第38話七夕祭り9
日が大分落ちてくると、祭りに来ていた人々が紙風船を持ち、川の方へと移動し始めた。夏の日差しが終わり、日が陰ると、風は少し熱を帯びながらも汗を気持ちよく乾かしてくれた。
「そろそろ、私達も行こうよ」
輪投げに夢中のカレンの肩を叩いた。
「帰りがあまり遅くなると心配されるわ」
「まあ、確かにね」
名残惜しそうな顔で私ではなく、ザンを見た。
「ダメよ、カレン。ザンにお願いするのはずるいよ。もし何かあったら怒られるよりも、私が嫌な気分になるもん。ほら、早く投げてよ」
うう、と残念そうに持っていた最後の1つの輪をえい、と、投げた
もちろん入らないから、ムッとした顔になるとお店にの人を睨み出した。
「カ・レ・ン!」
黙って!!
腕の裾を持って睨んだ。
「うっ・・・まだ、何も言ってないわよ。そんな怒んないでよ」
お店の人にお菓子を貰うと急いで、クルリの後ろに隠れた。
「ほら、行くよ、カレン、フィー」
「うん」カレン
「ああ」フィー
「スティングってさあ、少し厳しくない?スティングに睨まれたら怖いのにさあ。分かってるのかなあ」
きこえてるわよ、カレン
「違うだろ。カレンが悪いんだろうが。自分が下手くそなのに上手くいかないからって、八つ当たりしてるからだろうが」
その通りよ。
後ろから歩いてくるカレンが、ぶつぶつ言っていた。
「何言ってんのよ。当たり前だでしょ?帝国皇女なんだよ?便宜計って当然でしょ?」
もう!便宜図って貰うとこ、そういう時じゃないでしょ。
「出来るわけないだろ。ここが帝国でも露店で便宜計ってもらうなんて、聞いたことが無い。それってずる、だろ?楽しくないだろうが」
その通りよ。
「ええ!?上手くいかない方が楽しくないわよ」
「カレン、煩い!黙って歩いて!!」
「ひえっ!」
振り向くと、泣きうな顔して、また、急いでクルリの後ろに隠れた。
「カレン様は少しおふざけを言いたかっただけですよ。本気で言ってませんよね、カレン様」
ぷッ、と笑うクルリにこくこくと頷いた。
「勿論よ。そんなずるっこす、本気でするわけないじゃん」
「どーだか」
「黙んなさいよ、フィー」
「はいはい。スティングがいなかったら、好き放題してるくせに」
「フィーも、それ以上やめてよ。人も多くなってきてら目立つでしょ。それに私はハズレで貰うお菓子の方が好きだわ。見た事ないお菓子ばっかりだもん」
「さすが、スティング。手馴れた言い方だな」
「違うわよ、フィー!スティングはあんたと違って素直に喜んでくれてるのよ」
「はあ!?お前が素直にハズレで喜んでなかったんだろうが!?」
「そう見せてるだけよ、引っかかったわね!」
「本気だろうが!」
ああもう・・・煩い・・・。
結局少し離れて、2人をなだめ、やっと落ち着いた所でクルリが皆に1つずつ紙風船を渡してくれた。
川に方に歩き出すと沢山の人が同じ方向に向かっていた。
紙風船を流す時間は17時以降なら何時でも流せるが、日が落ちきると街はライアップされ幻想的になると聞く。
そんな景色の中、蛍光塗料が塗られた紙風船を川の中に流すと、まるで流れ星のように煌めき綺麗だろう。
本当ならそうしたかったが、このお2人を護衛のいつも以上に少ないこの状況で、遅い時間まで連れ回す訳にもいかない。
現にザンの気迫が鋭くなってきている。
今度来る時は、もっと準備万端で来よう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます