ルイキの休日、行き先はまさかの魔神狩り?

第10話

うつらうつらと夢の中。どんなに平凡な日々だろうと、毎日肉体労働をしてれば体だってそれなりに疲れてくるわけで。カーテンから漏れた光がまぶた越しに映る。もう日は昇っている時間だということがわかる。でも今日はせっかくの休日だ。一日中寝てたって許されるに決まっている。

寝返りを打って、頭から布団をかぶる。まだ眠い。今日は一日、睡眠に勤しむんだ。太陽の光ごときにそれを邪魔されてたまるか。

「なんだ。もう昼になるのにまだ寝てるのか」

そうだよ。俺はまだまだ寝るんだよ……って、は?

俺は慌てて飛び起きた。重いまぶたをゴシゴシと擦って、声がした方へ目を向ける。俺のベッド横に腕を組んで立っていたのは……。

「ムメイさん?!?!な、なななな、なんでいるの?!」

俺の部屋になぜムメイさんがいる?!寝ぼけた頭で考えてみても、納得できる答えはちっとも思いつかなかった。

ムメイさんは俺がはくはくと口をさせている様子を呆れた顔で見下ろしている。

「なんでも何も、お前だって知ってるだろ?転送魔法で来た」

チャリで来たみたいに言うな。起きたらあんたが俺の部屋にいる理由なんか知らんわそんなの。

ムメイさんは俺の足元を通り過ぎると、カーテンを開いた。うっ、眩しい。きっと吸血鬼だったら一瞬で灰になってる。

部屋の中を舞う埃が太陽の光を反射してキラキラと輝く。ムメイさんは部屋の中を一瞥して顔を顰めると、窓の鍵に手を掛けた。窓が開かれた瞬間に、部屋に爽やかな風が入り込む。

「お前の部屋、埃っぽい。換気しろよ、換気。あと掃除な」

ムメイさんはまるで汚いものでも触ったかのように、窓の外で手を払った。

埃っぽくて悪かったな。あと勝手に人の部屋に入り込んでおいて文句を言うな。

あーあ。せっかくの二度寝モードだったのに、完全に目が冴えてしまった。太陽の光どころか、もっととんでもないのに睡眠妨害されたもんだ。

パジャマ姿のままベッドで胡座をかいて座っている俺の横に、ムメイさんは腕を組んだまま腰掛けた。

「お前今日休みだったよな?」

「休みですけど」

ふわあと大あくびする。目が冴えてるとはいえ、体はまだ睡眠を欲しているらしい。その体のだるささえも、次の瞬間には吹っ飛ぶことになるけど。

「魔神狩り行くからついて来い」

「……は?魔神狩り?」


ムメイさんはモブ以上にはなりたくない!#10


思わず聞き返してしまった。

「一狩り行こうぜ!」みたいなノリでなんてとんでもないことを言ってるの?この人は。

「そうだ。魔神狩りだ」

ムメイさんはポケットからごそごそと何かを取り出すと、何やら懐中時計のようなものを取り出した。

「これを見ろ」

早速、取り出した懐中時計のようなものを開いて俺に見せる。わあ、やっと異世界っぽいグッズが出てきたな。金色のコーティングに鎖がついていて、見た目はただの懐中時計のように見える。でもこうして映像が映し出されているってことは、ただの懐中時計ではないんだろうな。

懐中時計には時計の代わりに、どこかの塔らしき建物が写っていた。塔というか、螺旋形の大きな蕾のようにも見える。いかにも何か封じられてそう。

「なんか建物が見えますね。どこですかここ」

「西の果てにある塔の一つだ。ここに魔神が封印されている。何もなければ本来は数千年は余裕で封印されているが、ここ数週間でなぜかいきなりその期間が縮まってな。完全に封印が解ける前に早めに原因を究明して、排除しておきたい」

封じられている魔神が目覚めそう?なんかいきなり異世界転生もののラノベらしくなってきたな!数千年単位って言ったら、RPG系のゲームなら勇者がカンスト近くまでレベルを上げて、蘇生魔法が使えるヒーラーとかなんかでかいやつを出して攻撃する魔法使いとか、それなりのパーティーを組んで挑むレベルじゃないの?!

……だからこそ疑問に思う。

「でもなぜ魔神狩りに俺が必要なんですか?」

ムメイさんみたいな超人と、まだ何の能力にも目覚めてなくて簡単な魔法すらも使えない弱……正直認めたくないけど超弱い俺。ムメイさんみたいに強い人ならまだしも、どう考えても、俺みたいなのがいたら足でまといじゃん。

複雑な俺の心境などつゆ知らず、ムメイさんは顎に手を当てながらキョトンとした顔で言った。

「う〜む……なんというか、行けばわかる?」

なんだ行けばわかるって!

