*第十一話:裏話・虚けの黒幕


 避難所の本部と各チームのやり取りから、奴等の動きが手に取るように分かる。無線傍受されてるとも知らずに、馬鹿な奴等だ。

 この分だと、避難所あそこを乗っ取るのも時間の問題だな。俺を追放した事を後悔させてやる。


「どうだ磯谷いそがい、新しい情報は入ったか?」

「ああ、坂城さかきさん。へへっ、奴等みんなビビッて引き返してるみたいですよ」


 いやあ、俺も正直ここまでやるとは思わなかったよ。キレてる人間って居るもんだな。平気で人に矢を撃ち込めるのもアレだが、事前にその辺の発症者ぶっ倒してブスブス刺した矢だもんな。

 最初はあれ何やってんのかと思ったが、まさかの毒矢作りとは――おっと、新しい通信だ。


『こちら浅川チーム、あたし達はとにかく現場の確認に行ってみるわ』

『分かった、危険そうならすぐに逃げるんだ』

『了解』


 浅川……ああ、あの気の強い女リーダーの探索チームか。


「まだこっちに向かっているチームが居るらしいな」

「そうみたいですね。さっき向こうも武装チームで対抗して来るみたいな事言ってましたが」


 あの避難所は物資と人材だけは揃ってるからなぁ。この坂城達みたいな戦闘集団は、早々揃えられるもんじゃないだろうが、現役でやってた警官や警備員が居るのは確かだ。


「坂城さん達なら大丈夫だとは思いますが……今回の事で人数出して来たらヤバいですよ?」

「大部隊で来たら遭遇前に撤退すればいい。ただ、今向かっているチームには若い女が居る。それは調達対象だ」


 へへっ、今回確保した一人だけじゃ物足りないってか? まあそりゃそうか。こりゃアジトに戻ったら久々に楽しめそうだな。

 まあ、こいつ等のおこぼれだからガバガバんなってんだろうけど、抱ける女なら何でもいいや。


「さて、そろそろ物陰で実況してる奴を始末するか、井堀いほりっ、行け!」

「イエッサー!」


 突撃隊長の若手が、遊具の裏に隠れてる奴を狩りに行った。無線持ちを生かしといたのは、わざとここの情報を流させて、応援のチームが少なくなるようにしたってわけだ。

 なんせ無線傍受で奴等の動きは筒抜けだからな、手頃なチームが近場に居れば、別動隊がこれを急襲する手筈になってるらしい。いや~、本当に軍隊みてぇだ。


「磯谷、この浅川チームってのは、どんな構成だ? 戦闘力はあるのか?」

「いやあ普通の探索チームですよ、おっさん一人と女二人、あとはガキが二人ですね」


 浅川は気は強いが、締まった良い身体してるし、器量は文句ない。八重田はいいぞ、あれはいい女だ。多分いいとこのお嬢さんなんじゃねーかな。


「――んで、小丹枝って奴が柔道か何かやってるみたいですね。あと、ガキの片方が結構デカ物なんで、刺又でも振り回されるとちょっと厄介なくらいですか」

「ほう、それはいい。飛び道具が無いのなら問題無いな」


 うはっ、この分だとおっさんとガキ二人は容赦なく狩っちまうんだろうなぁ。

 そういや片方はチビで線も細い奴だったな。坂城達の中にゲイっぽいのが居た気がするが……へへっ、もしかしたら面白いもんが見られるかもしれねーなっ。

 まあ、野郎の交尾なんぞに興味はないが。避難所の奴等、きっと震えあがるぜ。



 避難所から放逐される時に、こっそり持ち出して来た調達部の無線機片手に、俺はニヤニヤ笑いが止められないでいた。

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