マンメイド・スーパーマン☆円鐘 猛は、断罪する。

円鐘 眺

第1話 黎明(れいめい)

ヤーディン大国セムカ歴四十四年十一月四日 教会神殿近郊の深い森 黎明れいめい


ガギャァアァアアァ!


教会衛兵隊約四十人は東・西・南側に分かれ、北側袋小路の絶壁に牛五頭分はある蜘蛛型魔獣を追い込む。


蜘蛛型魔獣の全身には、数十本の長槍が青白く輝きながら、魔獣の身体深く突き刺さって居る。


ガギャァアァアアァ!


蜘蛛型魔獣は紅く輝く八個の目と凄まじい咆哮で、衛兵隊を威嚇してくる。

が、その動きは、もうヘロヘロだ。


「盾隊! 押し込め! 一気にカタを付けるぞ!」


「「「「「応!」」」」」


ゴシャ!


東・西・南側の前衛盾隊が、三方向から魔獣を絶壁に押し付ける。


「魔法ブースト! 槍隊突っ込め!」


「「「ブースト!」」」


後衛の戦術神官の三名が、ブースト魔法を唱える。


「「「「「応!」」」」」


中衛の衛兵隊が構える長槍が青白く輝くと同時に、彼等は魔獣に長槍を突き出す!


ザシュ!


アギャァアァアアァ!


三方向から数十本の長槍が、魔獣の身体深く突き刺ささる。


ゴガアアアアアア!


魔獣が牛五頭分の身体を振るう!


ブン!


魔獣の身体深く突き刺さって居る長槍は棍棒の束となり、盾役や槍役を横に薙ぎ払う。


ゴン!

ガゴン!


「うあ!」

「ぐっ!」

「クソッ!」


魔獣を押し込んでいた盾役達が、次々と吹き飛ばされる。


「三番手、槍隊!」

「槍が足りません!」

「あるだけで良い!ブースト!」


ガギャァアァアアァ!


蜘蛛型魔獣はフラつきながらも、西側包囲網を抜けようとする。

蜘蛛型魔獣の目前に、森が広がる。

森に入り込みさえすれば......


ガキッ


ガッ!?


魔獣に取って無情にも、身体深く突き刺さって居る多数の長槍が、森手前の岩のすきまに引っかかる。


「せいやっ!」


衛兵隊の一人が青白く輝く長槍を高く振り上げながら、蜘蛛型魔獣の上に飛び乗る。


「破っ!」


ズシャ!


蜘蛛型魔獣の中枢部へ青白く輝く長槍が、イッキに深く差し込まれる。


ビクン、と蜘蛛型魔獣の動きが止まる。


ズシン


牛五頭分の魔獣の身体は大地に倒れ、地響きが起こる。


「それ! ひっくり返せ!」


わっ、と、牛五頭分の魔獣の身体に、取り付けるだけの衛兵隊が取り付く。


ズシン


魔獣の身体は、見事にひっくり返る。


「はっ!」


ザシュ!


先程魔獣に飛び乗った衛兵が腰の大剣を抜き放ち、むき出しに成った魔獣腹を、一刀で切り裂く。


魔獣の青黒い血の海の中に、ためらわず右手を突っ込む。


「あった!」


青黒い血の海から引き挙げた右手には、食い千切られた成人男性の『右足』の足首をつかんでいた。


そのまま『右足』へ左手を添え、釣り上げた大物の魚の様にかかえて、後方に駆け出す。


しばらく走ると、焚き火の光が見える。


「足だ! カムラン! お前の足だ!」


焚き火のほど近くにカムランと呼ばれた若い男が、鎧兜を脱がされた下着の状態で、気を失って居る。


見れば右足の膝上から、下が無い。


『タム衛士。カムランの命の灯火には間に合って居るのである。ので、大声は他の魔物を呼ぶしてしまうからして、平静を願う』


カムランの右足の傷口断面をスッポリ覆う、銀色で周囲に魔法陣が刻まれて居る『バケツ?』の様なものの、埋め込まれて居るルビーの様な魔石が紅く瞬き、タムを落ち着かせる様な不思議な言い回しの言葉が出て来る。


