空へ渡り、鳥を見る
トトとテテが村で待っていた。オレの姿を見ると双子は同じ仕草で『やっと来たのだ〜』と言って、手を挙げて挨拶した。
「動くのか?」
オレの問いにトトとテテは当たり前なのだっ!と自信たっぷりだ。
「起動するのだ!」
魔石が輝き出す。青く淡く、そして黄色に変化した。
「エネルギー量安定!座標確認オッケーなのだ!」
ミラとキサがすごい……と感嘆の声をあげた。
「昔の転移装置そのものだ……」
「よくここまで復元できたわね」
『天才発明家に不可能はないのだっ!』
トトとテテがいつものセリフを言う。まぁ、しかし、今日ばかりは否定する気になれない。さすがとしか言いようがない。こいつらが、ここまですごいとは思わなかった。変なものばかり作ってるイメージだった。
ありがとうと礼を言われ、双子はニコニコとご機嫌だった。うちの双子は……変人にならないだろーな?と、ふと思う。
もう一組の双子の少年達が、一番乗り〜!と軽くジャンプし、転移装置に乗った。
「まさか白銀の狼の守護者たちも来てくれるとは……悪いな」
トーラディム王に改めて礼を言われて二人はえっ?と言う。
「フェンディム王国では魔物の減少がみられるし、かなり助かってるんだ。お互い様だー!」
「それはミラさんのお陰でもある。その恩を返したいです」
アサヒとヨイチが当然だとばかりに、そう言って、早く行こう!とワクワクしていて落ち着きない。
「じゃあ、トト、テテありがとう。行ってくる。またな」
オレは双子の労力に感謝して、転移装置に乗る。
『気をつけて行ってくるのだー!』
トトとテテは手を振る。転移装置に全員並んだ。白く淡い光がフワフワと体を包む。視界が揺らいで、変わる。
一瞬で、着いたところは同じような転移装置のある部屋で、他には何の変哲もない一室だったが、ミラが駆け出す。それをキサが追いかけた。ミラの手によって、バンッと開かれる扉。眩しい光が差し込む。
オレとヨイチとアサヒも扉の外の様子が見たくて走っていく。
転移装置は成功していた。ここは……空の上だ。白い雲が下に流れているのが見える。
「すごっ!なんだこれ!?」
アサヒが風景に驚く。いつも冷静なヨイチの目が珍しくキラキラと輝やかせてアサヒに続いて言う。
「まるでゲームの世界だね」
白い建物、緑の木々は生い茂り、それがまた不思議な世界を作り出す。青いちいさな湖があり、羽のはえた魚が泳ぐ。アサヒが手を入れて触れようとすると、跳ねて逃げる。
「おい、目の届く範囲にいろよー!」
双子の少年達がズンズン言ってしまうのをオレは止める。好奇心の塊となっている。
木々に垂れ下がる赤い実は地面にいくつも熟して落ちていたが、ミラが木の実に触れる。
「この赤い実は……」
口にし、味わっている。なんだか……泣いているような表情をしていた。記憶に残る懐かしいものなんだろうか?
「こんな高度でも鳥は飛んでいるんだな」
そうオレが白い鳥を指さして言うと、キサが偽物だよと言った。
「あれは機械仕掛けの鳥だ」
そういえばどことなく羽根の動かし方がぎこちない。
「元々は貰い物だった。それを複製した」
キサは昔の光の鳥の王の時代の記憶を持つ転生者ゆえ、知っていることもあるんだろう。
「懐かしいな……」
そう感慨深くキサは言う。ミラにいたっては心を持っていかれている。どこかボーッとしているが、大丈夫なのか?
景色を純粋に楽しむヨイチとアサヒがヒョイッと身軽に蔓をつたって登っている。
「うわ!すげー!あれ鹿!?」
「うさぎもいる……ちっさい羽根ついてないか?これ?」
そして動物を追いかけ回している。楽しそうだなー。
「神殿の記憶で見た景色と同じだが、実際に見るのはやはり良いな」
セイラにも見せてやりたかったなと思った。
「……ここにも温泉作るって言い出しそう」
ふと気づくとミラがいて、そう言って笑った。
「確かにやりかねない」
オレはふかーく頷いた。絶景ね!こんなところにも温泉あったら最高よね!って言うだろうな。『天空温泉ツアー』とか将来作りそうな気がする。世界だけじゃ、足りず、この天空にまで温泉地を作ってそうな未来が視えた気がした。
「とりあえず探索してみようか?」
キサがそう言い、オレ達は歩き出す。
「保護の魔法かな?天候も空気もずっと一定に操られているみたいだよね。気温や湿度が心地よいと感じられるものになってる。こんな高度だったら本当は寒いよね」
そうヨイチが分析する。
「あー……フェンディム王国も正しい気候に戻したいよなぁ。ずーっと夏だもんな」
アサヒが笑いながらそう言う。
「戻し方知らないし、仕方ないよ。白銀の狼も無理って言ってたしね。ポチが無理なら無理なんじゃないかな」
肩をすくめるヨイチ。雪遊び、またしたいなーとアサヒが明るく言う。
景色に驚きながら歩き続ける。外から中へ入る。神殿のような建物へ入る。ドアが自動ドアのように開いていく。
瓦礫と化してる部分もあるが、建物はしっかりとしていて、きれいだった。これも保護の魔法とやらがかかっているのかもしれない。
「ミラ、どこへ向かっている?」
キサが訪ねると、少し顔色が悪いミラが振り返る。随分、深部へ来てしまった気がする。
「え……?わからないけど、呼ばれてる気がするの」
「呼ばれている?なにに?」
オレの問いにわからないと答えるミラはあるドアの前で立ち止まった。
そういえば……とオレの思考がやけに冷静に冴え渡る。
ルノールの民の長、光の鳥、黒龍、白銀の狼。ここに揃っている。
これは偶然か?必然か?
呼ばれた?何に?って……この部屋の中に何かの気配がある。そんなことは常識的に考えるとおかしいことだ。
ミラが扉に手をかけた瞬間、オレの中で危険だと知らせる警鐘が鳴った。
逃げろ!そう黒龍の声が聞こえた気がした。
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