第6話 彼らの名は

2X22年四月八日 日本国 午後三時過ぎ 関東平野上空の衛星軌道上



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



巨大な人造構造物じんぞうこうぞうぶつが、大気圏内を操舵不能な速度で暴走する。


空気摩擦くうきまさつでプラズマ大火球だいかきゅうに燃える巨大隕石ディープ・インパクトのごとくかがやき、落下軌道計算上、関東平野に向かいちてく。


その構造物は、その昔地球の七つの海を『わざわざ』数ヶ月掛けて世界一周の航行をたのしむ豪華客船ごうかきゃくせんの様な、惑星間超巨大豪華旅客宇宙船『ホワイト・コメット白い彗星』だ。


宇宙船の船体は、全長500メートル強。全高と全幅に150メートル強を有し、乗客二万人強を余裕で収容しゅうよう出来る。


この『質量』が、この速度で東京都庁に落ちれば、都庁を中心に関東平野をスッポリ飲み込むクレーターが出来るだろう。




○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○




地球人が太陽系内惑星間わくせいかん衛星軌道えいせいきどうに次々と、惑星開発わくせいかいはつ資源採掘者居住しげんさいくつしゃきょじゅう用スペース・コロニーと採掘資源運搬用さいくつしげんうんぱんよう宇宙うちゅうエレベーターを建造し、各惑星の資源を活用し始めて、ほぼ10周年を迎える。


各惑星のスペース・コロニー間を航行する旅客船や運搬船は、四桁を数え、毎日めまぐるしい運行ダイヤで運用されて居る。


超巨大宇宙旅客船うちゅうりょきゃくせん『ホワイト・コメット』は 役半年間の太陽系内惑星観光旅行を経て『月面観光基地ルナ・パーク』に一時寄港した。

ルナ・パークに滞在してパークを存分に楽しんだ乗客や、格惑星基地から地球に帰還する乗客を満載し、地球上の宇宙うちゅうエレベーター国際宇宙港『JFKネオ』に向かい、航行していた。


本来ならば外宇宙速度から減速するための、地球大気圏外減速ルートを一周し、眼下の美しい地球を楽しみながら、宇宙うちゅうエレベータ宇宙港に向かう予定であった。


しかし減速ルートに入ろうとした瞬間、レーダーにも見えない『何か』と激突し、外宇宙速度のまま大気圏内に突入してしまった。



○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○



高級ホテルの様に豪華で、清潔感あふれる個室に

大ぶりなソファにお腹の大きい妊婦さんが、ゆったりと座っている。


大きくなった自分のお腹を、両手で優しくなでる。

幸せそうに、ほほえんでいる。


ほほえむ彼女の横には、同様にほほえむ同世代の男性が座っている。


『で。体調はどうだい?』

「ありがとう。とても安定しているは。そして病院ここも、とても安らげるの」

『良かった』


男性の声は、合成音っぽい。

どうやら男性は、遠方からの3D立体映像のようだ。


コンコン


「どうぞ〜」


「失礼します......あら、対話中でしたのね。後にしましょうか?」


「いえ、高畑先生。ちょうど良いですは。主人にも、お腹の赤ちゃんの経過を一緒に聞いてもらいたいし」


『はい。是非お願いします』


「では、お邪魔しますね」


産婦人科医の高畑久美子は、にこやかに入室していく



○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○



高畑久美子医師は午後の回診を終え、総合保育所にいた。


彼女のまわりには、いくつもの赤子の3D映像が浮かんでいて、診察データを元に赤子ごとの処置の指示を打ち込んでいる。



カラーン コロン



「え?緊急呼び出し!?......が来たは。トガさん、後ヨロシク♪」


高畑久美子は 言うや否や、性別もわからない赤子が入った保育カプセルが、Amazon配送センターの様に高い天上までぎっしり詰まった壁を離れる。


その壁は、蜂の巣の中の様だ。


ひとつ一つの保育カプセルは、ゆったりとした動きのマジックハンドで、優しく運ばれている。


高畑は棚から離れ、同僚に声をかけながら出入口に向かって歩き出す。


「はあぃ!久美子クミさん、 がんばってね♪」


「ありがとう♪」廊下に出ながら答える。


彼女は保育室を出ると、二車線道路くらいある廊下をズンズンと早足に歩く。


廊下の突き当りの壁に、通常の非常ドアが見える。


「緊急オープン」


ガコン


高畑の声に反応した、非常ドアが自動で開く。


ガコン


彼女が内側に入ると非常ドアが、しっかり閉まり再ロックされる。


非常ドアの向かいの壁にも、ドアがある。

そのドアの前に立つと......


