第42話あなたは何者?
「ねえ、スティング、あの時何で馬車から降りてこなかったの?」
お昼になり、レインが教室にいつものように可愛らしい顔で笑いながら入ってきたかと思えば、殿下ではなく私の側に1番にやってきた。
「約束をしていなかったからよ。それは殿下には伝えています」
「何でぇ?スティングはガナッシュの婚約者でしょう?そんなわざわざ約束してなくも、ガナッシュが来たら会うのは当然じゃない?」
甘えた声で、私を非難してくる。
「それなのにどうして会わなかったの?いつも寂しそうにガナッシュを見てるじゃない。パーティーはすこおし、私が悪かったと思ってるよ。でも、いつもの事じゃない。それなのに大袈裟に泣いて出るなんて、何かズルいよ。女の子の涙を使うなんて、卑怯じゃなあい?」
よくまあ、そこまで自分本意に考えられるものだわ。逆の立場になっても私は絶対にそんな事を考えつかない。
「ねえ、どうしたの?あんまりにも悲しくても、あんなふうに無視するなんて、最低じゃなあい?」
「レイン!」
殿下の慌てた声が聞こえてきた。
「殿下、少しレイン殿と話がありますので宜しいですか?」
「レインと?」
眉をひそめ、私よりも背後に居るお2人を気にしながら、仕方なく離れた。
「なあに?言い訳するの?」
首を傾げる姿は本当に可愛いのに、
言葉にも、
微笑みも
悪意がある。
そっと耳元に顔を近づけた。
「街の噂を流してのはあなたでしょ?」
びくりと体を震わせたが、表情は変えず、ニコニコと微笑み、私を見つめた。
「街に行ったのぉ?いつ?」
よく言うわ。あの時馬車で待ち伏せしていて、その後もついてきたはわかっている。
「昨日よ。その祭りで、王妃様がとても慈悲深いと噂でしたわ」
「そうでしょうね。だって優しいもの」
その柔らかな微笑みに、背筋が寒いのを感じた。
「あなた、何者?」
「ふふ、何言ってるのスティング?私は、私よ」
まるで悪魔の囁きのような甘い声で、ずいと私の顔に近づいた。
「なあに?私の名前忘れちゃった?このまま性格の悪いスティングだったら、ガナッシュにも、王妃様にも捨てられちゃうよ」
囁くように言うと、くすくすと楽しそうに離れ、殿下の腕に絡みついた。
「ええ、その通りですわ。ありがとう、殿下がお待ちよね。お昼の時間がなくなるものね。私もお2人をお待たせする訳には、参りませんので、失礼致します」
微笑み、レインの横を通った。
殿下の側にいたら、
気づかなかったわ。
「ふふっ、じゃあね」
あなたの桃色の瞳の奥が、
狡猾に揺らめき、
綺麗な花には毒がある。
その花園が
私を、
捕らえていたのを。
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