第40話 おっさんがお呼びよー

 ■中央ゴレムス暦1582年7月3日

  ネスタト 別館 暫定執務室


「閣下、地下牢に捕らえられている者が閣下にお会いしたいと」


 ドーガが降伏した者からの聞き取りや兵士たちからの報告から色々と確認していると、地下牢に閉じ込められている要人がいることが分かったのである。


 書類と格闘していたおっさんは二つ返事でOKした。

 ちなみに副官のノックスとガイナスはネフェリタスのヨハネス伯爵領へ出兵中である。多くの貴族諸侯が争うように立候補したのでおっさんは少し自重したのだ。


「ああ、構わんよ。オゥルに敵対していた者がいるかも知れんからな」

「はッ! では。入ってください」


 ドーガが部屋の外に呼び掛けると扉が開き3人の人物が入ってきた。

 彼らはおっさんの前に横一列に並ぶと、早速口を開いた。

 簡単な経緯はドーガから伝えてあると言うことだ。


「助け出して頂き感謝致します。アルデ将軍閣下。私はテイン家当主、ラムダーク・ド・テインと申します」


「テイン家のご当主でしたか。ご無事で何よりです。確か鬼哭関きこくかんを任されているんでしたね」

「(確かって何だ?)はい。恥ずかしながらバルト王国軍とオゥル伯爵軍に敗れ、捕らえられてしまいました……」


 流石にこちらに来てからと言うものアウレア事情と世界情勢は片っ端から頭に入れるようにしている。おっさんに抜かりはないのだ。


「テイン家は貴殿が捕らえられているのにオゥルの要求を突っぱねたと聞きます。聞いた通り、誇り高く高潔なお家柄のようですね」

「レーベテインの末裔として無様なことはできません。と言っても捕らえられてしまった訳ですが……」

「たった一○○○あまりで鬼哭関を護っていたのですから大したもんですよ。えーアドなどは直ぐに用意できますが出立されますか? 護衛も付けますよ」

「ありがとうございます。では明日、領地に帰らせて頂きます。鬼哭関きこくかんも取り返さねばなりません。これから忙しくなります」


 そう言ってラムダークは頭を下げた。

 侯爵家と言うのに謙虚なものだとおっさんが感心していると、続けて真ん中の女性が一歩前へ進み出た。


「私はベアトリス。ネフェリタス殿下にお仕えしていたが、ロスタト殿下の処遇に異を唱えたところ捕らえられた。私がここにいると言うことは殿下は討ち死になされたと言うことなのですか?」

「(ん? ベアトリス? どっかで聞いたような……)あーネフェリタスはまだ捕まっていませんよ。現在大規模に捜索を行っているところなのですぐ見つかるでしょう。現在、ヨハネス伯爵領、つまりネフェリタス領に攻め込んでいるところですし、逃げられんでしょう」


 おっさんは包囲網に穴がない貴族諸侯がやらかさないならなと心の中で付け加えた。

 完全にアウレア平原からの脱出路を塞いだつもりが抜けられたのだ。

 絶対はない。


「そうですか……」


 ベアトリスは何かを考えているようで元気がない。

 おっさんが就職先の心配かな?と惚けたことを考えて尋ねる。


「ベアトリスさんはネフェリタスとは縁が切れたんですよね?」

「(さん?)縁……ですか? 切れたかは分かりませんが、私は殿下を止められなかった。責任は取るつもりです」

「責任ですか? まぁ簡単に調べはしますが問題ないですよ。たぶん」

「(た、たぶん? この御仁は変わられたか?)しかしそう言う訳にも」

「取り敢えず、私の部下になってください。悪いようにはしませんから。アットホームな職場です」

「あっとほーむ?」


 おっさんは取り敢えずつばをつけておいた。

 欲しい物は何とかして手に入れたい主義なのだ。


「ま、まぁそれはともかく、できれば私の聖剣を返して欲しい……せめて本家に返したいのだ」

「聖剣? 聖剣がなんて物があるのか?」


 ベアトリスが申し訳なさげに頼んできたのだが、内容が内容なのでおっさんは驚いて思わずドーガに確認した。


神器セイクリッド・アームズの聖剣ヴァルムスティン。それが私の一族で認められた者のみが扱える武器だ」


 ドーガが口を開く前にベアトリスが説明してくれた。

 心なしかどこか自慢げである。

 ふふんってな感じだ。


「(聖剣か……+いくつなんだろうな? 無銘の剣で4だったから凄いんだろ)分かりました。責任を持ってお預かりしましょう。(ってああ! この人、カードに出てきた人だわ。確かベアトリスだったよな? 伏線回収だな)」


「感謝する」


 言葉使いはぶっきら棒だが、粗野ではないし、態度もおっさんよりかは断然しっかりしている。流石は聖剣を継ぐ者と言ったところだろうか。


 ベアトリスが一歩下がると、最後の男が神妙な顔で前に進み出る。


「此度は助け出して頂き感謝の念に堪えません。私はジョン・ボンジョヴィと申します。ネフェリタスの傅役もりやくを務め、主に従ってヨハネス伯爵家に出向いておりました」

「ボンジョヴィ殿、何故地下牢に?」

「事前に謀叛のことを聞かされた時に諌めたところ入牢の刑に処されました」

「あーなるほど」


 おっさんはネフェリタスの性格が分かってきた。

 相当な傑物だ。もちろん悪い意味でだが。

 おっさんがボンジョヴィの処遇を考えていると、向こうから話し掛けて売り込んできた。こうべを垂れて柔らかな物腰である。


「アルデ将軍閣下、私を使ってみませぬか?」

「ふッ……それでは試してみようか(積極的なヤツだな)」


「有り難き幸せ。では早速ですが、私にヨハネス家の掌握をお任せ頂けませぬか?」


「できるのか?」

「はッ!」

「では任せよう」

「吉報をお待ちくだされ」


「では皆さん、解散で。今日は休んでていいですよ。と言うか疲れが癒えるまでお休みして下さい」


 流石に牢に入れられていて疲れも溜まっているだろう。

 おっさんはどこぞの飲食店業者やシステム開発会社社長ブラック経営者ではないのだ。無理ワンオペはさせない主義である。


 分かったか分からないのか分からないが3人は頭を下げる。


「ドーガくん、部屋とか用意させといて」

「御意」


 思えばドーガに関しては結構酷使しているような気がして、おっさんは少し反省した。

 全員が部屋から出ていったのを見ておっさんは窓の外を眺めるとボソリと呟いた。


「部下も増えたし幸先がいいな。ドーガくんの負担も減らせんだろ……」


 おっさんは戦後処理で多忙を極めるのだが、そのことはすっぽりと頭から抜け落ちていることに気付いていなかった。

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