ボッチ4 ボッチのキャンプ

 


 俺は女神様に言われた通り、テントを張る事にした。

 神殿の跡地にしては何も無いし、周囲は森だから見た感じ今夜休めそうな場所は無い。

 自分で作るしか無いだろう。幸い、神殿の跡地のせいかここには木が生えていないからテントは張りやすそうだ。


「え~と、テントは、これか?」


 アイテムボックスからとりあえず出したのは布の巻かれた棒、畳んだキャンプ用の椅子を長くしたようなやつだ。

 多分これがマジックテントだと思う。


 ひとまず鑑定。


 名称:女神手製マジックテント

 効果:不壊、防犯、転移、空間拡張、自動

 説明:女神手製のマジックテント。自動で稼働する。


 やはりマジックテントで合っていたらしい。

 そしてどうやら自動で動いてくれると。

 早速試してみる。


「マジックテント、展開!」


 折り畳まれていたマジックテントはあっという間に広がり、独りでに立ち上がる。

 もう完成だ。少し小さい気もするが、立派なピラミッド型の三角テントが出来上がる。


 さて中は。

 腰を屈め扉代わりの布を捲って中を覗く。

 そして驚いた。


 空間拡張と言う文字で、見かけよりも広いのだろうと想像していたが、予想以上だった。

 正方形だからハッキリとは判らないが、学校の教室程はあるのではないだろうか? 少なくとも俺ん家のリビングがすっぽりと入る大きさはある。

 壁の傾き具合い等は外見と同じで、そのせいか天井の一番高いところは十メートル以上あるようだ。


 俺はゆっくりと中に入る。

 そしてまた驚き。

 室内は温かかった。肌寒い外に比べて快適な温度。

 テントの癖に空調が用意されているらしい。

 しかし見たところ家財道具の類いは明りのランプ以外に一切無かった。


 床は感触からして石のようだが継ぎ目がなく、そして白単色だから何なのかよく分からない。

 一言で表すと床だ。


 そのまま中心まで移動してテントの隅々を観察する。


 テントの四角には呪文のような溝の刻まれた木の柱があり、テントの頂点で合流している。

 そしてその頂点と各柱の中心にランプが吊るされ、テント内を照らしていた。

 このランプも魔法に所縁のある品らしく、木漏れ日のような光だ。


 隣り合う柱の間に張られた壁の材質は分からない。

 外から見た感じは布に見えたがそれでは無い、と言う事しか分からない。

 自然色、曇の雲のような白色で、近付いて触ってみるも、ガラスのような完全に固定された感触が返ってくるだけで何なのかは分からなかった。

 一言で表すのなら壁だろう。


 恐らくこのテントの本体は四本の柱で、それ以外は魔法で創られたものなのだろう。

 だから床、壁と言う最低限の役割りしかそれ等には無い、仮設の建物に壁紙を張らないのと同じ理屈だと思う。


「ほぼほぼ白の空間だな。寝るときどうしよう? いやランプ消せばいいのか? と言うかランプのスイッチどこだ? どうやって消すんだこれ?」


 あっ、ランプが消えた。


 まさかの音声操作?

