殺人コレクター

椎茸仮面

殺人コレクター

 この俺、中田流星なかたりゅうせいは今、山道を車で走っている。

 何故かと言うと、高校の部活仲間の伊達正人だてまさととという元部長が、何やらコテージを借りて同窓会を開こうと言ったからだ。

 自分はあまりそういうイベントには乗り気では無いが、仕事がひと段落ついて暇だったので来たという経緯になる。

 でも、俺は知らなかった。

 これが悲劇の始まりに過ぎない事を。


 こうして、コテージに着くとそこには部活の懐かしい面々がいた。


「あっ、流星くん来たんだ」


 黒髪の小柄の女が俺に駆け寄る。

 彼女の名は鏡彩音かがみあやね

 俺の幼なじみで、同じ幼稚園、小学校、中学校、高校と居たが流石に大学は別れたので久しぶりに見るのだが、相変わらず小さい。

 俺が身長175であるのも関係するのだろうけども。


「来たんだ……って来ないとでも思ったのか?」


「だってみんなでボウリングって時にも来なかったから」


「あれは中間が近くてだな……」


 すると、もう1人男が現れた。

 男は整った黒髪で少しひねくれて居そうな顔つきをしている。


「流星、久しぶりだな。相変わらずの無愛想な面を下げてますが」


 彼の名は氷川透ひかわとおる、やや嫌味な奴ではあるが、根は良いと俺は思う。もう一度言う、根は良いと思う。

 例え俺の教科書に少し落書きをしたり、上履きに少し画鋲を仕込んだが、根は良いと思う。

 何度でも言おう、根は良いと思う。


「なんだ、お前も居たのか」


「まぁ腐れ縁じゃないですか。画鋲を仕込む程の」


 一つ間違えればいじめっ子といじめられっ子の仲になるぞ。


「……そうだな」


 そしてまた、2人、今度は金髪の少しチャラけた男と、茶髪のジャンパー姿の男が居た。

 金髪が仁藤悠真にとうゆうま、茶髪が万丈凌駕ばんじょうりょうが、部員の中ではアホの部類だ。


「よぉ、来てたのか流星」


「流星ひっさしぶり、だいたい4年ぶりか?」


「5年だ、バカ万丈」


「いや馬鹿じゃねぇし」


 だいたいこのやり取りしかした記憶は無い。

 すると、バイクで1人の男がやってきた。


「よっ、久しぶり、流星」


「草加か、久しぶり」


 俺は何も返さなかった。

 彼の名は草加勇人くさかはやと

 少しガラは悪いが別段悪いやつでもない。

 そんな感じの印象を受ける。

 そして今度は2人の女が来た。

 1人はロングヘアで、頼れる顔つきをした女。もう1人は眼鏡をかけており、オドオドしている。

 ロングヘアの女は橘香織たちばなかおり、1つ上の先輩で頼れる姉御肌である。

 眼鏡の女は照井紫てるいゆかり。俺の後輩で虫も殺せぬ乙女である。

 趣味はポエムだが、内容はかなりアレとアレで出来ているので読む事は控える。(言ってしまうと性的なやつ)


「流星、久しぶりだな。5年も経つと、大人な顔してるね」


「せ、先輩……お久しぶりです」


「2人も来たのか、これで全員だな」


 彩音が、何やらメモ帳をみていた。

 どうやらこれからの確認の様だ。


「伊達部長が先にコテージにいってみんなのコテージの鍵を持ってるみたいだから行こっか」


 こうして俺たち8人は伊達部長のいるコテージへ向かった。

 コテージは木造の少し古めの建物だった。

 それが山の森の中に点々とたっており、合計9個ある。

 万丈がドアをノックし、部長を呼んだ。


「伊達部長ー! 来ましたよー!」


 ドアノブを回すと、ドアは空いていた。

 そして万丈は中に入ると、そこにはある光景が広がっていた。


「ぶ、部長!?」


 そこには胸にナイフを突き刺され、壁に寄りかかる伊達部長の姿があった。

 万丈はすぐに伊達部長に駆け寄るが、氷川が叫ぶ。


「動かないで! 変に動いたら……証拠が消える」


「……氷川、なんだよ」


「こう見えて、警察なんですよ」


 堂々と警察手帳を見せて氷川は言って、部長に一礼をしてまじまじと見る。


「……胸を1突きか」


 氷川はナイフをハンカチで指紋が残らない様に抜き、何故か持っているチャック付きのポリ袋に入れた。


「ひっ……」


 その様子を見ていた紫は血の気が引いて倒れそうになるも、香織が支えてあげた。


「大丈夫か?」


「は、はい……」


「とにかく、皆さんはコテージの鍵を各自で持って行ってください。私が警察を呼びます。おそらく、どこかのおかしい奴が憂さ晴らしかなんかで殺したんでしょう。今わかることはこんな感じです」


