第63話 サースバード大会戦 ③
■中央ゴレムス暦1582年12月20日 11時
サースバード ガイナス
おっさんの【
何より、負けて撤退を余儀なくされると言うことがガイナスには我慢できないことであった。
狙っているのは【
今戦っている部隊を突き崩せば敵本隊を強襲できる。
上手くバルト王国軍の火縄銃の鉛玉を避けながら踏み止まって来たのだから、何としてでも敵本隊に喰らいつきたいところである。
「(一旦、後詰と入れ替わるか? いや……もう少しで――)」
その時、火縄銃の高い音が鳴り響いた。
「ぐぅ……」
思わず呻き声が口から零れる。
ガイナスの左肩から血が流れ始めた。
彼が来ているのは大した厚みもない鉄製のプレートである。
機動力重視のためと見栄を張ったからであった。
「(こんなことならもらっておくべきだったか!?)」
おっさんは主だった者にミスリルなどの値の張る装備を与えていた。
ガイナスは、まだ碌な手柄も立ててねぇのに受け取れるか!と断っていたのである。実に
「(今だッ! 一気に突撃するッ!)」
「歩兵は下がれッ! 竜騎兵は突っ込むぞッ! 気合を入れろッ!」
《騎兵猛撃(参)》
《神速雷光(弐)》
《一騎当千(参)》
《堅守鉄壁(弐)》
ガイナスは勝負を賭けた。
【
《騎兵猛撃(参)》で竜騎兵部隊の攻撃力を猛烈に高め、
《神速雷光(弐)》で移動速度を爆発的に上げ、
《一騎当千(参)》で個人の武勇を跳ね上げ、
《堅守鉄壁(弐)》で個人の防御を鉄壁にする。
『うらあああああああああ!!』
ガイナスと竜騎兵、五○○から雄叫びが上がる。
「突き崩せッ!」
そのあまりにも早い竜騎兵の突撃で敵前方の鉄砲隊は壊滅した。
しかし、バルト王国軍もすぐに槍衾で防御体制を取ってくる。
「
ガイナスは走竜を操って大きくジャンプするとバルト槍兵を飛び越える。
「おらぁ! てめぇら俺に続けッ!」
槍兵を薙ぎ払ったガイナスは指揮官を探す。
混乱する兵士の中で煌びやかなフルプレートを見に着けた将が目についた。
ガイナスはすぐに走竜を操りそちらへ向かって疾走する。
「我が名はガイナス・キリングッ! いざ尋常に勝負ッ!」
「閣下をお守りしろッ! 周囲を固めるんだッ!」
「奴が敵将だッ! 討ち取れぃ!」
「誰か奴を止めろぉ!」
様々な声が聞こえるがガイナスの目は敵将に釘づけだ。
鉄砲玉を受けた左肩は興奮のせいで痛みは左程でもない。
ガイナスはバルト王国兵を走竜で吹っ飛ばし、あるいは鉄槍で突き殺し、敵将へと肉迫する。
「逃がすかよッ!」
「おのれッ! アウレアの弱卒如きがッ!」
ガイナスの巨躯を見てそう言えるのは大したものだが、実力の方はどうなのか?
