第107話 講和仲介
■中央ゴレムス暦1583年7月4日 朝
「承知致しました。すぐにご報告致します」
そう言っておっさんからの魔導通信を取った大使館職員はすぐにレオーネのところまで走った。
「あ、サクシード外務長官、お食事中でしたか……」
「ん? 何かあったの? 報告があるなら聞くけど」
「よろしいので?」
「いいわよ。アルタイナのことでしょ?」
普通なら食事をしながら仕事をすることなどないのだが、レオーネにとっては対アルタイナの件は最重要事項だ。
「はッ昨夜サナディア卿がアルタイナ軍の籠るフケン要塞を陥落せしめたとの一報が参りました」
「本当ですか!? 流石はサナディア卿。想定より大分速い攻略ですね」
「はッ多くのアルタイナ兵を捕虜とした模様です。昼ごろからアルスに向けて進軍するとのことです」
「これで予定通りにことが進められるわ。ここからが腕の見せ所ね」
レオーネは手早く朝食を平らげるとすぐに魔導通信機の前に陣取った。
まずはヴァルムド帝國だ。
帝國のブリュネル外務卿はすぐ捉まった。
「お忙しいところありがとうございます。サクシードです」
「これは外務長官殿、此度はアルタイナの件で?」
「そうです。昨夜行われた戦いでフケン要塞は陥落しアルタイナ軍に大損害が出たと言う話です」
「何と! もう決着がついたのですか?」
「ええ、アウレア大公国軍が首都アルスに到着するのは時間の問題です。我々はすぐに講和のための仲介に入りますが、よろしいですね?」
「ふむう。約束でしたからな。我が国に反対する術はございません。我々も調べてみますが、本当に陥落したのですね?」
「情報は追々入ってくるでしょうが確かな情報です」
本当はアウレアが講和の斡旋を頼んだのだが、そこは言う必要などない。
アウレア大公国がアルタイナを完全に滅ぼし、国家を崩壊させてもとてもその国土を占領統治できる国力はない。そのための講和の仲介である。
元々エレギス連合王国がガーレ帝國の暴走を喰い止めるために、アウレアに接近したのである。
ヴァルムド帝國との折衝が終わると次はアルタイナにある領事館に通達を出す。
アウレア×アルタイナ戦争を終わらせるべく、エレギス連合王国が仲を取り持っても良いと言う話をするのだ。
リョクコウの戦いに次いで、フケン要塞でも大敗したとなれば、アルタイナはこの話に飛び付くだろう。そうならなくてもアルタイナ国内の革新派が黙ってはいまい。
レオーネはエレギス連合王国の外交戦略が上手くいっていることを確信した。
―――
■中央ゴレムス暦1583年7月4日
アルタイナ 首都アルス
「何だとッフケン要塞が落ちたと申すかッ!?」
アドに乗って首都アルスにまで駆けに駆け続けた伝令の言葉にアルタイナ皇帝の声は知らず知らずの内に荒くなっていた。
「はッ戦死者は五○○○以上にもおよび行方不明者、傷病者を入れればその数は甚大です。とても戦を続けることは不可能です」
伝令の淡々とした説明に場の空気が一気に重いものに変わる。
「おのれ……カント将軍は何をしていたのだ」
「将軍は討ち死になされたとの情報があります」
「なんと……何故こんなにも早く要塞が陥落したのだ?」
「アウレア軍は督戦で捕虜部隊を運用し、更には要塞西側の断崖から内部に侵入したようにございます」
「あの天嶮の要塞の西側からだと!?」
伝令が下がった後も、アルタイナ家臣団によって喧々囂々の話し合い、もとい喚きあいが続いた。
そこへ更なる情報がもたらされる。
エレギス連合王国が戦争終結のために仲介を買って出たと言うのだ。
この情報により、主戦派を唱えていた者も大人しくなっていく。
被害は甚大だ。
それをよく分かっていたのだろう。
「幾ら仲介してもらうと言っても賠償金や国土の割譲は恐らく確定だッ、これ以上の負担は国を傾かせるぞ!」
「傾くぐらいなら講和すべきだ。国が滅びてからでは遅いのだぞッ! まだ力が少しでも残っている内に交渉の席に座るべきだッ!」
「馬鹿な……これ以上国土を失えば、我が国は二度と立ち上がれなくなるぞッ! 他の列強国も更に干渉を強めてくるだろう」
「野心を持つからそのような結論に至るのだッ。残された国土で平和に暮らすのを国民は望んでいる。不平等条約についても話し合いで解決すればよい」
主戦派と停戦派の論戦は深夜にまで及んだ。
―――
■中央ゴレムス暦1583年7月5日
ガーレ帝國 ガレ
「エレギス連合王国に上手くやられてしまったな」
皇帝ラスプーチン・ガ・レ・メドベージェフが僅かに笑みながら丞相のアロゾフに語り掛ける。
「彼の国がアウレア大公国を使って我らが野望を挫いてくるとは思いもよりませなんだ」
「これでヘルシア半島はアルタイナの従属関係から外れることとなるだろう。ヘルシアでの工作活動を密にせよ。親ガーレ帝國派を作りだし将来の備えとせよ」
アウレア大公国がアルタイナに領土を持ったとしてもおいておける兵力はそれほどでもない。多く駐留させようとしたら列強間の条約に巻き込んでしまえばよいのだ。
更にアウレア大公国はヘルシアの完全独立も掲げて戦っている。
アウレアにとっての絶対防衛戦はヘルシア半島となる。
皇帝はそれを見越してヘルシアに新たなる火種を作ろうとしているのだ。
「はッアウレア大公国の処遇についてはどうなさいましょうや?」
「彼の国はアルタイナから領土を得るだろう。かつてのバルト王国の時のように列強国で圧力をかける」
「しかし、今のアウレア大公国にはエレギス連合王国がついておりますぞ」
「何、失敗しても構わん。アルタイナ周辺に火種を残しておければよい。そしてアルタイナから更に搾り取れ」
「御意にございます」
ガーレ帝國の最優先事項は不凍港の確保である。
そのためにはヘルシア湾に進出するのが一番速いし楽なのだ。
ガーレ帝國皇帝の野望は留まるところを知らない。
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