天空の温泉
今から語るのは、遠い星からきた神々とルノールの民の決着がついた事件の十年ばかり後のことになる。
天空の地は解放されて、人々が行き交う場所になっていた。トトとテテの技術で転移装置は安定的に使えるようになり、誰もが気軽に行ける地となった。
「ようこそ!ようこそー!いらっしゃいなのだー!!」
「空の温泉に入っていくのだー!!」
トトとテテがお客さんに呼び掛けている。土産物屋が並び、『天空の温泉饅頭』『空色の温泉の素』『天空温泉ビール』『空色アイス』などを買うお客さんたちがいる。首に『天空温泉』と書かれたタオルをぶらさげて幸せそうに歩く人達も時折、すれ違う。
「空の上で温泉入れるなんて最高よ!」
「絶景ってこのことを言うのよね」
「友だちに自慢しちゃう!」
女子たちの人気ぶりもすごく、そのおかげで、口コミから世界中に広がるスピードが半端なかった!
セイラ!と声をかけてくる人物がいた。
「ミラ!久しぶりね。忙しくないの!?」
銀色の髪を結い、芯のある心の強さが見える女性がいた。それは王妃となったミラだった。
「超多忙なの。もー、嫌になる。たまには息抜きしたいわー。王妃様ってガラじゃないのに、求められることが多すぎよ!」
そう口を尖らせると、以前と変わらない。思わず、私はフフッと笑う。
「天空の地がこんなににぎやかになるなんて思わなかった!」
ぐるりと彼女は見回した。
「ここ、こんなふうに使ってよかったのかしら?」
そもそもトトとテテが『空の地で遊びたいのだ!』そう言いだしたことが発端だったのだが、温泉欲しい、食べ物屋が欲しいなど要望を許していくうちに……。
「この地を見たとき、どんな形であれ賑やかな方が嬉しいって気持ちが強いわ……私、もう民達はいないけれど、荒れ果てて捨てられているよりも笑顔や笑い声が響くようになったこの地を見せてあげたかった」
「ミラ……」
悲しい顔を一瞬したが、パッと明るい彼女らしい顔にすぐ戻る。
「だからセイラ達には感謝してる。ありがとう」
ちょっと遊んでいくわ!とウキウキとミラは温泉地へと入っていった。
「そろそろ帰らなくていいのだ?」
トトが私に尋ねてくる。
「あっ!本当ね。双子ちゃんの誕生会だったわ。トトとテテは来ないの?」
「忙しいのだ!まだまだこの地を発展させるのだっ!」
テテはチャキッとドライバーを手にしている。二人の工房も天空の地に移している。すごくすごーく楽しそうだった。いつでも前向きで楽しむことを忘れない二人がいたからこそ、天空の温泉ができあがったと言える。
「トト、テテ、ありがとう。私、あなたたちと友人でよかったわ」
二人がきょとんとした。そしてニヤリと笑う。
「友人ってだけではないのだっ!」
「我らは『チーム温泉』なのだ!」
ちょっとダサいような気がしたチーム名に笑えたが、トトとテテの気持ちが嬉しかった。
『我らはチーム!この世界を楽しくするためのチームなのだー!』
そう双子ちゃんは満面の笑みで言った。
本当にそうね。一人じゃないって最強で最高だと感じた。晴れ晴れとした空を見上げる。
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