ガコン


そのドアが開くと......眼下に、高層ビル群の摩天楼が見える。


ここは東京湾人工島に建造された、宇宙うちゅうエレベーター基礎部の高層階の総合医療地区だ。

スカイツリーより、高そうだ。

エアロック形態の非常口の高さは、千メートルはゆうに超える。


彼女はためらいなく、その開いた非常口から、摩天楼ビル群に向かい身を投げる。


さむらい


高層階から真っ逆さまに落ちて行く彼女の全身は、光り輝く。

光が収まると、全身は白いボディスーツに包まれ、頭部は金魚鉢の様な透明のヘルメットに包まれている。


「テナ、現場へ!」

『かしこままり〜』


ドンッ!


落下方向から、上空に向かいギュンとベクトルが変わり、すさまじい急上昇が始まる。


ボヒュン!


薄曇りの雲を、音速で突き抜ける。

あいた雲の穴から、ひとすじの天使の梯子が、ふりそそぐ。



○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○



カラーン コロン


東京都渋谷区渋谷駅近くの渋谷ストリーム高層階のオフィスで、VRチェアに横たわりメタバースに接続して仕事をしていた『侍』デニス・カーマインの、脳内アラームが鳴る。


いつもは自宅リモートかワーケーションをしているが、今日は渋谷で会合があるので、『侍』のオフィスで仕事をこなしていた。


見渡せば、周りの『侍』達も、顔をあげて緊急事態内容を確認している。


いま動ける『侍』は、次々と立ち上がる。


デニスも現在の仕事の残りは、AIに代行させられるので、立ち上がる。


立ち上がった『侍』達は部屋の端の『転送ゾーン』に入って行き、次々と輝きながら『消えて』ゆく。


デニスも、転送ゾーンへの列に並ぶ。



○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○



『メイディ、メイディ、メイディ』


豪華客船ホワイト・コメットの航行管制AIラークが、柔らかな電子音声で、むなしく『メイディ』を繰り返す。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



「落ちる一方なのかっ!?」

「きゅ、救助隊は!?」

「おい! この救助カプセルは、射出されないのかっ!?」


『何か』と激突直後、すみやかに乗客全員が脱出カプセルに収容された。


もちろんカプセルに大気圏突入性能はあるが、現在の凄まじい速度で射出すると、大気圏内で燃え尽きてしまう。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「ああああああ! 駄目だぁ! ここで死ぬのかっ!」

「クソぅ! 成美婚約者ぃっ!」


乗客全員が自席の安全バブルフォーム泡状衝撃吸収材で全身を固定されて居るので暴動は起きないが、多数の大人が死の恐怖で泣き叫ぶ。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「あぁ。正兼あなた、死ぬ前に一目逢いたかった...... 」

一人の日本人女性が、右手に幼い男の子をシッカリ抱き締めながら、はかなげになげく。


「...... まま...... ぬのって、いたい?」


母親は愛息あいそくの素直な問いに、絶句ぜっくする。

晴人はるとは来月で、やっと三歳だ。

利発な子で、自分脳内の学習インプラントA.Iと交流して居る内に、いつの間にか『読書』を覚える。

たまに息子の『読者経歴』を見て、驚かされる。

おきにいりの絵本に混じり、小学校高学年向けの書籍も混じり始めた。

愛息あいそくの将来が、楽しみだ。


それなのに、こんなところで......


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


(『身に危険な何か』に巻き込まれたら、これを開封しなさい)


なんとか愛息あいそくを助けたい母親の、走馬灯そうまとうが渦巻く脳裏に、ある男性からの言葉が思い浮かぶ。


そうだ! 高羽たかば叔父おじさんにもらった御守おまもりが!

旅立つ前に、『さむらい』高羽叔父さんが、ごく普通の『交通安全』の御守りをくれた。


そうよ! いま使わずに、いつ使うのよ!


