巨大魔人は、デカイ図体ずうたいに似合わず、素早い動きでけ、

破壊しようとした城塞砲塔じょうさいほうとうから跳び下がる。


「あ! 龍神りゅうじんニーグヘッズ様!」


「龍神!?」


「はい、タイ・クォーン教会守護神しゅごしんの、御一柱おひとはしらです」

セルガは、嬉しそうに微笑む。



ガオオオオオオオオン




なるほど。


巨大魔人に負けない大きさで、

頭から背中までの『真紅のたてがみ』が美しい西洋せいようドラゴンが、

凄まじい咆哮ほうこうを響かせながら、教会建物をかばうように飛来ひらいする。


これなら、俺の出番は無いかな?


(ふむ。一応『フォトン光子・ソード』を準備。

情勢によっては、飛び込むぞ)

(了解)



◯ ◯ ◯



『ふん! 力押しの老害ろうがいめが! これはどうだ!』


巨大魔人は三又のピッチフォークを、いきなり湖面スレスレに投げる!

標的は…… 教会建物の中心部だ!


ガウッ!


教会の真上に浮いて居た龍神は、反射的に左腕を下げる。


ドゴンッ!


ゴアアアアアア!


三又のピッチフォークは龍神の左前腕を貫き、湖側教会城壁の岸辺地面に、深くけた!


ドッ、バッシャン!


龍神の身体は下向きに縫い付けられてしまったので、下半身は湖水面に飛び込む。

龍神ブレスを吐く口も城壁に向かい、口の向きを制限されてしまう。

真紅のたてがみが美しい無防備な背中が、巨大魔人にさらされてしまう。


『ガッハッハッハ! 今宵は貴様の魔石をさかなに、美味い酒を呑もうぞ! ガッハッハッハ!』


ジャキン


巨大魔人は、新たな三又のピッチフォークを呼び出し、ガラ空きの龍神の背中に向ける。


「あぁっ! ニーグ様!」


セルガさんは、両手で自分の頬を押さえながら、なげき叫ぶ!



◯ ◯ ◯



「「「ニーグ様!」」」


礼拝堂から聖湖を一望できる大窓いっぱいに、龍神ニーグの絶対絶命の様子が見て取れてしまう。

全員から、嘆きの叫びが出てしまう。


タイ・クォーン教会が最後の頼みの綱、

『守護龍神ニーグヘッズ』が倒されてしまったら、

巨大魔人ギェンガーの侵攻しんこう虐殺ぎゃくさつを止められる者は......いない。


「城塞砲どうした! 数を撃て! 少しでもニーグ様を手助けせよ!」



○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○



ドンドンドン


パパパパパパ


花火大会の様な音とともに、巨大魔人への着弾数は増える。


が、巨大魔人は気にもせず、ギラリと輝く三又のピッチフォークを振りかぶる。



( 行く!)



ド ン



ピッチフォークを振り上げ始めた巨大魔人に向かって、

ノーモーションで急に、大空へ飛び出したたけしは、

一瞬でベイパー・コーンと呼ばれる、白い雲霧うんむに包まれる。

 地球のジェット戦闘機が、低高度にて音速おんそく突破時とっぱ時に、機体周囲に発生する雲霧うんむだ。



(隼。BブラックHホール合金アーロイの、『質量リミッター』を3%ゆるめよ)

(完了。いつでモ)



ジャキン



たけし音速おんそくで飛びながら、

異様いよう迫力プレッシャーかもし出す、

漆黒しっこく六角柱ろっかくちゅう八尺棒はっしゃくぼうを右手に出し、片手で持つ。


巨大魔人は躊躇ためらいも無く、龍神の硬いウロコのをブチ抜く為に、

龍神の背中に向かいピッチフォークを振り下ろし始める。


猛は躊躇ちゅうちょ無く、龍神の背と巨大魔人の間に突入する。


しかし巨大魔人からすれば、視界に小さなちょうがヒラリと、小さく舞い込んだ様な感じだ。

特に気にも止めずにピッチフォークを、龍神の背に思い切り振り下ろす。


猛はその場で自分の身をクルリと反時計回りさせ、

異様いよう迫力プレッシャーかもし出す、

漆黒しっこく六角柱ろっかくちゅう八尺棒はっしゃくぼうを、振り回す。


彼がが狙う一点は、(三又ピッチフォークの、又間を打つ!)




ドッ、ゴオォオオオオンン!




巨大魔人ギェンガーは、高速で走行して来たトラックに、

いきなり、はね飛ばされた人間の様に中空に高く舞上がり、

聖湖中央に向かい、軽々と飛ばされる。


巨大なピッチフォーク質量漆黒八尺棒質量の激突し合った一点からの強大な衝撃波は、

360度周囲へ球体状に波及する。


真上まうえの雲は円状に割れ、

真下ました水面みなもも円形に波が立つ。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


震度6以上の強い揺れが、異世界の大地に響き渡る。



○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「この地揺ぢゆれれの原因は何?!」


王都神官長ディグリーは激しい地震に、強く主張する双丘はれ、

足をもつれさせながらも、目の前に浮かぶ魔法陣に視線を向けながら叫ぶ。


「分かりません!」


タイ・クォーン教会副司祭メルダは、これまた足をもつれさせながら、魔法陣を操作しながら叫び返す。


「......おそらくは......」


王都衛兵隊隊長タキタルは、彼の巨体にまかせて足を踏ん張りながら語り出す。


「巨大魔人ギェンガーの三又ピッチフォークと、新参勇者様の武器との、激突げきとつ衝撃しょうげきかと......」


ディグリーやメルダや、その場に居る衛兵隊員達は、目を向く。


巨大魔人が通常の人間の大きさとするなら、

比べれば新参勇者様は、ちょうであると言えるほどの体格差たいかくさだ。

誰がどう考えても通常は、蝶が吹き飛ばされるハズ。


しかし......結果は逆だ。


タキタルの武人の目は確認した。

新参の勇者様は激突の瞬間、微動だにしなかった。


「......おそらくは、新参勇者様の手にする武器や武具は、

見かけ通りでは無いかと......

後ほど勇者様御自身に御確認させていただく他はありませぬが......

つまり新参勇者様は『都市壊滅級』巨大魔人ギェンガーをも、片手間で制圧出来ると確認出来ましたな......」


タキタルは感情の消失した目で、力無く苦笑する。


はぁ


「......義妹セルガよ。そりゃあ『かつて無い強さの勇者様』だったわよ......

でもね、何て御方絶対強者召喚しょうかんしてくれちゃったのよ......」


......これで王室執務省おうしつしつむしょう大臣達や官僚達ヤツらは、

新参勇者絶対強者様を新たな『王室から、政権を奪える者』と認定して大慌てだはね。

......『誰』が新参勇者様絶対強者に『猫の鈴シビリアン・コントロール』を付けに来るのかしら?

......手っ取り早いのは、新参勇者絶対強者様の暗殺よね......無理だけど......

......また新たな『人族同士の争い問題』が、ひとつ増えるのね。


ディグリーは、深いため息の後に、新たな暗躍あんやく事項が増えそうな、イヤな予感にボヤく。

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