小動物系ロリメイド、アン登場!

第3話

ゴロツキに絡まれ、メイドが(以下略)と散々な目にあったはじめてのおつかい事件を終えてしばらく経った今日この頃。超人メイドとのいざこざ以外は特に大きな出来事もなく、異世界転生者ルイキこと野間類稀は今日も屋敷の一使用人として、スローライフを送っています。……唯一変わったことといえば、最近ちょっとばかり誰かの視線を感じるくらい?


ムメイさんはモブ以上にはなりたくない!#3


ねえ?!本当に何もなくない?!イベントってこれだけ?!?!なんで俺、毎日毎日屋敷の掃除してんの?なんで今、俺は今日も庭で箒をはいてるの?!異世界転生者なら普通は箒じゃなくて剣とか杖とか振り回してる頃じゃないの?!どう考えてもおかしいだろ!!!

あれからあの超人メイドとも何も起きないし……いや、あれがヒロインでも困るから、メイドとは何も起きない方がありがたいくらいだけど!

ていうか屋敷の中のあいつは本当にどこにでもいるただのメイドなんだよな。他の使用人たちと同じくらいのレベルの魔法くらいしか使わないし、買い物に行く時は徒歩だし。

持て余してるくらいなら、その有り余る超人パワーを俺に少しでも良いから分けてくれよ!!

「ひゃっ!」

心の中の葛藤を地面に散らばる落ち葉たちにぶつけながら掃除に勤しむあまり、誰かとぶつかってしまったようだった。いかんいかん。周りはちゃんと見ないと。

「いたた……」

ぶつかった相手は草むらで尻もちをついていた。長い栗色の髪をゆるく編んだ三つ編みに素朴な顔立ちで、いかにも町娘という雰囲気の小柄なメイドさん。目をうるうるとさせ、ぶつけた部分を摩っている姿はまるで小動物のよう。異世界にはこんなに小さくてかわいいメイドさんまでいるのか……じゃなくて。早く謝らないと。

「ごめんなさい!大丈夫ですか?」

手を差し出すとメイドさんは照れ笑いしながら俺の手を掴んだ。かわいい。

「えへへ、ぼくの方こそよそ見しててごめんなさい」

メイドさんは頭を下げると、腕につけていた時計を見た。細くて白い腕につけられた、茶色い革製のベルトの小ぶりな時計。

「そろそろお昼時ですし、集めた葉っぱを袋に詰めてからランチの時間にしませんか」

ぼ、ぼくっ娘……!ていうかもうお昼の時間なのか。

「そうしましょう」

「やった!じゃあ、ぼくが袋を持っていくので、集めてきた葉っぱを入れてもらってもいいですか?」

「わかりました」

メイドさんは両手を広げるよりも幅のある大きな袋を目一杯広げて立っていた。メイドさんがあまりにもロリ……小さすぎるからか、袋を広げて立っているだけで一生懸命に頑張っているように見えてしまう。

「じゃあ入れますね」

「はいっ!」

俺はブルドーザーを操作するみたいに豪快に落ち葉の山にちりとりを突っ込んだ。それを広げてもらっている袋の中に入れる。

どさどさどさっ!

一回入れたぐらいじゃ、山肌が少し削れたくらいしか減らない。入れては袋へ。入れては袋へ……一山分入れ終わった頃には袋の三分の二くらいが埋まっていた。庭掃除って箒で掃くだけなら簡単だけど、この集めた葉っぱを入れる作業が大変なんだよなあ。

「たくさん集まりましたね!お芋があったら焼芋とか作れそう」

袋を持ち上げてとんとんと集めた落ち葉を均しながら、メイドさんは言った。

異世界で焼き芋か。

「良いですね。俺、実は焼き芋って作ったことないんですよね」

「もしかして、ルイキさんって都会っ子ですか?ぼくは田舎っていうか、山生まれだったからな〜。この時期は毎日のように落ち葉掃きでしたよ〜。たくさんあるから集めるのは大変なんですけど、いつも集め終わったら両親がご褒美に焼き芋をご馳走してくれるんです!疲れた体に甘いお芋の味がまたしみる〜!」

メイドさんはうっとりとした表情で自分の両手を握りしめた。焼き芋大好きなんだなあ……と思わずほっこりしてしまう。

親のお手伝いで落ち葉集めかあ。えらいなあ。

それにしてもこの世界にも落ち葉で焼き芋という文化はあるんだな。なんかちょっとだけ親近感が湧いた気がする。

「なんか話してたら食べたくなってきちゃったなあ〜。……そうだ!これからまたたくさん落ち葉が集まるでしょうし、今度みんなで焼き芋しませんか?たくさん作って余ったら、スイートポテトとかにしても良いし!今度買い出しに行く時にお嬢さんにお願いしてみようかな〜」

みんなで焼き芋……悪くないかもしれない。正直なところ、お芋にはそんなに興味が湧かないけれど、楽しげに話すメイドさんの姿を見ていたら喜ばせてあげたくなってきた。俺ができることなのであれば、頑張ってるこの子に力を貸してあげたい。

「それなら俺も荷物運びとしてお供しますよ。お芋って結構重いでしょ?」

俺がそう訊ねると、メイドさんは目を輝かせてぴょんぴょんと跳ねながら喜んだ。

「いいんですか?!じゃあ約束ですよ!」

約束……!良い響きだ。

この小さなメイドさんを喜ばせるための約束。それならいくらでも取り付けられる。この前のよくわからん約束なんかとは大違いだ。あんな脅しみたいなやり方で半分無理やり取り付けられたみたいな約束なんかとは!

「じゃあぼくはこれを置いてから戻るので、先に屋敷の方に戻っててください!」

メイドさんは袋を持ち上げるとゴミの収集場所にむかって歩き始めた。

「わかりました」

袖でグイッと額の汗を拭う。それからメイドさんが歩いて行った方へ振り返った。……先に戻ってていいとは言われたものの、なんとなく様子が気になって。集めた葉の量からして、袋はなかなかの重さがありそうだったし。

よたよたとあっちへこっちへとよろめいて歩く小さな後ろ姿はまるでペンギンのようだった。右に大きくふらふらとよろめいたと思ったら今度は左へ。十歩くらい進んでは袋をおろしてひとやすみ。そしてまた歩き出す。

見るに見かねて「お手伝いしましょうか?」と声をかけると、メイドさんは振り返って「大丈夫です〜!」と笑顔で手を振った。

袋を持ち上げてはあっちへふらふら、こっちへふらふら。

大丈夫とは言われたけれど、大丈夫には見えなかった。今にも転びそうで危なっかしすぎる。

「やっぱり俺持ちます」

メイドさんのところまで歩いて行き、袋を下ろしたタイミングで横から袋を取り上げた。重い。やっぱり一人で持っていける重さじゃないじゃないか。

メイドさんは申し訳なさそうに頭を下げる。

「すいません。持ってみたら思ったよりも重かったんです。でもさすがに後からお願いしなおすのは申し訳なくて」

俯いてもじもじしながら答える姿がいじらしい。

困ってる時はいつでも頼ってくれて大丈夫なのに。

「大丈夫ですよ。力仕事は任せてください!」

右腕に力こぶを作ってみせると、メイドさんはおかしそうにくすくすと笑った。

「じゃあ力持ちのルイキさんのお言葉に甘えてお願いしようかな」

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