 みんなは部長の死体を横目にそれぞれの名前が貼ってあるコテージの鍵を取ったものの、部長のコテージを出ただけでコテージに入る気は無かった。

 まだ怖くて離れられないらしい。

 すると、俺は部長の横にあった机の上にある手紙を見つけた。

 丁寧に封蝋もされている。


「氷川、これはなんだ?」


「さぁ、領収書かなんかでは?」


 ご丁寧に封蝋までされている領収書があってたまるか。

 そんな訳で開けてみると、そこには新聞の切り取りで文が書いてあった。


『私は殺人コレクター、殺しを集める者』


「……氷川、見ろよこれ」


「殺人コレクター……? ずいぶんふざけた人ですね」


 氷川は淡々と、警察に連絡しようとするも、ここは圏外だった。

 少し困った顔をしている氷川を見るとちょっと得した様な気もしたが、そんな場合ではないという事はバカ万丈でもわかる。

 しかし、そんな中コテージに向かおうとした者がいた。

 草加だった。


「さっさとコテージ行けばいいんだろ? 部長がどこの誰にやられたかは知らないけど。警察が来ない以上、部長がせっかく用意してくれた同窓会を台無しにする訳にもいかねぇし、俺はコテージでゆっくりさせてもらうよ。第一、死体臭くて居られやしねえ」


「でも草加先輩……」


「後輩が口出すなよ」


 紫は何も言い返せなくなってしまった。

 こうして草加はコテージに向かった。

 紫ほ恐ろしくなって、駐車場に戻って行ってしまった。

 すると、彼女はある事に気付く。


「み、皆さんの……車が……燃えてます」


 数分後、みんなはそれぞれのコテージに渋々いる事になった。

 コテージの中はベットにガスコンロ付き、窓もついて日差しが明るく入る中、木の匂いが鼻を通る様になっていた。

 ただ、その匂いを消してもいいオプション設備の様に消臭スプレーが置いてあった。

 俺はこういう風情的なのは好みなのでスプレーをかけたりすることは無いが、前に苦情でもあったのだろうか。

 そんな事を考えながらコテージに居ると、突如爆発音が聞こえた。

 何事かと外に出ると、コテージが1つ、炎をあげて燃えていた。

 そこは、だった。


「草加ぁ!」


 俺は慌ててコテージのドアのそばにある消化器を使って消火を始めた。

 みんなが集まる頃には、消火はあっさりと終わっていた。

 そして、残っていたのはコテージの燃えカスと、草加の無惨な爆殺死体だった。


「草加先輩……」


「草加くん……」


 紫と彩音は、草加を哀れみ、仁藤や万丈は息を飲んだ。


「お、おい、なんで……草加は死んだんだよ……」


 すると、橘が何かに気づき、コテージに戻ってある物を持ってきた。

 消臭スプレーだ。


「もしかして、これか? ほら、前に消臭スプレーで爆発事故が起きたって聞いた事あるし」


「それじゃあ、これも不幸な事故……という事ですかね」


「それにしても車もコテージも燃えるとかろくな事ねえな、今日」


 仁藤が死んだ草加を哀れみながらぼやく。


「……まさか」


 俺は思った。

 伊達部長は刺殺され、草加は爆殺された。

 という事は、また誰かが別の殺し方をされるのでは無いかと。


「2つ目……か」


 みんなが恐れてコテージに戻る中、氷川は俺に駆け寄る。


「まさか、コレクターとでも?」


「他殺だとすれば、今度は別の殺し方でされると思ってる」


「でも、もうこれ以上何をするんです?」


「……分からない」


 俺もコテージに戻り、ベットの上で考えることにした。

 コレクターは色々な殺人を集めているのか?

