一日目・5

 近くの小川を辿って森の奥へ行くと、沼のあるのが確認できる。ボートを二艘、縦に並べたほどの大きさだ。周囲には丈の高い草が茂っているので、歩くときは注意を払わねばならない。

 沼のそばには一本の木が生えている。それは丈こそ他に劣るものの、一際太く、堂々としていた。樹皮は固くささくれ立って、大きく歪に垂れた瘤がある。枝はだいたいが天に伸びていたが、地を這うように成育しているものもあった。その木の幹にはひとつの影が凭れていた。四肢を力なく投げ出し樹上を仰ぐその姿は人間だった。

 それには目玉がなかった。ぽっかりと空いた眼窩の底には黒々とした血が溜まっている。口の端は裂け、無理やり大きく開かされており、ふたつの目玉はその中に詰め込まれていた。

 沼のそばに物言うものはいなかった。夜は更けていき、やがて朝が来た。

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