遠き星を渡り歩けば故郷は遠くなりて
「おい……話をするってここでなのかよーーっ!?」
リヴィオの声が響く。
「ちょ、ちょっと……他のお客様に迷惑でしょ」
しーっと私は人差し指を口に当てる。そう。ここは『花葉亭』の露天風呂付きの特別室なのだ。
そう白銀の狼が言うとスウッと現れる黒い猫と………小さな金色の鳥。な、なんか可愛い手のひらサイズに!?
「可愛いわね……トリ。鳥ね」
「ああ……鳥だな」
金色の鳥がお湯の上でぷかぷか……アヒルまではいかないが、可愛すぎる。
「不本意だが、しかたない姿だ。かなりの力を使ったのだから、省エネしている」
「せっかく目を覚ますのじゃから、温泉に入りたいのじゃ」
キサが綺麗な顔立ちを歪めた。
「呑気な神々だな」
「焦ってもしかたあるまい?落ち着けトーラディムの王よ」
「そうそう。落ち着こうぜー」
白銀の狼とアサヒがパシャパシャ足だけつけて、湯を飛ばしながらそう言う。
「焦る気持ちもわかってあげなよ!まったく……これだからワンタローとアサヒは!」
ヨイチが呆れている。呑気なアサヒと一緒にするなっ!とワンタローが怒っている。
「まあまあ。とにかく久しぶりに会えたんだしね!」
私はお酒とツマミも用意する。空にはぽっかりとした満月が浮かび、ゆらゆらと揺れてお湯に映っている。
「我々は遠き星からきた」
『えっ!?』
私達の声がハモった。金色の鳥が唐突にそう言った。ほ、星!?宇宙!?
「3種族が住まうある星が滅びるとき、逃げてきたのが、このルノールの民が住む星であった。我々はちょうどあった3つの大陸を分けた。そこに住まう先住民のルノールの民人を無視してのぅ」
アオが淡々と語っていく。
「あのミラに取り憑いた始祖というのは……まさか……」
キサの震える声に察しが良いのーとアオは言った。
「我々と戦った、ルノールの民のもっとも強大な力を持つと思われる者だ。まさか最後のルノールの長が光の鳥の王に恋するとは思わなかったのであろうな……かなりトーラディムの王は恨まれておるが大丈夫か?」
白銀の狼がそう心配する。優しいところがある。
「別に構わない。その方がミラがこっちに来てくれるから好都合だ」
「……来たら呼べよ!?1人で抱え込むなよ!?」
本気で刺し違えそうなキサにリヴィオが慌てる。
「ミラを取り戻す方法はないの?私達の祖先……つまり……黒龍や光の鳥、白銀の狼と言われる種族がルノールの民の居場所を奪ったのね?それで憎まれてるの?」
私尋ねるとそうなるなと光の鳥がどこか他人事のように肯定した。
「すげー!宇宙人だってよー」
「アサヒ、忘れてないかな?ここでは僕らは異世界人で、驚かれる存在なんだよ?」
やはり緊張感のないアサヒとヨイチはそんな事を言っている。
「そもそもミラの存在のほうが強いはずなんだ。生きてる人間のほうがパワーがある。あれは魔力の固まりで意識はあまり無いに等しい」
「金の鳥よ……それは本当か?」
キサに尋ねられて、本当だと小さくて綺麗な鳥はピョコッと首を立てに振った。
なるほど……そうか……とキサはなにかヒントを得たのかブツブツ言っている。
「さーて、説明はあらかた終わったであろう?露店風呂で宴会じゃー!」
アオがおちょこを持とうとして、リヴィオが待てと言う。
「黒龍の守護者をオレだけにしてくれ」
「セイラの許可は得たのかのぅ?」
チラリと私をアオは見た。
「話はしたわ。リヴィオだけを危険に晒すなんて………本当は嫌だけど……お願い。アオ」
ノーチェ、ラビを……危険には晒せない。まだ自分たちで逃げることも対抗することもできないんだもの……私は唇を噛む。
アオは承知したと言う。リヴィオはホッとした顔をしている。
「リヴィオも親じゃのぅ……ふふふ」
「よけーなこと言わねーで、さっさと力をオレにうつせ!大体、そんな大昔の禍根のせいで、なんでオレらが狙われるんだよ!?神様を狙えよっ!」
「守護者を失えば、探すまで我々はこの世界に具現できぬからな。ざまーみろっていうところだろうな」
ペロッと白銀の狼は酒を舐めて言う。
私の腕の紋章は消えた。……悲観的になっていても仕方ないわ。前向きに未来を考えよう。私は立ち上がる。
「早くミラを助けて……そして!素敵な天空の地に私も次こそ行くわよっ!温泉を天空の地にも作ってみせるわっ!観光スポットに最高だと思うのよね。絶景の温泉!」
私の言葉にリヴィオ、アサヒ、ヨイチ、キサがプッ!と吹き出した。アハハと笑われる。
え!?なんで!?笑われたの!?
「アハハ!やっぱりセイラさんは言うと思ったー!」
「まさか……ほんとに言うなんてね」
アサヒとヨイチの笑いは止まらない。
「セイラなら天空の地にも温泉つくりたいって言うだろうって話をしてたんだよ!」
リヴィオが説明してくれる。しばらくして、キサは言った。
「そうだな。早くミラを助けて天空の地を解放し、皆が楽しめるようにな場所になったらすごいな」
黒龍のアオがポツリと『世界を繋ぐ者』はさすがじゃなと呟いた言葉は湯気と共にフワリとして消えた。
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