 一応声に出さずに明かりよ灯れと念じてみる。


 やっぱり付いた。


「随分と便利だな。もしかして鑑定した時に出た自動って、勝手に組上がるだけじゃなくて空調とランプも含まれるのか? だとしたら他の機能もあるかも…。

 壁の色よ変われ!」


 おっ、透明になった。

 外の景色がよく見える。もう真っ暗だな。

 ただし空間拡張のせいか拡大した景色だ。全面拡大された景色で変な気分だが、遠くまで見えて悪くは無い。


「外も透明になっているのか?」


 そう思い一端テントの外に出てみる。


「おっ、変わって無い。最初と同じ白のままだな。でも今更ながらこれ目立つな」


 白である程度大きいものなど自然界にはなかなか無い。空には当然として雲があるが、地上でこの色は目立ち過ぎる。

 魔物がこの世界にはいるらしいし不安だ。


 ここは外見も変えられるか試してみよう。


「迷彩柄になれ!」


 成功だ。テントはパッと軍服みたいな迷彩柄に変わった。

 しかし今は暗くなったからいいが、丘の上で迷彩柄は目立つ気がする。


「透明になれ!」


 テントは消えた。

 中が見えるともなく、初めからまるで何も無かったかのようにテントの姿は消えた。

 凄い。これなら魔物に見つかる心配は無い。


 だが問題が一つ。

 入口が判らない。

 とりあえずまだテントは白にしておいた。



「とりあえず寝床はこれでいいとして……夕食にするか」


 色々な事で忘れていたが、今日は昼食を抜いている。不思議とそんなに空腹を感じないが食べないと言う選択肢は無い。

 ちょうどテントの外に出たし、このまま外で食べることにする。


 とりあえず暗いからランプを一つ出してと。


「あっ、食料どうしよう……」


 そう言えば服を着るのに夢中でそこのところを何も考えていなかった。

 今から森に入って木の実でも採ってくるか?


「そう言えばアイテムボックスの中にパンが一つ入っていたような……」


 ふと思い出したのでアイテムボックスを探ると有った。

 パンとしか言い表せない程シンプルなパンだ。それがなんの包装もされずに入っていた。

 まだホカホカで温かい。


 大丈夫だろうが一応鑑定をかける。


 名称:女神手製焼き立てのパン

 効果:焼き立て、再生、所有者固定、転移

 説明:女神手製のパン。一種のマジックアイテムで女神の手料理ではない。


 色々と気になる所はあるが大丈夫そうだ。


「いただきます」

 近くにある岩に座ってパンを一口噛る。


「ほっ、焼き立てだ。なんの変哲もないパンだが旨いな」


 特段旨いパンではないのだが、いい感じの焼き上がりでいくらでも食べれそうだ。


「再生ってこういうことか。無限に食べれるってことか?」


 パンは噛るそばからモコモオと再生された。

 地味に見えるがこれ、実はとんでもない神器だったりしないか?

 これがあれば飢えることはどこにいようが無さそうだ。

 女神様に感謝だな。


「う~ん、パンばかり食べてると喉が渇いてきたな」


 しかし水はアイテムボックスの中で見た覚えが無い。

 アイテムを鑑定すれば見つかるかもしれないが、そんな労力をこんな時間に使いたくない。

 しかし水が欲しい。


「どこかに水を出す道具はないのか? ってうわっ!?」


 そう愚痴を溢したとき、俺の手の中に重い球体が現れた。

 落としそうになるそれを慌てて掴む。


「何だこれ? とりあえず鑑定だ」


 名前:女神手製魔力操作球

 効果:不壊、所有者固定、転移

 説明:女神手製の魔力操作球。初級の魔力操作、魔術の修行には勿論、上級者の修行にも使える。


「見た感じ、俺の持ち物には間違い無いらしいが?」


 鑑定してみてもよく分からない。

 何だこれ? 魔法の修行?


