【第一章まで改稿済】おっさん、軍神として降臨す!
波 七海
第一章 エストレア事変
第1話 おっさん、異世界の大地に起つ
「どこだここは……?」
おっさんは目の前で起こっている現実に置いてけぼりにされていた。
と言うかコレが現実なのかすら分からない。
起きていることを受け止められないのは、自分がおっさんだからか?と思わず自問自答してしまうほど。
何が起こっているか?
答えるのはもちろん簡単だ。
見たままを語るならば、そう『合戦』である。
簡潔に過ぎると言うなかれ。
おっさんにも意味分かんねぇよ?
おっさんの目の前に広がる平原では、数えきれないほどの兵士たちが2つの軍に分かれて殺し合いを演じていた。
違う軍同士が戦っていると理解できたのは、兵士が付けている旗指物のようなものの色が違うからだ。家紋らしき模様も描かれているが、遠くて判別はできない。
赤色の軍旗と白色の軍旗が少し冷たい風に揺れていて、おっさんは思わず身震いをしてしまう。果たしてそれは寒さからくるものなのか、はたまた恐怖からくるものなのか。
緑の大地に倒れ伏した
方々で怒号や悲鳴が飛び交い、炸裂音が轟いている。
そして風に乗って漂うのは――血の臭い。
「将軍閣下ッ! ここにおられましたか……探しましたぞ!」
背後から掛けられた声に驚いて振り向いたおっさんの元に、騎士のような西洋の鎧を身に着けた老齢の男が駆け寄って来た。
「すぐに本陣にお戻りください。兵が動揺しております! 直ちに指揮を!」
その態度から見ても相当に切羽詰まっているのが理解できる。
更に声色に潜むは焦燥。
だが――
「え? は? 俺が何だって?」
「ですから戦闘のご指示を出してくだされッ! どちらに着くか立場を鮮明にせねば疑われますッ! このままでは双方の心象を悪くしますぞッ!」
急かす老兵に連れられて、おっさんは訳も分からず、その背中に着いてゆく。
おっさんはその間に状況を把握しようと頭を捻る。
・ここは戦場である。
・見たところ2つの軍が戦っている。
・西洋風の甲冑を着た老兵がいきなりおっさんを将軍だとのたまう。
・老兵曰く、おっさんたちは第3勢力でどちらかに加勢しなければならない。
そして重要なのは、おっさんが指揮官である、と言うことだ。
「うーん。
おっさんは思わず独り言ちる。
確かおっさんは、
何をしていたかと言われればそう、趣味を満喫していたのである。
それとは
ちなみに当世具足とは、平たく言えば武士が身に着ける甲冑のことで、そのまま具足と言っても良い。要は日本の戦国期から安土桃山期の頃に生まれた鎧である。
おっさんは甲冑を着て日本刀を
平和的な趣味だし誰にも迷惑かけてないから別に良いはずである。
世間では、
着たまま外を徘徊することもしないし、刀を振り回して暴れる訳でもない。
コスプレかと問われれば、どうかと首を捻らざるを得ない。
武士に為り切るのだから似たようなものかも知れないが。
確かに甲冑だけでなく陣羽織や小袖、足袋なんかも一式揃えてるから結構本格的ではある。そもそも甲冑も200万くらいする逸品だったりする。
造りもしっかりしているし、某局の大河ドラマなんかでも使われてるようなモノなのだ。モデルは
「浮かれた結果がこれだよ! ま、つっても十中八九、夢だろうけどな!」
またまたおっさんは、現実逃避気味に独り言ちる。
頭が混乱の極致に達しようとしていた時、前を急ぎ足で歩いていた老兵が足を止めた。俯きがちに歩いていたおっさんは急に止まられて驚いたが、顔を上げて2度びっくりさせられた。周囲には甲冑やチェインメイルを着込んだ兵士たちが集まっていたのだ。日本人のような顔をした者は1人もいない。彫りの深い顔付きでガッシリした体格をしている者が多いが、彼らから感じられるのは――不安。
落ち着いて周囲を見渡すと平原より少し高くなっており、簡易ながら馬防柵が設置されている。一応は陣地として作られた場所のようだ。
「それでどう致しますか? 将軍閣下、ご指示を」
無表情で淡々と指示を仰いできたのは、巨躯を持つ
目には縦に斬り傷があるが、見た感じ古傷だろう。
比較的立派な甲冑を着ているので士官クラスの立場なのかも知れない。
「アルデ将軍閣下。突撃の準備は整っておりまする」
「あー俺はアルデ
老兵が急かしてくるし、色々と疑問が湧いてくるがここはまず確認だ。
おっさんの名前はアルデではない。
そんな外国人みたいなモンじゃ断じてない。
そもそも格好を見れば分かんだろうにと、おっさんは首を傾げる。
おっさんの名は
越中富山に棲む、冴えないおっさんだ。
仰々しく名乗ってみたが、
ちなみに先祖は都落ちした平家の
おっさんの言葉を聞いて、何故だか場がざわめいた。
先程にも増して異様な雰囲気が漂っている感じだ。
何だか兵士たちの混乱が増したような気がするのは気のせいだろう。
「あぁ~アルデ将軍がご乱心なされたぁぁぁ!!」
