第97話帝国へ(帝国に到着5)

「スティング様の国で、フィー皇子様は何を好んでいたのですか?」

人混みを離れ、中庭の空いていた椅子に座ると、セレスティーヌ様は軽く首を傾げ聞いてきた。

可愛い。

守ってあげたい、と思わせる女性らしさと、甘える声も可愛らしい。

「甘い物がお好きで、良く昼食後や、放課後に喫茶店に寄っていました」

「甘い物がお好きだとは知っていましたが、そんなに好きだったのですね。例えばどのようなのが好きなのですか?」

「好んでいたのは、スフレでした。それも、チョコスフレが好きでした。あまりフルーツやクリームの乗っていないシンプルな、チョコスフレがお好きでした」

「そうなんですね。では、お菓子作りの得意な料理人を雇いますわ」

「あの、もしよろしけれ簡単ですのですから、レシピをお渡ししますよ」

「要りませんわ。知りもしない誰かが作ったレシピなど、口にしたくありません」

「それでしたら大丈夫です。私が作って、フィー皇子も口にされ好評でしたものです」

とても美味しいと言って食べてくれた。逆にお店では全く頼まなくなったくらいだもの。

「お可哀想に」

セレスティーヌ様が、ハンカチで口を抑えながら棘ある声を出し、正直驚いた。

「あまりお店がないから、仕方なくそのような物を口にされていたのですね」

「お店はありますよ」

「確かスティング様はセクト国でしたよね?こう言っては何ですが特に特産物もない小国でしょう?お店も少なく遠いのでしょう?だから、スティング様が嫌々お作りになりお出ししていたのでしょう?」

「いえ・・・そのような事はありません。私はお菓子を作るのが好きで自分の意思で作っておりました」

「ふうん。何もする事がないから暇なのですね。私は、大学院に通いながら、毎日習い事に忙しいのです。帝国では、スティング様の国では触れることの無い楽器もあり、それにダンスも他国の方に合わせて色々な踊りを学びますので、毎日がとても忙しいのです」

柔らかい微笑みと、柔らかい口調に紛れもなく、馬鹿にした感情がある。

でも、言われている事は正しいと思った。

悔しいとは、思わなかったが、少し悲しい気持ちになった。

同じ公爵令嬢でありながら、国の差でこれ程までに差がある。

「それに、ご自分でお菓子作りなど、帝国の上級貴族令嬢は致しません。特に料理に関するものは、料理人の料理をより食するようにしています。スティング様にはお分かりにならないでしょうが、帝国の貴族は他国の方々とパーティーや夜会を通じて接する機会がとても多いのです。そのような席に相応しい料理を出すのに、そんな、庶民の様な手作りなど、失礼ですわ」

無知な方はしかたありませんね、とばかりに、はあ、と大きく溜息をついた。

「でも、わざわざ教えて頂いたのでそのレシピ頂きます。メイドの1人にでも作らせてみますわ」

「そうですね。では、後ほど準備しておきます」

「お願いしますね。他の事を教えて頂けます?」

「後は、よく街に出て買い物をするのがお好きでした。カレン皇女様がお好きな小説があり、その為に服を作ってくれる方々いたのです」

もう2度作って貰えない。

「はあ、また小国ならでは、のお話ですかあ。あの、申し訳ありませんが、スティング様の国では公爵家令嬢が街をふらふら歩いても平和な国なのでしょう?ですがここは帝国です。どこで何があるか分かりません。その中をフィー皇子様とカレン皇女様、いいえ、私も恐ろしくて出歩けませんわ」

まるで憐れむように私に微笑んだ。

「スティング様はとても美しいお方です。帝国にお産まれるになられたら宜しかったのに、本当に勿体ですね。でも、自国の王子と婚約されているのでしょう?」

「・・・はい」

「それならまだマシですわよね。私、本当に帝国以外の国はとても可哀想でなりません。智識も良識も常識も得られない、狭い世界で生きている方々。でも、スティング様は王女になられるのでしたら、少しは世界を知り得ますもの。私ね、皇太子妃になりましたら、帝国民にも、他の国の方々に平等に教育を受けるべきだと思っております」

目をキラキラさせ、自分が皇太子妃になった時の理想を楽しく教えてくれた。

ご自分の言っている内容に、なんの迷いもなく罪悪感もなく言っている。

この方にとって、帝国民と、他国の王族は、同じレベルなのかもしれない。

平等、という考え方がこれ程までに育った環境で違うものだと痛感した。

私も教育は大事だが、それよりも、お腹いっぱい皆がご飯を食べれる世界にしたい。

そう、思ってる。

「スティング様、申し訳ありませんが、あまり役に立たない話ばかりで残念ですわ。他にございませんか?フィー皇子様がどのような女性が好みなのか、何をプレゼントされたら喜ぶとか知りませんか?フィー皇子様はあまり女性に興味がないようですが、男性ですもの。全く興味が無いはずがありません。私に何が足りないのかを知りたいのです」

そう言われてみれば、私フィーの事をあまり知らない。フィーは私の事をよく見ていて色々気を使ってくれる。それについ甘えてしまってる。

「だって、私は見ての通り容姿は可愛いですし、産まれも公爵家。資産ありますし、智識もあり、王太子妃の教育も受け、他の誰よりもフィー皇子様に相応しい令嬢です。この私に何が不足しているのかを知りたいと思っていましたのに、期待外れです。せっかく皇帝陛下陛下がわざわざ私のために助言を授けようとされたのに、それさえも無駄にするなんて、やはり小国の公爵はその程度なのですね」

「その考えが、フィーがあなたを選ばなかった理由ですよ」

冷たく、よく響く声が背後から降ってきた。

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