「多分転移とやらで手元に現れたんだろうが……何でこれが?」


 転移は今まで鑑定してきたアイテムにもあった謎の機能だ。しかし突然これが現れたところからすると、恐らく転移とは望めば手元に現れるとか、そんな機能のことだろう。

 だが俺が求めたのは水、魔法の修行に使うらしい道具なんか求めてはいない。


「もしかして魔法を使って水を出せってことか? でもどうやってこれ使うんだ?」


 見かけはただの無色透明な水晶玉、多分魔力を込めたりすると何かが起こるのだろが、まず魔力をどう出すのかも分からない。


 こう言う時にこそ女神様のサポートが必要なんじゃ無いのか? さっきみたいに余計な時じゃなくて。

 今更ながらあの女神様、色々と……。


『モグモグモグ、ん、ふぁい、めはみでふ! ゴク。サポート神託を有能な女神が降しますよ!』


 とそれ以上言わせないタイミングで女神様の神託。

 なんか食事中だったらしい。

 やっぱりこの女神様……。


『はい、疑問にお答えします!』


 やはりこれ以上言わせない気らしい。

 まあ触れないでおこう。


「女神様、食事中みたいですが大丈夫ですか?」

『御信仰をちょっといただいていただけなので大丈夫です』

「御新香? 渋いですね。と言うか女神様って食事するんですね」

『食事? 必要は無いのであまりしませんよ』

「ん?」

『はい?』


 なんか話が噛み合わない気がするが、本題に入ろう。


「あの、この水晶玉、どうやって使うんですか?」

『水を出したいんでしたね? なら水を出したいと念じながら魔力操作球に触れてください。それだけで大丈夫です』


 女神様に言われた通り、水が欲しいと念じてみた。


 途端、手から何かを吸われる感触。俺の中から何かが流れ、消えて行く。

 そして青く輝く水晶玉。

 やがて水晶玉から水が溢れだす。

 バケツを引っくり返したとまでは言えないまえでも、バケツから注ぐ程の水量はある。


「ってうわっ!?」


 座りながら使ったせいで足に大量の水がかかった。

 水は意識が水晶玉から外れたのと同時に止まったが、一瞬でびしょ濡れだ。


 そんな俺に女神様の声は笑う。

『ふふふ、水が出るんだから濡れるに決まっているじゃないですか~』

「知ってたなら先に言ってください」

『いやー、すいませんねー』

 絶対わざとだ。駄女神扱いしようとした仕返しか?


 そう思うと突然女神様は叫んだ。


『駄女神じゃありません!!』


「あの、もしかして俺の心、読めますか?」

『そりゃ読めますよ! ここ、私の神域なんですから!』

「なんか、ごめんなさい」

 一応謝っておく。俺が悪いのかこれ?


『まったく、今度そんな事考えたら、あなたの恥ずかしい姿、四六時中監察して記録して、ばらまきますからね! 女神に隠し事は通用しませんから!』

「勘弁してください!」

『分かったのならいいです。あそうだ、水を出せるようになってもコップが無かったですね。どうぞこれを』


 と女神が言うと、天からペットに水をあげる時に使うような皿が降ってきた。

 ……これで水を飲めと?

 と言うか水は魔法で出せって言うくせに、コップは容易していなかったのか。


「あの~、この皿は?」

『水が飲みたいのでしたよね。コップです』


 ……どっかの神殿に行ったらチクってやる。


『なっ!? まっ、待ってください。それっ!!』

 ペット皿が神聖な光で包まれる。

『鑑定してみてください!』


 なんか必死なので鑑定してみる。


 名前:女神手製家畜の水皿

 効果:不壊、聖水精製、所有者固定、転移

 説明:女神手製の家畜に水を与えるための皿。準聖杯化しておりこれで水を飲んだものを回復浄化させる。


「準聖杯!?」

 詳しくは知らないが聖杯ってあれだ! 聖剣みたいなとびきりの秘宝、万人が求めるような大宝物だ!

 ペットの皿どころか家畜の皿と書いてあるが、そんなの些細な問題だ。うん? 些細か?


『はいそうです。私はこれを渡したかっただけなんです。偶々準聖杯がペット皿の形をしていただけで、悪意なんてありません』

 声だけだが笑顔で誤魔化そうとする女神様の姿が思い浮かぶ。

 絶対、最初は悪意しか無かっただろうが……家畜の皿って部分、消えてないし……。


『あ、そうでしたそうでした。これも渡すの忘れていました。それっ!』

 買収に失敗したと見るや、女神様は次の手段に出た。


 また天から何かが降りてくる。


 大きな笹のようなものにくるまれたものだ。

 早速開けると中には肉が入っていた。


『今日の夕飯にどうぞ。転生祝いです。それでは今度こそまた明日!』


 そう言って女神様の声は遠ざかって行った。

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