英雄の剣は誰の手に

颶風 爽籟

第1話 これは日常

リビングのカーテンを勢いよく開けると、雲が一切ない青空が視界に広がった。うん、絶好の遊園地日和と言うやつである。俺はめいいっぱい、深呼吸をしてからつい先程なおした髪をもう一度整える。

そして日向で気持ちよさそうに寝ていた愛猫「クラーレ」にぐりぐりと頬ずりし、行ってくるな!と声をかけるとクラーレは不機嫌そうに「にゃー」と答えた。



「よォ、ご機嫌だな!」

外へ出ると、家の門にスタイリッシュに寄りかかる男が一人。

(げっ…なんでいるんだよ)

「おいおい、あからさまに嫌な顔するなよ、俺たち親友兼幼なじみだろぉ?」

キラりという効果音とドヤ顔。イケメンなのが余計に腹が立つ。

この、無駄にキラキラした男の名は『青山 徹』。幼稚園から現在の高校まで見事に一緒。つまり幼なじみと言うやつである。しかし、親友では無い。声を大にして言いたい。親友ではないと。何しろこいつは宇宙でトップクラスのトラブルメーカー。こいつの部屋でお泊まり会をしようと家に向かえば、呼吸の荒い女がナイフを持って追いかけてきたり、金を下ろしに行きたいと言う徹に着いていけば銀行強盗に合うし、しまいには一人でいても、何か怪しい生き物に追いかけられた徹が助けを求めて俺を巻き込むこともあった。

(こんな典型的で酷いやつなかなか見ないぞ)

ホントに17年間よく付き合え続けたなと空を仰ぎ見る。当の本人は「おーい無視するなー?」と呑気に手を振っている。殴りてぇ。


「しかしお前、何しに来たんだよ?いつもの面倒事なら一人で何とかしてくれ。俺は今日忙しいんだ。」

今日は大事な日なのでいつもの厄介事に巻き込まれたくなかったし、嫌な予感がしたので、俺は不機嫌な態度を隠さずに早口で喋る。そしてそのまま去ろうとすると、腕を引っ張られた。

「お、おい。もう約束の9時まで時間ないんだよ。(くそ、こいつ力強いな。)」

「まぁ待て、今日は愛美ちゃんと遊園地、だろ?」

急いで腕を引き離そうとした動作を思わず止めて、目の前の男をじっと見つめる。

「なんで知ってるんだよ。」

徹は先程と変わらずへらへらとしながら答えた。

「いやぁ、だって俺も誘われたから。」

「は?(ア゙?)」

思わず瞳孔を開く。

「おおこわ。いやぁだから、愛美ちゃんに誘われたのよ俺も。」

「よし○す。」

「ちょっっっと待て!!!」

嘘だろ。いや嘘だろ。マジか、俺はてっきりデートだと「デートだと思った?」被せてくんじゃねぇ。

うわぁマジか…と頭を抱える。そういえば誘われた時2人きりでとかそういう匂わせがなかったな。誘われたことで頭がいっぱいだった。くっっっそ。冷静に考えれば考えるほど苛立ちと恥ずかしさでいっぱいだが、目の前でニヤニヤしながら「お邪魔だった?」と聞いてくるのが尚更心にくる。

(また弱味を握られちまった…)

もう消すしかないんじゃないか?と考えながら“たまたま”ズボンのポッケに入っていた折り畳みナイフを徹の目に刺そうとする。それを抑えて、あわよくば俺に刺されと力を込める徹。


そんなこんなでお互いにじんわりとした汗をかいてるいると、ふと冷静になる。約束の時間っっっ。

「もういい!早く行くぞ、このままだと愛美ちゃん待たせちまう!」

「あ、お、おう!」

徹が少したじろぎながらもすぐに返事をし、約束の場所へやっと足を向けようとしたところ。


出来なかった。徹が踏み出そうとした地面から突然徹を囲むように円を描きながら、閃光が発した。

(なんだこれ!?眩しっっっ)

思わず顔を腕で覆うがそれでも光は強く輝く。

ついにはあまりの輝きに意識が朦朧とし始めた。

(くそっ…また厄介事か…)

俺は、人生柄のせいかこの先の未来を予感した。長い旅になると。

(愛美ちゃんを待たせちまうなんてこりゃー尚更好きになってもらえねぇな…)

最悪な展開が起こる未来にイラッとしながら俺はボーッと意識を持ってかれた。


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