この前の長ったらしい説明の時も思ったけど、もしかしなくてもこの人説明下手なのか?!「なんて説明したらいいのか……」とまだ首を傾げてるムメイさんの姿を見ていたら、頭の中でぐちゃぐちゃ考えてたのがアホらしくなってきた。

ちょうど異世界に来て、ただスローライフを送ってばかりじゃつまらないと思ってたとこだ。こんな弱いままの俺が魔神が封印されてるやばいとこに挑むなんて無謀かもしれないけど、最強のメイドと一緒ならどうにかなる気もする。それにやっと手の届くところにやってきた冒険にこの湧き立つようにワクワクした気持ちが隠せない。

「わかりました。俺でよければ!」

俺がそう言った瞬間にムメイさんは眉間の皺を緩ませて、自分の両手をきゅっと握った。

「そう言ってくれてよかった。手荒な真似をしないで済んだしな」

手荒な真似って何?!もし断ってたら俺、何されるところだったの?!

……さすがに怖くて聞き返せなかった。結局のところ、はじめてのおつかい事件同様に「はい」か「Yes」の二択だったんじゃないか。最初からそのつもりだったなら、俺の葛藤の時間を返して……!




さて。どちらにしろ、出かけるならこのパジャマ姿ではどこにも行けない。準備をさせてもらうことにしよう。

「ムメイさん。とりあえず身支度を済ませちゃうんで、少しお待ちいただいても……」

「それならいらないぞ」

ムメイさんは食い気味に答えると、魔法を唱え始めた。

「メイクオーバー+α tunmenks!」

呪文を唱え始めた瞬間に着ていたパジャマが、みるみるうちに鎧へと変わっていく。腕を上げただけで鉄と鉄がぶつかってガシャガシャと音を立てる。視界が兜で遮られて狭くなる。おお、これはすごいぞ。俺はなんだか楽しくなってきて、腕や足をパタパタと動かした。動かすたびにガシャガシャ音がする。

「何はしゃいんでるんだよ。ガシャガシャガシャガシャうるせえな」

どちらさま?

思わず俺はそう言いかけた。だって隣にいたのは口調がムメイさんだけど鎧を着たムキムキマッチョで、髭がモジャモジャのむさ苦しいおっさんだったから。ていうか声もおっさんみたいになってるし。

「とりあえず塔の前にいた奴らと同じ格好にしといた。中に入るときは、交代を命じられたという設定で話を進めるぞ」

「は、はあ」

うわっ。声低っ!俺もまだ自分の姿こそ確認してないけど、むさ苦しいおっさんになってるのかもしれないなあ。

はあ、おっさんに変身して魔神狩りしに行く休日っていったいなんなんだよ。もっと流行りの異世界転生もののファンタジーってさあ、イケメンとか美女が剣振り回したり魔法使ったりしながら冒険したりするものじゃないの?なんでおっさん二人で魔神狩りなの?誰が喜ぶの?

しかも鎧ってすごい蒸れるんだなあ。風通しは悪いし自分の体温でじっとりしてる。今は窓から入ってくる風が鎧の隙間から入り込んできてくれるからどうにかなってるけどさ。

ムメイさんはそんなことを考えている俺の気なんかお構いなしに、ベッドから立ち上がると俺の手を握った。ガシャンガシャンガシャン。一動作するごとにガシャンと音を立てる。

わかったよ。いつまでもこうしてるわけにもいかないしな。身支度は済んだし、あとは戸締りだけ……。

「さあ、着替えも済んだからそろそろ出かけよう。テレポート+α nsnhtnmjnn……」

「待っ……」

て、戸締まりが〜!!

言い終えるよりも早く、俺はムメイさんの魔法にかかる。

魔法がかかる寸前、風でバタバタとはためくカーテンが見えた。電気がついていない真っ暗で誰もいない部屋、風ではためくカーテン、窓以外は全て閉められた鍵。今、俺の部屋を訪ねて来る人がいたとしたら、きっと俺は何者かに誘拐されたと思われることだろう。こんな時だけ、俺のモブ力が生かされて誰にも気づかれないことを願う。……って、モブ力ってなんだ。うるせえ。


こうして俺の貴重な休日は「おっさん二人が行く!魔神狩りの旅」に溶けていくことが決まったのです。

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