第140話 胎動

■中央ゴレムス暦1586年6月10日

 アルタイナ ショクト


 アルタイナは現在、ガーレ帝國、エレギス連合王国、ヴァルムド帝國、そしてアウレア大公国によって分割統治されている。


 もちろんアルタイナの領土もあるにはあるのだが度重なる政府の失政や他国からの干渉で年々国土が削られているような状況である。

 列強国の領土内は租界と呼ばれ、アルタイナとは完全な別世界になっている。

 当然、アルタイナに治外法権はなくその法律が適用されることもない。


 基本、アルタイナの民たちは税が低ければ誰に支配されようと関心のない者も多い。しかしそんな者たちだけのはずはない。現状に不満を持つ知識人層の人々により創設された『義国同盟ぎこくどうめい』と言う組織には今、反外国の思想を持った人物たちが集まっていた。


 アルタイナの北にある大都市、ここショクトの名士、ヨウケンの屋敷では多くの愛国者たちが意見を交えていた。


「くそッ……いつまで俺たちの国土を汚らわしいつ国のヤツらに奪われなくてはいかんのだ!」

「アルタイナは我々の国! いつまでこの地を蹂躙させておくのか!?」

「義国同盟の規模も大きくなってきたがまだだ! まだ足りん!」

「我が国の強みは数よ……庶民たち、農民たちを取り込むのだ」


 現状、このショクトを中心にいくつかの都市で義国同盟は活動している。

 ショクトでは既に知識人を中心に二○○○○もの勢力に誇っていた。

 更に東のリャントンにも一二○○○近くが集結している。

 着実に数を増やしているのは確かであった。


 武器は隣国メルトキアやアルタイナ利権に絡めていないガヴァリム帝國による支援を受けている。アルタイナ政府は列強各国から型落ちの武器を売りつけられているのに対して義国同盟は密輸で入手している。


「それにしてもアウレアもアウレアよッ! 列強国を気取りおって。ガウガの威を借るコンよ」

「世界はアルタイナのものだ! 同じ東ディッサニアで我が国に従わぬとはけしからん!」


 アルタイナは東ディッサニア周辺の各国は全て自分の物だと言う思想を持っており、自国から離れるほど蛮国であると認識される。

 それが東亜秩序と呼ばれる思想である。


 この混沌としたアルタイナ国内では伏魔殿パンモデニウムと化していた。

 政府や義国同盟だけでなく、アルタイナ政府自体を打倒して取って代わろうとしている勢力も現れ始める。

 それは世界にはびこり始めた君主制打倒を目指す紅化主義であった。

 世界の国家はまだまだ君主による専制政治である。

 それがアルタイナの南の地、ナンキに集結し、一大勢力になろうとしていた。

 名前は紅巾衛軍こうきんえいぐんと呼ばれ大いなる指導者のタクトウに率いられこれまた勢力を伸ばし始める。彼らは義国同盟とは違いアルタイナ政府の中枢にも入り込み、これを浸蝕していた。


「今の支配体制は間違っている。人民が人民のために人民のための政治を行うのだ! 皆の者! 君主制と言う時代錯誤な階級制度は打破してやれッ!」


 タクトウは特にアルタイナの大部分を占める貧困層からの支持を集めその兵力だけは膨らんでいった。


 列強各国、そしてアウレア大公国はアルタイナにおけるガーレ帝國の暗躍に気をとられ、これらが胎動しているのに全く気付いていなかった。

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