老兵は頭を抱えてしゃがみ込むと、何故か発狂し始めてしまった。
「いや、俺は
「
慌てて宥めるおっさん。
困惑する兵士たち。
その光景を見て肩を震わせる古傷の大男。
「分かった! 分かったから! ちょっと落ち着いて! な? な?」
「ふぐぅ……閣下、ご冗談を言っている場合ではありませんぞ……」
「だからしてないっつの!」
「閣下……ご病気が顔だけでなく心にまで及んだのですな……」
「顔が病気ってそれディスり過ぎぃ!」
「我が国も最早これまでか……」
老兵は儚げに呟くと、滂沱の涙を流し始めた。
人の顔に対して
その上、まだ何か酷いこと言ってるし。
むしろおっさんが泣きたい心境だよ。
こんな時は素数を……いや状況把握が最優先か。
「あーすみません。現状を把握したいんですが。簡単に説明してくれます?」
「は……? じょ、状況ですか……? げ、現在、中央ヘリオン平原にてバルト王国とラグナリオン王国が衝突しております」
仕方なしにおっさんが丁寧な口調で問い質すと、恐らく副官なのであろう老兵は、取り敢えず状況を告げる。
と言うか、どこかとどこかが戦ってるのは見れば分かる。流石に。
そこに先程、
切り替えの早い男である。
「補足致します。我が国は両国から加勢の要請を受け出陣しております。全権はアルデ将軍閣下がお持ちです。我らがアウレア大公国は4つの王国に囲まれた海洋国家であり、絶えず4か国の争いに撒き込まれております」
「(えぇ……責任丸投げされただけやんけ! しかしこの男デキるな)」
「現在、両国の兵力はおよそ三○○○と拮抗しており、どちらに転んでもおかしくありません」
「(なるほど。勝利の鍵は俺たちが握っている訳ね……)」
「私見ですが、国力的に考えるとラグナリオン王国が上で地力もあります。対してバルト王国は内部の権力争いで疲弊しております。ご参考まで」
おっさんは思わず感嘆のため息を漏らしていた。
まるで
正直言って何も理解できないが、取り敢えず戦いを終わらせるべきである。
夢でもいいから戦国時代を体感してみたかったおっさんとしては、取り敢えずやってみようの精神だ。
戦場で兵を率いて騎馬突撃とかしてみたい。
そう、それは
「これは良い夢を見たかも知れぬ」と呟くのは、平和ボケしたおっさんたる
となれば早速実行あるのみ。
即断即決がおっさんの信条なのだ。
「良し。討って出るぞ。兵種……武装は?」
「はッ……歩兵一○○○、竜騎兵五○○であります」
「おし、騎兵で……って竜騎兵?」
「は……? ああ、えーあちらをご覧下さい」
大男が指差した方向には、まるで恐竜としか言い様のない生物が繋がれていた。
「え、アレに乗んの? 小型だけど十分恐竜に見えるんだが?」と言外で抗議するおっさんだが、悲しいかな大男には全く伝わっていないようだ。
この時間軸がいつなのかは知らないが、昔の乗り物なんだから馬なのだろうと言う固定観念が崩れ去り、おっさんは軽く困惑していた。
騎馬突撃してみたいと思っておいてなんだが、騎乗したまま突撃するのははっきり言って無謀だ。
ではあの竜ならば?
おっさんが固まっているのを見て、何かを察した大男が説明を始める。
「竜騎兵では弓による一撃離脱が基本であります」
彼の助言に、おっさんは自分と彼の認識に違いがあることに気付いて、再度確認し直す。
『蟻の穴から堤も崩れる』――些細なズレが大事に繋がるのは常識中の常識だ。
「では竜騎兵に槍を持たせて直接突撃させることは可能か?」
「ッ!? はッ……恐らくですが」
おっさんの意図を素早く読み解いた大男に対して、老兵はすかさず反論する。
大男が少し言い淀んだのが気になったが、まぁ何とかなるだろう。
「
老兵の方は取り敢えずスルーしておく。
「ではバルト王国軍の横っ腹に騎兵突撃をかけろ。かき乱してそのまま突き抜けた後、反転して再度突撃だ。歩兵は後に続け」
おっさんは気楽に我が道を行くのだ。
どうせ夢だし、何より面白そうなので良し。
「ぜぜぜ、全軍でございますか!?」
全軍による総攻撃に戸惑った声を上げたのは老兵であった。
「ん? ああ、竜騎兵は俺が率いて突っ込む。歩兵は貴官に任せる」
「よろしいので?」
大男の方も確認のためか、聞き返す。
と言うより念を押した感じだ。
色々と気になってるんだろうが、突っ込まれないならスルーである。
「よし! 全軍、出陣ッ! 敵はバルト王国軍だッ! 我々が勝ちを引き寄せるぞッ! 力の限り暴れてこいッ!」
『うおおおおおおおおおおおおおおお!!』
老兵と大男が珍しい物を見たかのような表情をしているが気のせいだろう。
気合の入ったおっさんと兵士たちは陣地から出撃。
ラグナリオン王国軍と互角の戦いを繰り広げるバルト王国軍へと襲い掛かった。
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