第15話王宮でのお茶会 王妃との会話1
「失礼致します」
静かに扉を開け中へ入った。
クルリは扉の外で泣きそうな顔で待機していた。
「いつもながら遅いわね。私を待たせるように公爵殿から言われているのでしょうけど、立場は私の方が上なのよ。分かっているのでしょう?」
ソファで優雅に紅茶を飲む王妃様は上目遣いで睨んだ。
遅い?
殿下とのお茶は10時からで、今は9時だ。
それも殿下とのお茶会が始まってから、毎回王妃様から呼ばれる。前もって言ってくださればいいのに、1度も言われること無く、王宮に着いてから、王妃様がお待ちです、と言われる。
それも、いつ来ても遅いと言われる始末だ。
1度8時に来たら、速い、と言われ悪口雑言にとても落ち込んだ。
では、何時が良いのでしょう、と素直に質問したら、毎回呼ぶ訳では無いのに分かるかわけないでしょう?公爵令嬢は王妃に対して命令する気なの!?
と喚かれた。
八方塞がりとはこの事だ、と頭を抱えた。
結局、私が黙って、謝罪すればそれでいいのだ。
「恐れ入ります。王妃様のご機嫌を損ね申し訳ありません」
「お茶のお代わりを入れて、本当に気がきかないわね」
「申し訳ありません」
すぐにお茶をいれ、また、入口の側にたった。
「公爵令嬢として甘やかされて育ったのでしょうけど、ここは公爵家ではないわ。ここでは私を立てて下さらないと示しがつかないでしょう?」
「申し訳ありません」
頭を垂れる。
「はあ。何?その嫌そうな顔。それで王妃、私の後に続けるの?レインを見習いなさい。いつも笑顔を絶やさず、中立な立場で物事をいう。あなたのその高い矜恃をどうにかしなさい」
「・・・申し訳ありません」
「また、それね。まあ、いいわ。それならそれで黙っていてくれればいいわ。そういえば、最近帝国のお2人と仲が良いそうね」
やはりその事か。
「来月から我が公爵家に住まわれる事と、読んでおられる本の趣味が合い声をかけておられるだけです」
「成程。それはガナッシュに伝えたの?」
絡めるようなねちっこい言い方で私を見上げてきた。
「いいえ、お伝えしておりません」
「やはり、ね。つまり、ガナッシュではなく、あなた個人と仲良くなり優越感を王国に知らしめたいのでしょう?」
・・・?
言っている意味が分からなかった。
「何?その理解できません、と言う演技。上手いわね。被害妄想令嬢と言われる所以だわ。おつむが悪いから教えて差し上げるわ。普通なら、あなたが仲良くなるべきでなく、ガナッシュが仲良くなるべきよ。それをあたかも自分の手柄のように前に出でどうするの?何?恩でも売りたいのかしら?」
「・・・そのような事はありません」
「だったら、ガナッシュに何故仲良くなったのか説明したの?してないでしょう?おかげで優秀な2人を処罰することになった。全てあなたの自己満足のせいよ。逸材を無くすのはこの王国の不利益となるのに、何て勝手な事をしてくれたの」
「・・・申し訳ありません」
「話を聞くと、あなたは何一つ助ける言葉もなかったそうじゃないの。対して役に立たないのだから、そういう時に役に立ちなさい」
何処の話を聞いたのだろう?そうして、帝国にどう文書を送ったのだろう?
それとも昨日今日だ。まだ報告書を送ってないのだろうか?
「申し訳ありません。驚いて何も言葉が浮かびませんでした」
「ふん、良く言うわ」
また、何か言おうとした所で扉が叩かれた。
「クラウスでございます」
クラウス・ジナール。ジナール侯爵家のご子息で、王妃派では重要人物だ。
「入りなさい」
王妃の言葉に溜息を我慢した。
「失礼します」
クラウスは入るなりちらりと私を見ると薄ら笑いを浮かべ、王妃の側に行き頭を垂れた。
「お忙しい中申し訳ありません。相談したいことがあり、参りました」
「座りなさい。話を聞きましょう。スティングももういいわ、出ていって。誰かにお茶を持ってくるように頼んで。あと、ガナッシュに仕立て屋が10時に来られると伝えて」
「・・・分かりました。では、失礼致します」
すぐに部屋を出た。
「お待たせ、クルリ行きましょう」
「はい、お嬢様」
私が部屋から出てきて、とてもほっとしたように微笑んでくれた。その顔に私もやっと溜息がつけた。
私には座る事を許さないのに、他の方は座らせるのね。
私にお茶を入れさせずメイドを控えさせればいいのに。
10時に仕立て屋を来させるなんて、私と殿下のお茶会を初めからさせる気はないのね。
考えても無駄なのに、つい思ってしまった。
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