第13話 実家に帰っていた
ある日のこと。俺は実家に帰っていた。
昔、自分の使っていた部屋に用があったのだ。
「たしかこの辺に有ったはず」
部屋の中を探すこと数十分。ようやくお目当ての物を見つけた。
「まだ使えるかな」
それは天体望遠鏡だった。この間の話をしてから無性に星がみたくなり、実家まで取りにきたという訳だ。
俺はこれを持って帰る事にした。
親への挨拶もそこそこに、俺は実家を後にする。
「バッグごと持ってきて良かったな」
俺は自転車のハンドルにバッグをひっかけて、運ぶ事にした。
ハンドル操作はしにくくなったが、運転するには支障はない。
家に戻って、望遠鏡を分解し色々と調整をする。どうやら壊れてはいないようだ。俺は望遠鏡をバッグへと戻し、時計をみた。
「まだ12時か」
星を観るには早すぎる時間だった。
明石や瑞穂にも声をかけてある。少し遠出をして亀老山の展望公園まで行く予定なのだ。
天候を確認し二人に連絡を取る。絶好の天体日和である事と今日はペルセウス座流星群が観れるらしいことを告げ、俺は仮眠を取る事にした。
20時、電話の音で目が覚めた。
「須磨先輩起きてくださいっす」
「ん。もうそんな時間か」
どうやら、深く眠りすぎたらしい。支度を済ませると、外に出た。夜だというのにむせかえるような暑さが肌をじっとりとさせる。
外には瑞穂の車が止まっていた。明石は後部座席に座っている。俺は助手席に乗り込むと、瑞穂に行く先を指示した。
「亀老山。大島の方っすね。了解っす」
瑞穂はカーナビに場所をセットすると、車を走らせた。
「それにしても須磨。どういう風の吹きまわしだい? 急に星がみたいだなんて」
俺が答えるより先に瑞穂が割って入ってきた。
「須磨先輩は気にしてるんっすよ。自分に趣味が無いって」
「そんなんじゃねーよ。皆で昔見たいに星が観たくなったんだよ」
「そういうことらしいっすよ。ロマンチストっすよね。先輩は」
瑞穂がけらけらと笑う。こいつは運転して居る時。笑ってばかりいやがる。
「丁度、僕も3人で星を観たいと思っていたんだよ」
明石が助け船を出してきた。そんな事を車中で話していると、しまなみ海道が見えてきた。
「なるほど。このへんは真っ暗だな」
「まあ島と島を結ぶ橋っすからね。基本は街灯なんてないっす」
「そうなんだが、もうちょっと海とか観れると思ったんだよ」
「昼間に行かないと無理っすね。っとここで降りるんだ」
車は、橋を2つ渡った所で高速から離れた。
大通りから離れると周りはから民家が消え。街灯すら無くなった。車のヘッドライトだけが頼りである。道は細く不安になってきたが、どうやら間違いではないようだ。
「これは迷うな」
「もっと道が広かったら運転しやすいんですけどね」
「うーん。ここは僕の車だと来るのは難しいな」
車は真っ暗闇の中を走っていく。山道なので間違っては居ないはずだ。
しばらく走っていると開けた場所が現れた。
「どうやらここが終点みたいっす」
「ん。駐車場があるな」
俺たちはそれぞれ車を降りて展望台に向おうと思ったのだが、前述の通り外は真っ暗。どっちが前かもわからない程の闇だった。
「須磨。これ懐中電灯」
「お。悪いな」
明石が懐中電灯を手渡してくれた。懐中電灯を頼りに道なき道を歩く。
「俺たちの他にも誰か来てるみたいだな」
「本当っすね。やっぱり人気みたいっす」
人工物が目の前に現れた。どうやらこれが展望台への入り口らしい。
階段を上りながら俺は瑞穂に話しかける。
「おい。あんまりはしゃぐなよ」
「大丈夫っすよ。危なくなったら先輩の手を握るっす」
等と言っている傍からこけそうになっていた。瑞穂は俺の手を握りながら言う。
「こうやって手を繋いでると恋人同士みたいっすね。ね? 明石っち」
「そうだね。ほほえましいカップルみたいに見えるよ」
「いや。どう考えても子連れの親子だろ」
俺がそう言うと、瑞穂は俺の脚に無言で蹴りを入れてきた。足癖が悪い奴だ。
展望台は石でできたベンチだけが並んでいる開けた場所だった。
俺たちは先客に邪魔にならないよう、端の場所を陣取る。
「よしセッティングするぞ。俺が照らすから明石やってくれ」
「相変わらず須磨は何もしないんだよね」
「俺がセットすると星が上手く入らないんだから仕方ないだろ」
「昔からそうっすよね。先輩もうちょっと腕を磨いた方がいいっすよ」
瑞穂はそう言うと、ペットボトルを投げて寄こす。
「はいこれ。お茶っす」
「ペットボトルのお茶か。昔は水筒に入れてもってきてくれたのにな」
「むがー。嫌なら返すっす」
きゃいきゃい騒いでいると、明石が言う。
「あまりうろうろすると、ピントが合わなくなるよ。須磨。大人しく照らしててくれ。」
「おいおい。どう考えても瑞穂に注意するべきだろ?」
「須磨が大人しくしていたら、瑞穂ちゃんも大人しくなるよ」
「そうっす。先輩が大人しくすればいいんすよ」
明石を味方につけた瑞穂は無敵だった。俺が何か話そうとすると明石の影に隠れる。
「やれやれ。っとようやく準備ができたよ」
「ずいぶん早かったな」
「今日は方角を調整する必要が無いからね」
俺はそういうと、天体望遠鏡を覗いた。
星が筋を描く様に流れて行く。これだと肉眼で観てもよさそうだな。
「ずるいっす。先輩。自分も観るっす」
後ろで瑞穂がぴょんぴょんと飛び跳ねている。俺は場所を譲ると瑞穂は子供のように喜ぶ。
「おおおおっ。おおおー」
「さっきから、おうおうばかりだな。ちゃんと見えてるのか?」
「みえるっす。明石っちも観るっすよ」
「ん。どれどれ。これは凄いな。昔、学校の屋上で観た時よりも良く見える」
そうだ。高校時代は校舎の屋上に上って、同じように星を眺めていたのだ。
あの頃と何一つ変わらない二人。そして俺もあの頃と何も変わっていない。
星を観る順番まであの頃と変わらなかった。
俺はそれを何処か懐かしく思いながら、また天体望遠鏡を覗くのだった。
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