バブルフォーム泡状衝撃吸収材内は、ゆっくりとした動作であれば姿勢を変えられ、子供の世話も出来る。


母親は御守りを入れたポーチに、じれったくもゆっくりと手を伸ばす。

ポーチを探ると、すぐ御守りは見付かる。

すぐさま開封する。


ポーン


次元通信が繋がったチャイムが鳴る。


『遅いぞ早苗さなえ。民間組織『侍』は、『自発的救助要請じはつてききゅうじょようせい』を受けないと、動き出しづらいのだから』


「あぁ! 高羽叔父さん! 助けて!」


『晴人も無事か? 『侍』救助隊は、そちらを目視してる! もう到着する!』


「はい! 晴人も無事よ!」


『わかった♪ まかせろ』


母親は、利発な息子に話しかける。


「よかった! 『侍』さん達が必ず助けてくれるは! 晴人。貴方はまだ死を考えるには早いは。ちゃんとお家に帰りましょう。そして沢山、好きな絵本を読んで上げる」


「わぁい♪ ままが、ほんよんでくれるの、いちばんすき♪」

晴人は飛び切りの笑顔を、母親に向ける。



○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○



『こちら『侍』救助隊! 救助要請を受け、貴船を救助する!』


「「「「「うおおおおおおおおお♪」」」」」


突然の救助の連絡に、わらをもすがる思いで乗客達は歓喜する。


船の外には、空気摩擦のプラズマ光にあつかがやく船の周りに、一人ひとりが全身青白ぜんしんあおじろかがやきを放つ、全身白い戦闘服バトルスーツ姿の、数十名の白い『侍』制服の男女達が飛び回って居る。


彼らは、『さむらい』と総称そうしょうされる『人造超人マンメイド・スーパーマン』達である。


そして人造超人マンメイド・スーパーマンさむらい』達が所属し、世界で民間平和維持活動Private Price Keeping Operation、略してPPKOを行う民間平和維持軍Private Peace Keeping Forceを、PPKF『サムライ』と総称されている。


そう。『さむらい』は民間団体だ。

しかし現在『侍』に、地球上で勝てる『戦闘集団せんとうしゅうだん』は居ないので、民間団体のままで問題ない。



◯ ◯ ◯



高羽たかばだ! 戦術AIの出すタイミングで、全員で持ち上げるぞ! それでキムさん! ホワイト・コメットと衛星軌道上えいせいきどうじょうで激突した、アーカ特殊部隊とくしゅぶたい実験船じっけんせんの救助は?』


ベテラン人造超人『侍』の高羽が、半透明のフェイスプレートの中で叫ぶ。


どうせ『侍クラウド』の脳内通信なので、声に出さなくても『思考制御』で無言で良いのだが、興奮で叫んでしまった様だ。


『キムだ。アーカ実験船の船体確保せんたいかくほ。サイボーグ兵達も保護ほごしたよ。あぁ『失われた技術』で構成された、保護対象の『りあるロイド』も保護出来た。こっちは落ち着いたから、そちらに『侍』を四名回すよ』


『助かる! よし、船体保持せんたいほじフィールドを、この場の『侍』全員で合同展開ごうどうてんかい!』


ピキン!


数十人の『侍』同士が、青い輝きの光線でつながり、ホワイト・コメットの巨大船体に『光の網』を掛ける。


『ようし!引きあげるぞ!』


ドドドドドドドドドドドドドドドド


ピン!と光の網は、める。


『『『『『うおおおおおおおお!』』』』』


ギシギシギシギシギシギシギシ


巨大船体の落下速度は、一気に落ちる。


……残念ながら、数十人の人造超人マンメイド・スーパーマンのパワーでも、落下は止まらない様だ。


キカッ


『おっと!』


問答無用で飛んで来たデブリ・ブラスター破壊光線を、高畑久美子がとっさにシールドを張り、はじく。



ホワイト・コメットのほど近くで、エネルギー光線の爆発がきらめく。


『ぬぅ。宇宙うちゅうエレベーターJFKネオ宇宙港・防衛局からの『デブリ・ブラスター破壊光線』か!

防衛局はアーカ国管轄だから、何としても「ホワイト・コメット」を『制御不能せいぎょふのうの危険な落下物らっかぶつ』として粉砕ふんさいするつもりだな!

