第138話 おっさん、自領に戻る
■中央ゴレムス暦1586年6月8日
ウェダ おっさん
おっさんは法案審議を抜け出してウェダに戻って来ていた。
法案はいくつか提出されているがおっさん的に成立すれば良いと考えているのは4つだけだ。
・元帥位常設、及び元帥への軍権委譲
・銃火器保有禁止法の撤廃
・軍制改革の継続と徴兵による戦力増加
・教育法の改正
最早貴族が兵力を出し合って敵と戦う時代は古い。
おっさんの中ではだが。
それに大事なのは教育の徹底による一般層の教育水準の底上げだ。
これまで高等な教育を受けていたのは貴族だけであり、国民は義務教育と呼べるものは3年間のみであった。しかも義務と言いつつ、農村部では学校に来ない者も多かったのだ。
まだまだそのような戦い方をしている国も多いが戦争の近代化を図ることで戦況を優位に進められると考えている。また列強国への対抗策としても有用だろう。
おっさんがウェダに帰ってきたのは長い間留守にしていたため、部下に任せていた仕事の確認をすることであった。
「ヤスダ~」
「閣下、お久しぶりでございますな。ご健勝のようで何より」
「ヤスダもしばらく見ない内に爺さんになったな」
「そうですな。そろそろ退役して孫の相手をする年齢でしょう」
ヤスダはニヤニヤしながらおっさんの軽口を受け流す。
ノックスよりお堅い感じではないヤスダはおっさんにとって気安く話せる部下の内の1人であった。名前で呼ばず名字で呼べと言われたのにはこだわりがあるのかも知れないが。
「目ぼしい人材は見つかったか?」
「かなりの士官希望がありましてな。ちと疲れました。士官でなくとも軍で戦いたいと言う者ばかりで、とんだ金食い虫になりそうです」
「軍制改革が為ればそのうち国軍になる。まぁその分儲けなきゃならんけどな」
「閣下は金儲けの才能もおありだ。国庫が潤うのは富国への第一歩ですからな」
おっさんの領土は今、学校や病院などの建築ラッシュとなっている。
更には上下水道などのインフラ整備も進めていた。
これはガーランドからドワーフやエルフなどを招聘して監督・指導をしてもらっているからできることであった。
また、おっさんは将来のことを考えて、かなりの人員をガーランドに留学と言う形で送りこんでいた。
更にイアーポニアからは鍛冶職人を招聘している。
彼の国は独力で火縄銃を改良しその威力を底上げしている国だ。
それに武器だけではなく鉄加工技術のノウハウがあるのでインフラ面でも活躍してくれることだろう。
ちなみに共同での新兵器開発のプロジェクトがスタートしている。
「人材登用の件は明日から順次始めるから手配しておいてくれ」
おっさんが直接対象を見ればその者の能力が分かる。
そうすれば適材を適所に配置することも可能だろう。
まぁ軍事面だけなのが玉に
おっさんは、ざっと溜まっていた書類に目を通すとその日はぐっすりと眠りについたのであった。
―――
――
―
――翌日。
おっさんは人材との面談と言う名目で登用した人物たちと会うこととなった。
隣にはヤスダが座り書類に目を通している。
おっさんが名前を呼ぶと順番に1人ずつ部屋に入ってくる形式だ。
早速、名前を呼ぶと中肉中背の
その男は背筋をピンと伸ばすと一礼し用意していたであろう口上を述べる。
「マクシミリアン・ダフィと申します。閣下の下で働きたく存じます」
おっさんはすぐにボードを確認した。
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「(ん? んんん? あれ? 何か項目が増えてるぞ……?
おっさんは思わず二度見してしまった。
ボードが進化したことに驚いたのだ。
そして目をこすってみるが表示に変わった様子はない。
「閣下……?」
そんなおっさんの態度を不審に思ったのかヤスダが疑問の声を上げる。
「ああ、すまん。ダフィ君か。是非、採用したい。力を貸してくれ(外交交渉が得意なのか? ボンジョヴィに鍛えさせるか)」
「は……? 採用でしょうか?」
おっさんが即断したことが驚きだったようでダフィは呆けた声を上げた。
何もアピールせずに採用されたのだ。
驚くなと言う方がおかしい。
「ああ、キミには交渉事を任せようと思う」
「交渉ですか……私の得意分野です。頑張ります」
「うん。期待している」
「閣下、よろしいので?」
ヤスダも驚いている様子で声色に戸惑いが見える。
おっさんはヤスダを安心させるためにニカッと笑って見せた。
その後はヤスダも面接者も驚きのスピードで面談を終わらせていく。
「(いやーよく分からんけど便利な機能がついたな。ボードも進化するのか。どんな条件だ……?)」
予定していた人数の面談はあっさり終了した。
≪能吏≫は官僚の才能を持つ者、≪兵家≫は兵法に通じる者、≪人材捜索≫はその名の通り、優秀な者を探し出す能力を持つ者と言った感じである。
「(うーん。生まれつきか、後からでも付与されるのかな? もう一度検証してみる必要がありそうだ)」
おっさんは適当な自分の性格を少しばかり反省して、与えられた能力と向き合う時間を取ろうと心に決めたのであった。
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