「そうよ、タム。『救護アイテムサムリ』の言う通りよ。叫ぶ前にカムランの足を、そこの湧き水で洗って来て。すぐに治癒魔法の準備をするから」


焚き火の周囲で、数名で負傷兵へテキパキ看護作業をしていた神官服の美少女の一人が、兜を被ったままのタムに、ピシリと指示を出す。


「わかった」


タムは慌てて湧き水に向かう。




○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○




カポ カポ カポ カポ カポ カポ


日が昇り、すっかり明るくなった教会神殿への街道を、教会衛兵隊はダラダラと行軍する。


全員、疲労困憊でヘロヘロだ。


ガタゴト ガタゴト ガタゴト ガタゴト


隊列の後方に、負傷兵を乗せた数台の馬車も続く。


「......カムラン。もう少しで神殿に付くぞ」


愛馬が負傷したので鞍を外し馬だけで歩かせ、一緒に馬車に乗っていたタムは、傷は癒えたが仰向けのまま呆然としたままのカムランに、サスガに心配になり話し掛ける。


いつもは煩いくらいおしゃべりなヤツなのに、今は焦点の合わない眼差しで、薄曇りの空をボンヤリ眺めて居る。

今の話しかけにも、反応は無い。


無理はない。生きたまま蜘蛛型魔獣の口の中に一度入り込み、タムが反射的に引きずり出したので、右足を喰い千切られる『だけ』で済んだのだ。


タムは思わずカムラン同様に、薄曇りの空を見上げる。


「...... なぁ、タム」

急にカムランは乾いた唇を動かし、虚ろな表情のまま、乾いた声で話しかけて来る。

「うん、どうした?」

「...... 俺らは、この『魔節』を、生き残れるか?」

「......」

「昨年まで一分隊十五名は居れば、魔獣狩りなんて余裕だった...... 蜘蛛型魔獣なんぞ十匹は仕留められた」

「...... そうだな」

「なんなんだよ、今年に入ってからの、あの馬鹿げた強さは!」


(((......)))


カムランの激しいボヤきに周囲の衛兵士も、無言で同意して居る様だ。


「ちくしょう! もう、辞めてやる!」


それは、嘘だ。


教会衛兵隊の大半は、教会孤児院出身である。

孤児は、両親を魔獣や魔族に殺された者が多い。

孤児院男児共通の憧れの職業は、衛兵隊である。


孤児達は手伝いができる様になると、男児は衛兵隊の下仕事、女児は神官の下仕事に付く。


先輩衛兵隊にも孤児が多く、義理の「父や兄」として、良く面倒を見てくれる。

女性神官にも孤児院出身は多く、また義理の「母や姉」として、慈悲深く面倒を見てくれる。


肉親の繋がりに負けぬ『大きな家族』だ。


そしてこれ以上「自分達の様な孤児が増えぬ様に」と、自分達が慕う「父や兄」が腹を据えて、「肉親の仇」の魔獣や魔族に突進して行くのである。


自分達も十三歳で成人すれば義理の「父や兄」の後に続きたいと、タムもカムランもお互いに切磋琢磨して、三年前に成人を迎え、やっと衛兵隊に下働きとして入隊出来たのだ。

三年後の現在。損耗激しい衛兵隊では、戦えるレベルに達すれば、若年でも最前戦に出さざるを得ない。


成人前の孤児院時代からタムとカムランは『衛兵隊の連係』を、見よう見まねでしていた。

なので、二人は最前戦デビューから頭角をあらわす。


なので、辞めたいわけでは無い。

むしろガンガン魔獣や魔族を狩り、肉親の仇を打ちたいのだ。


(((......)))


余りにも不甲斐ない「現実」に、全員が思わず視線を落としてしまう。



ドッ、ゴーン!



進軍方向の教会神殿から、強い衝撃と爆音が聞こえる。

明らかに神殿方向から、青白い光の柱が天空に垂直向かい、真っ直ぐ伸びて行き薄曇りの雲を突き抜ける。


神官達の前に、それぞれ魔法陣が立ち上がる。


タムの目の前にも、小さい魔法陣が立ち上がる。


(え?)

(何あれ?)

聖魔素ホーリー・マナの柱......よね)

(うん。でも、かつて無い凄まじい魔素マナ量よ!)


数人の神官達の間で、ささやききが止まらない。


(...... ねぇ。セルガ姉様が、『成功された』んじゃない!?)


一番小柄な神官が、ポツリとつぶやく。


((((あ......!))))


神官達の瞳が、何かの期待にキラリと輝く。



(...... リート。つまり新たな......)

タムは思わず、近くに座っていた幼馴染のリート神官に小声でささやく。

(シッ! 確定するまで、口にしてはダメ)

リートは可愛い唇に、伸ばした人差し指と中指の腹を当てる。

(...... そうだな...... しかし、この魔素量は......)

(流石は『魔法剣士』見習いね。そう。前代未聞だは)

リートは、期待溢れる眼差しで、聖なる光の柱を見つめる。


「総員!駆け足!」


コレド隊長のドラ声が、街道に響く。


「「「「「応!」」」」」


ドドドドドドドドド!


教会衛兵隊の進軍速度は、倍に上がる。

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