ボッチ5 ボッチと魔法

 


「まあいいか、せっかく肉を貰ったし、今夜はバーベキューにするか」

 明らかに買収されたような構図だが、パンしか無かったところに肉は有難い。水に流すとしよう。


 ペロペロ、聖水も美味しいし。


「だとすると問題はこの肉をどう焼くかだな。ここは異世界の定番、焚き火に挑戦してみよう」


 しかしそう思ったところで早速問題発覚。

 辺りがかなり暗い。

 この丘の上は星明かりで明るいが、薪や石を拾えそうな森は真っ暗だ。ランプはあるが入りたくない。


 しかし薪とそれを囲む石が欲しい。

 そう思っているとアイテムボックスにしまい忘れた水晶玉が目に入った。


「この水晶玉なら水みたいに出せるんじゃないか?」


 水晶玉の下に足が無いか確認しながら、俺は石を水晶玉に求める。


 するとまた俺の中から何かが、恐らく魔力が水晶玉に流れ消費され、川原にあるような石が水晶玉から生成された。

 成功だ。

 水晶玉の下にパッと現れては落ちてゆく。石が無から創造されたようで不思議な光景だ。


 十分に石が確保できたところで石の生成は止め、円形に並べる。


 そして次の試みに移った。


「薪よ出でよ!」


 水晶玉を両手で持ちながらそう念じる。


 流石に何でも出せるとは思えないが、薪ぐらいならなんとかなるだろう。


 しかし今度は何かを奪われるような感覚に襲われた。何かが流れるなんてそんな生易しい感覚ではない。


「ぐわぁぁぁあっ!」


 自分の一部が無くなっていると漠然と理解させられる。本当に胸のなかにぽっかりと穴が空いたような感覚だ。

 魔力とはなんなのか、ハッキリ自覚でき程の喪失感。

 これが魔力、今俺に足りていない俺の一部が魔力。

 理論的にはまだ知らないが、感覚的には刻み込まれるように理解した。



 落ち着いたところで水晶玉の下に目をやると、そこには薪が一本落ちていた。


 ……あんなに魔力を奪われて一本?

 しかも小さい。火の用心の叩くやつぐらいしかない。


 もしかして実はそんなに魔力を使ってないのか?

 水を出したときの魔力が少なすぎただけかも。


 鑑定で自分の魔力残量を見てみる。


 魔力 0/1000


 うん、空っぽだ。

 全部余すことなく消費されている。


「……何故?」


 実は小さい薪が燃え尽きないような凄い薪だとか?


 名前:薪

 効果:なし

 説明:乾燥した燃料用の木材。


 そんなわけ無かった。


 《熟練度が条件を満たしました。

 ステータスを更新します。

 スキル〈鑑定〉のレベルが1から2にアップしました》


 あっ、今のでスキルレベルが上がったらしい。

 そう言えばスキルレベルが上がると出来ることが増えるとか女神様が言っていた。

 もしかしたら今なら鑑定で新しい事が判るかも知れない。


 今度は水晶玉の方を鑑定する。


 名前:女神手製魔力操作球

 効果:不壊、所有者固定、転移

 説明:女神手製の魔力操作球。初級の魔力操作、魔術の修行には勿論、上級者の修行にも使える。

 触れた者の魔力で強制的に属性ごとのクリエイト系魔術を発動できる。全ての属性に対応しており、使用者に適性の無い魔法でも発動可能。尚、適性の無い魔法を発動する場合は膨大な魔力が必要。安全術式が組み込まれているため、生命力を消費してまで魔術を強制発動させることはない。


 おっ、説明が増えてる。


「なるほど、俺に適性が無いからあんなに魔力を消費したのか。薪って全属性じゃ駄目だったんだな。植物属性魔法とかがあるのか?」


 魔力大量消費の謎はこれで分かった。


「でも分かったところでどうにもならないな。魔力が無いんじゃこれ以上薪は作れないし、仮に魔力が有っても小さい薪しか出せなかったし」


 それに魔力が空っぽになったせいで気分が悪い。

 健康的には問題なさそうなのだが、自分の一部、あって当然常にあったものが急に無くなり、乗り物に酔ったような気分だ。

 今更薪集めに行ける気分ではない。


「はぁ~、とりあえず水でも飲んで落ち着くか……」


 ペロペロ……!?


「ぐおぉぉぉあぁぁーーー!!」


 ペット皿の水を舐めたところで、空いた穴に激流が流れ込んできた。

 受けたこと無いがボディーブローが直撃したような衝撃だ。

 それでいて痛みは無い。それどころか不快でもなく逆に心地よい。


 これは恐らく魔力の回復だ。そうに違いない。


 魔力を見るとそれは当たっていた。


 魔力 1000/1000


 全回復だ。


「そう言えば鑑定したとき浄化回復させるとか書いてあったな。回復って魔力もだったのか。ペット皿の癖に無駄にハイスペックだな……」


 兎も角、これなら薪を必要数出せそうだ。

 相当キツそうだが……。


「さて、やるか!」




 膨大に消費、膨大に回復。

 さらにそれを一瞬で行ない繰り返すことで、魔力がハッキリと感じられるようになってきた。

 分からない方がおかしい膨大な魔力の動きから、だんだん小さな魔力の動きへと、感じられる範囲が細かくなってきたいく。


 初めはただ穴が空いたと思っていた体内の魔力の流れが今なら分かる。

 肉体ではなく自分の中心から鼓動のように湧き出る魔力は自分全体に行き渡り、また引き寄せられるように中心へと戻る様子。

 ただ循環しているのではなく新たに生み出され続ける。そんな魔力回復の様子も分かった。


 また一部は外に流れ拡散し、代わりに外の魔力が引き寄せられ新たな自分の一部になる。

 自分の外の魔力も感じられるようになってきた。


 《熟練度が条件を満たしました。

 ステータスを更新します。

 スキル〈魔力感知〉を獲得しました》


 あっ、なんかスキルを獲得した。



 さらに繰り返していると、今度は魔力消費が少なくなってきた。

 慣れたのか?


