第9話 おっさん、盗賊団と遭遇する
■中央ゴレムス暦1582年6月12日 アラモ砦付近
早いものでおっさん率いる竜騎兵は国境の砦アラモ付近を通過していた。
砦で少しだけ体を休めた後、日の出と共に出発したのだ。
ちなみに軽歩兵隊はノックスに任せてある。
おっさんはドーガとガイナスを連れて疾走していた。
アラモ砦を過ぎれば、しばらく平地が広がっているので、遠くにある村が確認できる。村で小休止してからカノッサスを目指す予定である。
移動しているのは人間だけではなく、走竜もなのでしっかりと食糧と水を与えなくてはならない。騎乗している人間も疲れるが、走竜はもっと疲れているのは間違いない。取り敢えず村に到着したら、カノッサスと首都アウレアに先触れを出すつもりである。それさえしておけば、誤解を受けることはないだろう。
「あー何か煙が上がってないか?
「確かに……ですが、村で
「ふーん。もしかして火事とか?」
「盗賊か何かに襲撃を受けたんじゃねぇのか?」
ガイナスの言葉におっさんは脱力感に襲われる。外からの脅威に加えて内にも問題があるとなると、やるべきことは更に増える。この国の大公や宰相に早く会ってみたいものである。海外貿易で潤っていると聞いていたおっさんはまともに
「(治安まで悪いのかよ。大丈夫かこの国)おし。飛ばすぞッ!」
「御意」
「応ッ!!」
※※※
おっさんが駆け付けた時には、村の至るところかあ火の手が上がっていた。
左程大きくもない村の中を騎乗したまま走り抜ける。開けた場所に出ると、荷馬車が留め置かれ、アドが繋がれている。
「なッ!? 何でこんな場所に竜騎兵がッ!?」
突如として現れた、おっさんたちの姿を認めて驚愕に顔を歪めているのは、
おっさんは有無を言わせずにその脳天を叩き斬る。
おっさんはそう広くない村内を見回すと、周囲の家よりも比較的大きな建物に人々が群がっている様子が目に入った。
おっさんは確信する。
「総員、あの建物へ突撃ッ! 盗賊を殲滅し村人を救出せよッ!」
そして試す。おっさんの内に宿る力を。
「念じればいいのか、言葉にすればいいのか……」
取り敢えず心の中で叫ぶ。【
《赤備突撃(参)》
その瞬間――
おっさんの体、そして精神までもが力に満ちる。
溢れ出す力に湧き出す高揚感。
『うおおおおおおおお!!』
兵士たちが
動き出す竜騎兵およそ五○○。
それは1つのうねりとなり暴力が暴力を駆逐する。
おっさんも次々と
村人と盗賊の見分けがつくのか、それは顔を見れば分かることだ。
盗賊と言えば、
まぁそれは冗談だが、刃向かって来るなら殺す。
恐らく大きな建物の外に村人はいない。
あの場所に武器を持ち出して立て籠もっているのが村人の生き残りだろう。
おっさんが見る限り、竜騎兵全員が
そんなことを考えながらおっさんは呟く。
「いや、オレンジ色だけじゃない……他の色にも光ってるのか?」
となれば、村人も自軍とすればどうなるのか?
同じ軍だが違う部隊と認識されて効果が及ばない可能性もある。
そもそも認識させるにはどうすればいいのかも分からない。
認識はさせるのは神なのか世界なのか、それともシステムなのか?
おっさんが認定すればOKなのか?
ならどうするか。ものは試しとはよく言ったものだ。
「現在を持ってこの村の住人を我が指揮下に置くッ!」
まずは建物の入り口で必死に抗戦している村人を、おっさんの軍だと決定してみる。が特に変わった様子はない。光っているのは兵士のみだ。
既に戦法の発動後なので、単に発動後に認識しても無駄なだけか、村人が自軍だと認識されていないだけなのか、あるいは《赤備突撃》は部隊単位にしか効果がないか、である。
それでは――おっさんは違う戦法を使ってみることを決める。
《軍神の加護(肆)》
発動したと同時に更なる力がみなぎってくるのが分かる。
見た目にも変化があった。今度は体が金色の光に包まれて輝き出したのだ。
そしてそれは竜騎兵だけではなかった。
「な、なんだ!? 急に強くなりやがったッ……なにぐはァッ」
「こいつらなんなんスかぁ親分ッ! どうすぶげらばッ」
「おいおいアウレアの正規軍だぞッ! 勝てる訳がねぇ! 逃げるぞッ!」
勝敗は決した。
ドーガとガイナスが大暴れしているし、そもそも一般兵と言えども正規兵である上に戦法の効果を享受しているのだ。心配はない。
おっさんは光り輝く兵士と村人たちを観察しながら考え事を始めた。
味方認定のタイミング問題がまだ確定ではないが、《軍神の加護》が味方全てに効果が及ぶのは確実だろう。後は光の色によって効果の内容が違うはずである。
他にも【
「(恐らく【
「閣下、盗賊を殲滅致しました。無傷での捕縛は3、死亡89、怪我23です」
「おう。お疲れさん。念のため、各家の中を改めて隠れている者がいないか確認してくれ。それと同時に怪我人の手当てを。幾らか薬もあんだろ」
「はッ!」
ドーガはおっさんから離れると、すぐに兵士たちを動かし始めた。
すると今度はガイナスが入れ替わりでやって来た。
「将軍閣下、何か体から力がみなぎってきたぜ。今日は調子がいい」
「まぁ加護の力みたいなモンだろ」
「加護……? 神の加護があるとでも言うのか?」
「神がいるかは知らんけどな(ホント誰の力だよ)」
どこか複雑そうな表情をしているが大人しくなるガイナス。
信じられないと言うより理解が及ばないのだろう。
珍しいものも見れたのでおっさんは走竜から降りると、ガイナスへ声を掛ける。
「ちょっと盗賊の荷馬車を見てみよう」
「趣味わりぃのな……」
「これは検分なのだよ。ふはははは」
とは言ったものの――
碌な物は見つからない。
剣や槍などの武器、わずかな保存食、銀貨と銅貨、銀色の宝珠など。
「大したモンがねぇな。ま、あからさまなのが1つあるけど」
「これは宝石か?」
「初めて見たが普通の水晶じゃないな。盗品だろうから村人に確認だ」
おっさんは興味本位で銀の宝珠を手に取った。
瞬間――世界が広がる。
『銀の宝珠を使用しますか?』
「はぁ!?」
「どうした!?」
おっさんが素っ頓狂な声をあげたので、隣のガイナスは柄にもなく
「……いや、大丈夫だ。(天の声か? ちょっとは心の準備くらいさせてくれよ。流石にびびったわ。これは村の誰かが持ってたのか? 使うと何かが得られるのか? いや、そもそも誰にでも使えるのか? また訳の分からんモンが出て来たな……)」
ガイナスの視線が突き刺さる。
おっさんは居心地の悪さを感じつつ言った。
そこへドーガが戻って来て颯爽と走竜から降りると、頭を下げて報告した。
「盗賊のアジトが近くにあるようです。まだヤツらの仲間が残っているとのこと」
「よし。すべきことは決まった。村人に奪われた物を返した後、見張りの兵を置いて盗賊共のアジトを潰す。お宝を分捕るぞ」
「俺ぁ、アンタが本当に将軍なのか分からなくなってきたぜ……」
んなこたー俺にも分かんねぇよと、おっさんは独り語ちる。
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