其の五 「丸山眞男」をひっぱたきたい 三歳児農奴。希望は、無双。
嗚呼、天よ叫べ大地は
なんという格差社会!
なんという格差固定!
たしかに「最後に物を言うのは金の力というのは、文字通りどこの世界も同じ」などと
嘯きはしたが、なにも平和が格差を広げ戦争が格差を是正するところまで前世の資本主義社会と同じだなんてあんまりではないか!
「チキショーめ! 戦争希望! 丸山眞男をひっぱたかせろーい!」
絶望のあまり縁もゆかりもない東大名誉教授(故人)への加害を叫ぶと、アンチャは「マリューマ・サオ、って誰だぁ?」と小首をかしげていった。
「誰だかしんねっけど、人様をひっぱたくのはあンまよろしくねンでねーか?」
じゃあナベツネでもいいや、とも言い返せないほどの正論であった。
「ほいじゃあ、この糞捨ててくっから。イッチ坊は小屋に藁さ敷いといてけれな」
そういうとアンチャは家畜の糞をてんこ盛りにした桶を軽々と持ち上げて、元気よくタッタカと走り去っていった。とても五、六歳児とは思えぬ膂力と健脚である。きっと、ああいうのを野生児と呼ぶのだろう。
いっぽう、あとに残された私は、手押し車に積まれた藁束から藁を抜き出しては家畜小屋の床に敷く作業にとりかかった。
三歳児にこんなことをやらせるとは児童労働もいいところだとも思わないでもなかったが、糞の始末をやらされてるアンチャや、今ごろ野良仕事に従事しているであろう姉たちに比べれば、まだ家の手伝いの延長みたいなものである。
それに、どうせこの世界には、子どもの権利条約どころか児童福祉法すらないのだ。
そう──今さらであるが、この世界は前世の世界とは何もかもが違うのである。
単純作業のおかげで少しだけ冷静になることができた私は、そんな現実にようやく気がついたのだった。
なるほど、たしかに自由を得るためには莫大な資金が必要になるのかもしれない。普通なら農奴の身分でそんな金を稼ぐことなど現実的ではないだろう。
だが、よくよく思い出してみれば、私は転生してきた異世界人なのである。間違っても〝普通〟の範疇に括られるような存在ではないのである。
「……なるほど、そーゆーことか」
ようやく合点がいき、私はニヤリとした。
どうやら私は、あの女神に謝罪しなくてはならぬようだ。
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