 それかただの偶然なのか?

 流星はまだわからずにいた。

 そんな中昼になり、みんなで昼食をとることになった。

 しかし、空気は相変わらず重たい。

 それもそうだろう、既に2人が死んでいる。


「……あまり、腹減らないな」


 仁藤がそういうも、彩音と橘は料理を運んで来た。

 どうやらカレーライスらしい。


「……とにかくさ、料理食べて元気出そうよ」


 彩音もどうやらまだ2人の死を受け入れていなさそうだ。

 おそらく氷川も少しだけ他殺の線を考えているが、ストレートに他殺と言うと、疑心暗鬼になって何をしでかすか分からない。

 もう既に紫はコテージに籠りきりで気が滅入っている。

 万丈と仁藤も口数が少ない。

 皆、黙々と食事をする事になった。

 カレーライスの味はどことなく甘く感じた。

 すると、突然万丈は吐血し、地面に倒れた。


「万丈くん!?」


 彩音が駆け寄るも、万丈は息を引き取っていた。

 口から泡を吹き、絶望の顔を浮かべて。

 氷川は脈を確認し、臭いを嗅いだ。


「青酸カリか……」


 こうして、コレクターの第3のコレクション、毒殺が出来てしまった。


「……万丈が、死んだ」


 仁藤はすぐにトイレに向かい、口にした物を吐いた。

 みんなもその場に動けずにいた。

 そんな中俺は、特になんとも無い。

 そして、疑問が1つ浮かんだ。

 コレクターはどうやって万丈にのみ毒を盛ったんだ?