バルト王国の将は、突き出された鉄槍を十文字槍で弾くと、逆にガイナスの首を狙って突きを放つ。それを紙一重でかわしたガイナスは鉄槍をくるりと回転させると、渾身の力を込めて敵将の脇腹へ叩きつける。
「がはッ……」
ガイナスの
体勢を崩してアドから滑り落ちた。
「敵将、ガイナス・キリングが討ち取ったッ!」
それを見た敵味方双方からどよめきが起こる。
総崩れになる部隊を敵副将が必死で鼓舞しているのを傍目にガイナスは近くの歩兵に指示を出した。
「後方の部隊に伝えろ。突撃をかけて掃討しろとな」
はッ!っと威勢よく応えた兵士は後方へ向かって走り出す。
「歩兵は敵を殲滅しろッ! 竜騎兵は敵本隊へ突撃するッ! 俺に続けぃ!」
見えてきた勝利に向けてガイナスは吠えた。
―――
■中央ゴレムス暦1582年12月20日 同時刻
サースバード おっさん本陣
「来たか。さて、どうでる?」
まだ伝令は来ていない。
状況が分かったのはおっさんがボードを眺めていたからだ。
現在、おっさんが布陣しているのは東側の小高い山地である。
ボードがあるため全部隊の把握は可能なのだが、どうしても直接確認したい時もあるし、平地に布陣する不自然さを消すためでもある。
もちろん要所に陣を築く本来の意味もあるが。
テイン侯爵家のラムダークからの伝令でもうじき到着するだろうとは思っていた。
そう。現れたのはジィーダバの軍であった。
おっさんは後軍のドーガのすぐ背後に布陣したジィーダバ軍の出方が気になっていたのだ。一応、総大将であるおっさんに着陣の挨拶をしにくるのが普通な感じはするが、あのジィーダバ侯爵がそうするとも思えない。
おっさんならば、おっさんの陣とドーガの陣に伝令を送り、着陣の挨拶がてら陣を視察する。そして――おっとまだ敵対すると決まった訳ではない。
おっさんは現在の戦況を早く打破したいと考えていた。
前線は既にところどころ崩壊し、後詰の部隊が入れ替わることによってどうにか戦線を保っている状態だ。ガイナスとベアトリスの軍が奮戦しているが、消耗は大きいだろう。一刻も早く【
ベアトリスなど【
「申し上げます。我が軍の背後に部隊が現れ、北上しております」
「ああ、恐らくジィーダバ侯爵の軍だ。皆には心配無用と伝えておいてくれ」
「はッ!」
ボードのお陰でジィーダバの軍勢だと分かっているが、一般人である兵士たちに分かるはずもない。正体不明な軍が急に背後に現れれば不安にもなるだろう。
伝令が去り、おっさんが待ちの姿勢で戦況を眺めていると、ジィーダバの使者を名乗る者がやってきた。
「元帥閣下、ジィーダバ軍五○○○、ただいま着陣致しました。」
「ご苦労。ジィーダバ卿はなんと?(兵士数を水増ししてんじゃねぇよ)」
「前線に加わるので街道沿いに北上させて頂きたい」
「分かった。今、旗色は悪い。ジィーダバ卿の軍が援軍に来たと知れれば士気もあがるだろうさ」
「はッ! ではこれにて」
そう言うと使者は踵を返してさっさと帰っていった。
「ジィーダバ卿は来ないのですな」
ノックスは少し不満そうな声を上げる。
「まぁ迅速な行動が必要だから仕方あるまいよ(俺でも行かねぇけどな)」
おっさんはすぐに背後を護るドーガに指示を出して《軍神の加護》の使いどころを考えるべくボードに目を落とした。
―――
■中央ゴレムス暦1582年12月20日 12時
サースバード ジィーダバ侯爵
伝令たちが戻ってきてサースバード一帯の様子が明らかになる。
朝方から始まった戦は双方ともに一進一退の攻防を見せ、次第にバルト王国軍が有利に推移するが、サナディア卿の家臣で前線で戦っているキリングとベアトリスの奮戦と後詰のお陰で何とか崩壊することなく現在に至っていると言う。
「以上が合戦の推移となります!」
「予想以上に奮戦しているな。すぐに我々も加わるぞ。サナディア卿の後方に陣取っている将は何と言うのだ? 何か言っておったか?」
「後軍はバルムンクと言うサナディア卿の家臣とのことです。
「閣下、まさしく好機ですぞ! この機を置いて討ち取ることなどできんでしょう」
「よし。いくぞッ! この一戦にアウレアの未来がかかっておるッ!」
ジィーダバの大音声に兵士たちから喊声が上がる。
ジィーダバはそれに満足気に頷くと大喝した。
「我に続けッ!」
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