どうあっても、われわれ『さむらい』の手柄てがらにしたく無いと見える』


宇宙うちゅうエレベーター防衛局は独自の判断で、宇宙うちゅうエレベーター施設を害するデブリや、地上落下の可能性のあるデブリ等を打ち落とす自由裁量は、与えられて居る。


が、


現在は、救助活動中の『侍』を『いないもの』とみなしている。


世界中の目が注目されている、救助活動メタバース放送を『無視』している。


後で、かなり燃え上がるだろう。




『おう、高畑さん! 『デブリ宇宙ゴミ・ブラスター』のブロックを、ありがとう!』


『はぁい。引き続き、警戒します。でも次は『メテオ隕石・バスター・ミサイル』が来るのでは?』


『くそう。おいたけし! まだ、手が空かないのか!?』


『高羽センパイ。あと10秒で、『侍』ワークステーションと『俺の脳』との『機密保持きみつほじ直接接続ちょくせつせつぞく』が切れるから、もたせて下さい』


猛と呼ばれた青年は、薄暗うすぐらく心地良い部屋で、カウチタイプの椅子の背もたれに上半身を預けて座わり、目を閉じている。


左目には、眼窩に沿って貼り付くタイプのモノクルが装着されて居る。


モノクルの奥は、青白い光と黄色い光と赤い光が、ルーターの様に交互にまたたいている。


宇宙空間の高羽達とは、『侍』クラウドでの統合通信で、相互念話できる。


『JFKネオ防衛局より、メテオ隕石・バスター・ミサイルの発射を確認。数は二十発。 本船に着弾ちゃくだん予想時間は……3分』

豪華客船ホワイト・コメットの航行管制AIラークが、柔らかな電子音声で、冷静に報告して来る。


猛の生身の右目が、パチリと開く。


『おっと、5秒早いな。ふぅん二十発ね。大盤振る舞いおおばんぶるまいですね。なになんでも、機密満載のアーカ国・実験船と激突した、巨大宇宙旅客船ホワイト・コメットを粉微塵こなみじんに破壊して、機密保持のために『死人に口無し』状況にしたいのですね』


『あぁ、そうだな! クソッ、なんて重い船だっ! やっぱりエースじゃ無いと、受け止められん! この船には、妻の姪御とその坊主が乗船してるんだ!』


高羽は光の網を、全力で引きながら叫ぶ。


『それは、一番早く言って下さいよ。それでは、高羽センパイの御期待ごきたいに応えないとイケマセンね。あ~『キャッチ予想地点』まで20秒で行きます』


円鐘えんしょう たけしは、椅子から立ち上がり、窓からベランダに出る。


ベランダに立つ たけしは、黒髪黒眼の愛嬌あるイケメンである。


開祖シンからは、松坂桃李まつざかとうりに似ていると、よく言われる。


どなたです? え? 2000年代のスーパー戦隊シリーズ出身の俳優?

……まぁ後ほど、画像検索させていただきましょう。


猛は、程よく鍛え上げられた、身長183cmの細マッチョである。


...... が、日の光の下で見ると、左目のモノクル周囲の皮膚が人形っぽい。


過去に負った傷口を、人造皮膚で隠して居る様子だ。


彼は空を見上げ、方向を確かめる。


「あっちか」


空は少し、薄曇りである。


とん


ベランダを軽く蹴り、三メートルほど飛ぶ。


ピカッ!


猛の全身は輝き、一瞬で全身『銀色』の『侍』制服スーツに変わる。


頭は黒髪のソフトモヒカンがむき出しだ。顔は能面程の大きさの半透明フェイスプレートに、覆われる。


ドンッ!