 《熟練度が条件を満たしました。

 ステータスを更新します。

 魔法〈木属性魔法〉を獲得しました》


「わっ!? 急に魔力消費が減ったぞ!?」


 ドサドサと水晶玉から薪が出てゆく。

 僅かに思考停止している間にも薪は生み出され続け、あっという間におおよその必要量、薪が貯まった。


 《熟練度が条件を満たしました。

 ステータスを更新します。

 スキル〈魔力操作〉を獲得しました》


 ついでにスキルも手に入った。



「火よ出でよ!」


 薪と石を並べ終わったところで火を付けにかかる。

 勿論水晶玉を使ってだ。

 火は生み出すと上にしか発生しないようなので少し難しいが、薪の一本を点火することに成功。


 水晶玉を使って風を送ると上手く他の薪にも燃え移り、立派な焚き火が完成した。


「後は肉を焼くだけか。たしか調理器具はアイテムボックスに入ってたよな……」


 ゴソゴソとアイテムボックスを探るといろいろとあった。

 フライパンに鍋、まな板に包丁、ご丁寧に基本的な調理料まで一通り揃っている。


 その中で目についたのは長い金属の串だ。


「これで串焼きにでもしてみるか。家庭科の授業でしか料理したこと無い俺でも簡単に作れそうだし」


 そう決めブロック肉を切って串に刺す。

 それを焚き火の周りに並べてと。

 後は待つだけだ。


 ジュウジュウと焼ける音、食欲誘う香り、滴る油。

 ゴクリッ、自然と生唾を飲んでしまう。

 滴る油のせいで肉が紅の炎に包まれて凄いことになっているが些細な問題だ。焦げて食べれなくならない限り何でもいい。


 塩を軽くふって。

 引っくり返して。



「そろそろいい頃だな。多分」


 時間的にはそんなに経っていないが、炎に包まれているからきっと大丈夫だ。


 串焼きを一本取ってみる。

 うん、見かけは大丈夫そうだ。


「それでは、あぐっ――――」


 ――――。


 ――――――。


「――って危ねぇ! 旨すぎて呼吸忘れかけた! 旨すぎるだろこれーーー!! 一体何の肉だぁーーー!!」

 旨すぎる!! こんなの人間が届く食べ物じゃない!! まともな感想すらいえねぇ!! 力も馬鹿みたいに湧いてくる!! 一体何だこの肉は!!


 《龍の肉を取り込みました。龍因子を獲得、寿命が延びました。

 ステータスを更新します。

 パッシブスキル〈再生〉を獲得しました。

 パッシブスキルの獲得により、ステータスのスキル表示をパッシブスキル、アクティブスキルに分化します》


 ……龍の肉だったらしい。

 食っただけで寿命が延びた……。


「いや!! 今はそんなことよりも肉だ!! 旨ぁぁーーーーいぃっっ!!」


 夢中でバクバクと龍の肉を味わう。

 途中、滅多に喋らない俺が今日何回も叫んだことで、喉に限界がきて血が口の中に広がったが些細な問題だ。龍の肉の前では血すらも調味料にしかならない。

 夢中で食べ続ける。


 《龍の因子が増加しました。寿命が延びました。

 ステータスを更新します。

 加護〈龍の力〉を獲得しました》




「…………ふぅ、旨かった」


 1キロ程あった肉を全て食い終わると一気に落ち着いた。

 落ち着いたと言うよりも満腹と焚き火の揺らぎ、そして心身の疲労で眠くなってきた。

 もう余計なことを考えるのは止めよう。疲れるだけだ。


 水晶玉から水を出して火を消すと、そのままテントに戻る。


 そしてアイテムボックスからベットを取り出すと……何故ベットが入っているかは考えない、今考えてはいけない、穏やかに眠れなくなる……。


 兎も角、内装を透明に変え布団に潜る。


「はぁ、異世界転生して、そのわりには一日を着替えと全裸、バーベキューに費やしたのに、とんでもなく濃くて、疲れる一日だったな。冒険もしてないのになんか色々と身に付いたし。

 ……俺の今世、一体どうなるんだろう……」


 俺は若干の嫌な予感を胸に、それでいて気持ちよく眠りについた。






 名前:マサフミ=オオタ

 称号:【異世界転生者】【異世界勇者】【複数の世界を知る者】【世界最強】【孤高ボッチ

 種族:異世界人

 年齢:15

 能力値アビリティ

 生命力 1000/1000→1011/1011

 魔力 1000/1000→1024/1024

 体力 1000/1000

 力 100

 頑丈 100

 俊敏 100

 器用 100

 知力 100

 精神力 100

 運 100

 職業ジョブ:異世界勇者Lv1

 職歴:なし

 魔法:全属性魔法Lv1、→木属性魔法Lv1

 加護:転生の女神アウラレアの加護、→龍の力

 ギフト:空洞Lv1、風景同化Lv1、超演技Lv1

 パッシブスキル:→再生Lv1

 アクティブスキル:鑑定Lv1→Lv2、アイテムボックスLv1、→魔力感知Lv1、→魔力操作Lv1



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る