第68話 おっさん、交渉する
■中央ゴレムス暦1582年12月20日 14時半過ぎ
おっさん
周囲の混乱の中であっさりとガイナスは見つかった。
彼が普通の兵士よりも頭抜けて巨体であることが理由だが、声がまた馬鹿でかいことも理由の1つだ。
「おう。ガイナスくん。無事だったか。良かった良かった」
「閣下、遺憾ながら預かった兵の多くを失っちまった。竜騎兵もだ」
「敵は強いから仕方ないね。もっと兵の質と量を増やさなきゃいけない」
「今回の敵がプレイヤーってヤツだったからなのか?」
「え? ああ、うん(あれ? 俺、敵大将がプレイヤーだって言ったっけ?)」
「(隠す気はないみてぇだな)あいつだ。あいつがプレイヤーだとさ」
ガイナスが大剣で指したその方向には、顔に満面の笑みを浮かべたブレインの姿があった。既に副官たちの姿はない。傍らにはバルト王国兵が控えている。
「お前が
ブレインの挨拶代りの言葉におっさんは思わず目頭を押さえた。
久しぶりにその名前で呼んでもらえたので少々感極まったのである。
「おい……。おい。おっさん」
「いやー齢をとると涙脆くなっちゃうんだよね」
「ホントにおっさんなのな」
「そう言うあんたは、えーと」
おっさんがボードを思念で操作しながらブレインの名前を探す。
「
「ああスタミナ――」
「言わせねぇよ!?」
ブレインこと須田宮が慌てて制止する。
何か嫌な思い出でもあるのだろうか?とおっさんは思わず首を傾げた。
「チッ……まぁいい。倶利――アルデ将軍、提案だ。俺たちを無事に撤退させろ」
「提案? 我がままの間違いでは? もう勝負は決してるし後は追撃戦になるだけよ?」
「
ブレインが自分を右手の親指で指差す。
自信があるのかその表情は明るい。
「総大将が
「俺が死ぬ気で暴れればそっちにも大損害が出るだろうな。大事なお仲間が死ななきゃいいなぁ……」
確かに《一騎当千》や《無双》と言う個人の武勇を跳ね上げる【個技】がある世界である。1人で千人斬りだって可能かも知れない。
「脅しかよー。そんなの交渉にもならないぞ? 俺がキミを喰い止めてる内に全軍で追撃かけることにするわ」
「そこのガイナスってのの部隊を半壊させたのは俺の【
「もう効果切れてるでしょ? 《覇王の進軍》も俺の【
「ハッ……やっぱり分かるよな……ってこたーお前もプレイヤーってことでいいんだな?」
実際には相手の【
「そうだね。いるだろうとは思ってたけどやっぱりいるよねぇ」
「お前さんはまだまだこの世界のことを知らねーみてーだな」
「まぁ来て日も浅いしな」
「どうだ? 俺が情報をやるからお前さんたちは追撃しねーってのは」
「さっきの提案よりも幾らかはマシだけど、本当に情報なんてあるのか?」
「(喰いついたッ)あるぜ、ラグナリオンとガーランドのプレイヤー情報なんてどうだ?」
「うーん。プレイヤーか。どうせボード見れば分かるしなぁ……。何か他の情報とかないのか?」
「ボード見ればって? ククク……実際の【
「えっ効果って分かんの?」
「ああ、それに宝珠とかカードとか色々あっからな。教えてやる」
「うーん」
「おい。もう少しだが教えたようなもんだからな?」
確かにそうなのである。
例えば『ボードを見ても分からないことがある』これだけでも立派な新情報なのだ。
「確約しねーと教えられねーぞ?」
催促してくるブレインであったが、おっさんも特にここで一気にバルト王国を滅ぼす気はない。全てはジィーダバをおびき寄せるための罠だったのだから。
下調べはしていた。あの山地に囲まれた狭い大地で前後から挟み撃ちに会えばどうなるかは推して知るべしである。だから備えとしてドーガを後軍に配置し、ラムダークにジィーダバの後を距離を開けてつけてくれるよう協力を要請したのだ。
「閣下、ここは情報の方を取るべきでは? どうせ、バルトには閣下に対抗できるような将はいないと分かったんですし」
「言うね。お前さんは軍師か何かか?」
ドーガが平然と言ってのけた言葉にブレインは苦笑いを禁じ得ない。
ブレインの質問にも無言を貫いている。
「チッ……ダンマリかよ」
「まぁいいんだけどさ。ブレインさんはバルト王国に何かあんの? 弱味とか未練とか大事な物とかさ。ないなら――」
「言うな。俺は先代の王に世話になった。その気はねーよ。今のところはな」
「わーかったよ。だけど成果が欲しいな。サースバード以南の割譲でどうだ? 大した領土じゃないだろ? それで手を打とう」
「……ああ、その判断を評価するぜ。和議成立だな」
こうして和議は成立し、バルト王国の敗残兵は北のコバルト城へ向かって撤退を開始した。デルタ城も健在である。
現在はブレインと五○○の兵だけが残っている状況だ。
アウレア軍もデルタ城から20kmほど引いて、中間地点でおっさんとブレインが話をする場所がセッティングされた。
交渉と言う名の事情聴取が今始まろうとしていた。
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