 あの間、毒を入れるチャンスがあったとは思えない。

 氷川はずっと座って伊達部長の現場の写真を見ていたし、仁藤はスマホを見て、繋がらないか試行錯誤し、橘と彩音は料理を作っていた。

 紫なんかは来てすらいない。


 そしてカレーライスに毒を盛ろうものなら万丈以外も犠牲者が出かねない。

 もう既に2人死んでしまっているからか、俺は冷静になっていた。

 慣れというのは恐ろしい。

 無意識のうちに起きている。

 橘は何かを思い出したのか、顔が青ざめていた。


「……私、気分悪くなったから、コテージに戻るわ」


「いや、あなたも現場にいた人として……」


 氷川の言葉を聞かずに橘はコテージに戻ってしまった。


「……流星、これで不幸の事故とは言えないな」


「……ああ」


 やっぱり、氷川も内心他殺だと思っていたらしい。


「刺殺、爆殺、毒殺、次はそれ以外のやり方か……とりあえずみんなはコテージに戻っていい、私はまだ気になる事がある」


 みんなはすぐさまコテージに戻り、現場には俺と氷川だけになった。


「……問題は、誰が盛ったか、そしてどこに毒を盛って、かつ万丈のみを殺せるようにしたのか」


 俺らは色々毒がありそうなところを見たが、全く分からなかった。


「……どこに仕込んだんだ?」


「それを今調べてんでしょうが」


 氷川が珍しく苛立っている。

 冷たい奴だと思っていたが、意外にも情に厚いのだろうか。

 すると、俺はある異変に気づいた。


「……欠けてる」


 その夜。

 橘香織は怯えていた。

 いつ来るかわからぬ恐怖に。

 怖くて夜も寝れなかった。

 あいつに、殺させる恐怖に。

 すると、ドアがノックされる。


「来ないでくれ! 頼む!」


 ドアのノックは段々と強くなり、橘の精神も壊れていく。


「あの時は知らなかった! あんな事になるとなんて……知らなかった」


 ドアは壊わされ、床に倒れる音がコテージに鳴り響く。

 黒いマントを羽織った何者かがサイレンサー付きの拳銃を橘に向ける。


「私がわ」


 パシュン。


 翌朝、正直俺はあまり寝れなかった。

 コレクターの正体はは絞れたものの、どちらでもおかしくないというのが現状だからだ。

 そんな中、ドアをドカドカと叩く奴がいた。

 朝から元気な奴はあいつくらいだろう。


「なんだよ、仁藤」


「橘先輩が……死んでる」


 その一言はブラックのコーヒーよりも目が覚めた。

 すぐに橘のいるコテージに向かうと、そこには、射殺されていた橘香織が居た。

 恐怖に歪んだ顔をして。


「……何人殺されたら、気が済むんだよ」


 仁藤は腰を抜かし、足が震える。

 氷川は相変わらず冷静を装っているが、拳は強く握りしめられていた。

 紫もその時は来たらしく、その場に嘔吐してしまった。

 ただでさえ何も食べていなかったのに吐いた物だから死にかけている。

 こんな時に言うのも不謹慎だが。

 そして、俺はそれと同時に犯人を特定出来た。

 でも、俺はそれを受け入れたくない。


「……流星」


「氷川、どうした」


「……これ」


 氷川は橘の手に握っている物を指さした。

 それは。


「……これが、先輩の遺言か」



 その後、氷川と俺はある人を呼び出した。

 そして氷川は告げた。


「単刀直入に言います。貴方が犯人なんですよね」









「鏡彩音さん」


 その日照らされながら、彼女がたっていた。


「……氷川くん、いきなり私を人殺しにするのは……酷いよ」


「彩音、正直に言ってくれ」


「流星君まで……」


 俺は言いたくなかった。

 だが、氷川は淡々と言う。


「コレクターとして伊達さん、草加の犯行は完璧と言えます。伊達さんが先にいるのを何かしらの方法で知ったあなたは前日に来て伊達さんに始末。そして草加のコテージにガスを充満させて、草加を爆殺した。そこまではあなたは完全犯罪をしかけたとも言っていい。だが、万丈の毒殺であなたは足跡を残してしまった」


「え……?」


「皿が1枚、欠けてたんです。ほんのちょっぴり、手で触らなければ気付かない程のね」


「……そんなの偶然でしょ?」


 彩音の目からは涙が潤んでいた。

 俺は、見ていられなかった。


「氷川、やっぱり彩音は犯人じゃ」


「流星、黙って、その欠けた皿にあなたは毒を仕掛けたんです。それを目印に万丈にだけ毒殺出来るようにし、我々は毒殺され無かった。そして皿を運んでいたのは橘先輩と貴方だけです」


「…………」


 彩音は息を荒くしていた。

 なにかに怯えている様に。


「そして最後に、橘先輩はある物を握っていました」


 氷川はポリ袋にしまわれた、手鏡を見せた。


「ドアも壊された所から見るに、襲われる事を知っていながら、橘先輩はこんな物を握っていました。おそらく、これはダイイングメッセージかと思われます」


 辞めてくれ、認めないでくれ、俺は信じたくない。

 君が。


 君が!


 君が!


 認めないでくれ!


 !!!!!!


「……そう」


 あっさりと、彩音は認めた。


「みんな……私が殺したんだよ……」


 氷川はため息をつき、聞いた。


「なぜ、4人も?」


「私に弟が居たの……知ってる?」


 俺は知っている。歳は結構離れていた筈だ。


「えぇ確か鏡新田かがみあらたでしたっけ、ですが。あの子は確か事故で」


「事故なんかじゃない。あれは、殺人だったの……あの日、私と新田は夏祭りに山の上の神社まで山道を歩いて居たの、そしたらね、私の目の前で新田は死んだの……轢かれて、即死だよ……?」


 彩音の目は血走り始めていた。


「……その時の車に乗っていたのが、あの4人だったんですか?」


「えぇ……事故だと処理された後に分かった。あの時は暗くてよく分からなったから……なんで、弟の命を奪ったのに、あいつらは何も、知らなかった様に……」


 そこから彩音が何を言っていたのかは分からない。でも、その言葉一つ一つが4人を呪うような呪文とも思えた。


「……だから殺してやった……殺人コレクターとして……そして、これで最後」


 すると、彼女はサイレンサー付きの拳銃を取り出した。

 まさかと思った時、既に身体は動いていた。


「か、鏡!」


「彩音!」


「じゃあね」







 





 パシュン。













 数時間後、何とか山を降りて電波が届く所から警察に連絡し、この事件は終わった。

 コテージの前には警察に保護された仁藤と紫、そして俺と。

 何やら仕事仲間と話している氷川。

 そして、5人の遺体がブルーシートに包まれていた。

 殺人コレクターの最後のコレクションは、自殺だった。


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