彼は銀色の塊となり、一瞬で雲を突き抜ける。


飛び去る武良の発した衝撃波で、雲に穴が開く。


空いた穴から、『天使の梯子』と呼ばれる光が、降り注ぐ。。



◯ ◯ ◯



あっという間に成層圏を抜け、宇宙空間を凄まじいスピードで突き抜け、二十発のミサイル群に紛れ込む。


「うわ! 早い! これまでの『侍』さん達より、三倍の早さです。うわぉ! たちまち二十本のミサイル群に、追い付きました!」

超巨大豪華旅客宇宙船ちょうきょだいごうかりょきゃくうちゅうせん『ホワイト・コメット』のレーダー手が、叫ぶ。


『三倍て』

『紅い彗★か?』

『狙ったかな? レーダー手に言わせる、御約束のセリフだろ?』

『知らんがな!』


落ちる船を必死で支えながら、『侍』達はお互いボヤく。


『侍』円鐘 猛は、二十発のミサイル群の中央で、ミサイルに速度を合わせる。


(隼。ジャミング)


(はイ。ジャミング!)


猛は自分の脳内に常駐する、『さむらい』戦術管制AI『はやぶさ』に、脳内会話で指示を出す。


ボボン


ミサイルの推進の炎が、二十発いっせいに消える。


丁度ちょうど静止衛星高度せいしえいせいこうどに達して居たので、勢いを失ったミサイルは、ゆったりと宇宙空間にただよい始める。


猛は、ホワイト・コメットの船首に真ん前に到達する。


『おまちどう』

彼は高羽達に、笑顔で声をかける。


『こんな大気圏内たいきけんないの『キャッチ』なんて、大丈夫なのか?』


高羽は、猛に問う。


『はい。大丈夫です』


『わかった』


すこしも心配して居ない口調で、高羽は納得する。


『では『ユグドラシル世界樹・エナジー』解放かいほう


ブワッ


猛の身体全体がオーブに包まれ、青白く、強く、輝き出す。


『では、始めますよ! 3、2、1、キャッチ!』


ズズン!


巨大船体に、一つ衝撃が来る。


『なんだ。そんなに衝撃は来ないな』


『そりゃそうです。『勝負』じゃぁ無いんですから。船体を壊さぬ様、衝撃吸収の為に、ワザと『落ちてる』んですから』

猛は、両腕で船首に抱き付きながら、苦笑いする。


『よし。減速!』


ズズズズズズズズズズズズズゥウウン


グワッと、猛への加重が強くなって行く。


ギシギシギシギシギシギシ


高密度多層構造のハズのホワイト・コメットの船体が、武良に押し返されて、きしむ。


ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ


船外では轟音と共に、摩擦熱プラズマに燃えるホワイト・コメットのシールドに、その真下で、強く、青白い『オーブ光玉』がキラメキ輝く様は、神話に出て来る様な不思議な光景だ。


落下点周辺各国の諸々の放送局は、ありったけのカメラ・ドローンを飛ばし、プラズマに燃えるホワイト・コメットを中心に三百六十度グルリと、動画や静止画を撮りまくる。


そして、リアルタイムで動画を垂れ流す。


数多くの目撃者は自分のコンタクト型スマホで、一部始終いちぶしじゅうを撮影する。


コンタクト型とは言え『電子的拡大望遠機能でんしてきかくだいぼうえんきのう』は優秀で、遮蔽物さえ無ければ対象物の一メートル手前まで寄れる。


これまたリアルタイムで、メタバースに動画を垂れ流す。


地球の裏側の人々も

コンタクト型スマホや、脳内インプラント接続でメタバースに接続し、肉眼で見て居る様に『侍』達の活躍を、目撃する。



つまり、全世界の人間がこの瞬間、同時に『侍』の実力と実行力を、目撃する。



○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○



おっと、案外重いな。


(隼! ユグドラシル・光子エナジーの出力を上げる!)


『侍』スーツ官制AIの『はやぶさ』と、脳内会話する。


(はイ。出力の指示を御願いしまス)


(とりあえず『三倍』だ!)


(『御約束おやくそく』ですカ?)


(ちがう!)


(はいはイ)


ブッワッ!


猛の全身の青白いオーブは、さらに広がり、ホワイト・コメットの500メートル船体全部を、おおう。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…… ピタリ


ホワイト・コメットの地球落下が、ついに止まる。




見 つ け た っ !




(えっ!?)


なにか……猛の脳内に、未知みちの単語の意訳いやくの様なイメージが、一瞬にして駆け抜ける。


思わず、暗い宇宙空間を、左右見渡してしまう。


しかし、眼下の青い地球以外、何も見えない。


(隼。何か聞こえなかったか?)


(ハ? いいエ )


? ……今のは、何だったんだ?

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