第48話─① まじゅちゅ、多様性。

 早速、俺たちは魔女の都市の市街地に足を運んだ。


 都市自体が湖の底に閉じられている為、陽の光が入ることはなく、代わりに人工照明として作られた月が都市全体を照らしている。


 立ち並ぶ家々は、曲がりくねっていたり、内側から尖ったものが飛び出ていたり、約千六百八十万色に光っていたり、なんだったら壁に目が付いて俺たちを見てきたりしている。


「なんとなく察していると思うが、家に住んでる奴の魔術研究の結果じゃ」


 訪問は五人で押しかけるのは多すぎるということで、“アルテム&エリゼ”と“イノリ&クルゾウ&セン”の二チームに分かれて行うことになった。



 まずは一軒目。毳毳けばけばしく彩られた家のドアをノックした。

 すると、家以上に毳毳しい化粧をした女性が出てきた。


「あら〜ン、見かけない顔ね。まぁここに住んでる人の顔なんてあんまり見たことないけど。

 なにか用かしら?」


「クルゾウの訪問仕事の手伝いで来た。魔術研究についても少し確認してもいいだろうか?」


「…………いいわ。お入りカミーン」


 俺とエリゼは家の中に入る。

 中には、大量の首から上のマネキンが置かれていた。その一つ一つに違った化粧が施されている。


「化粧。それが貴女の魔術研究物か」


「そうよ。私の魔術は様々なものを化粧品にできるの。

 例えば、このアイシャドウは海の砂浜。このチークは桃の皮。この口紅は────」


 女性の説明を聞きながら俺とエリゼは化粧を見ていく。エリゼはかなり興味ありげで匂いも嗅いでいる。

 ほんとにいろんな種類あるな。

 その中で目についた紫色の口紅に触れようとした時だった。


「お待ちなさい!」


 女性が急に声を荒げた。俺は驚いた反動で手を引っ込める。


「どうか……したのか?」


「その口紅はクモの毒を使ったものなの。皮膚が溶けたりして危険よ」


「その口紅、販売したりしたのか?」


「ありえないわもちろん販売中止よ。でも試作品は幾つか残ってるわ」


「そっか。ちゃんと処分してな」



 二軒目。俺たちの前にそびえ立つのは太く立派な大木。その頂上付近に家が建ってた。


「これ登んのかよ?!」


「アルなら二、三回跳ねれば簡単に着くんじゃないですか?

 それより、おぶってもらって良いですか? メイド服じゃ登りにくいので」


 俺はエリゼが乗りやすい様に屈む。すると、エリゼがズシっと乗ってきた。


「アル、今私に失礼なこと考えました?」


「ソンナコトナイデスヨー。イヤーエリーハハネノヨウニカルイナー」


「今の体勢なら、私その気になればチョークスリーパーできること忘れないでくださいね」


 本当は背中に当たる柔らかい感触について考えてたが、チョークスリーパーが怖いから考えるのをやめた。


 エリザの言う通り、たった三回のジャンプで大木を登りきって木の上に到達した。


 ドアを叩くと、弱々しい見た目の男が現れた。

 その二の腕や足は、大木というより枯れかけの細枝だ。


「どなたですかぁ……?」


 声まで弱々しい男の質問に、クルゾウの代理訪問であることを説明した。


「そうなんですね。それならぜひ入ってください」


 家に入ったが、その中は数個の木製家具が開かれているだけの、子供の頃に貰ったおもちゃの家を思い起こさせる普通の家だった。


「あの大木が魔術研究の成果なのか?」


「あー、あれはただの木だよ。僕の成果はこの家全体だ」


 そう言われて家を見回すが、やはりこれといったものが見当たらない。


「この家はね、下に生えて成長している木を加工しながら作ったんだよ。こんな風にね」


 男は窓から手を伸ばし、木から伸びた細枝を掴み取る。そして両手に魔力を込めて細枝をさすると、細枝は削れて木の釘に変化した。

 枝を削り終えて男が手を離すと、釘はそのまま勢いよく落下し、床から少し浮いている板に突き刺さって床に固定した。


 芸当を見せた男は隙間だらけの歯を見せる。


「ね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る