【クリスマスは誰かに喜んでもらいたい】

「ヨイチ、アサヒ、クリスマスプレゼント何か欲しい物ない?」


 もうすぐ近づくクリスマスの用意を旅館ではしていて、飾り付けも始まっていた。


 温泉はやっぱり寒い方が良いと言って、最近、よくやってくる双子の少年たちは私の言葉に目を丸くした。


「どうしたの!?セイラさん、最近、僕らになんか気を使ってないかな?」


 勘の良いヨイチがそう言う。


「そんなことないわ」


 とぼけてみる私。なにかあるんじゃないかー?とアサヒが笑うが、なんと言っていいかわからない。夢で見ましたなんて、変だし、気になるから教えてほしいというのもなにか違う。……あんまり喋りたくないことかもしれないし。


「エンドレスサマーのフェンディム王国ではクリスマスって感じがしないから、ここで雰囲気味わえて、いいよなぁー!クリスマスツリーが最高だよ」


 『海鳴亭』の玄関ホールの巨大ツリーや『花葉亭』の小さなツリーそして屋敷の中くらいのツリーがある。


 屋敷のツリーの飾り付け、楽しそうだからさせてくれーとアサヒが言ってしている。……でもたぶん、私の体調を気遣い、なにか手伝いないかなと顔を出してくれた優しい彼らなのだと思う。


「でも実際の日本でのクリスマスは家族でしたことがないけどね」


「ヨイチ!それを言うなよ。今、クリスマス気分味わってるのにさ」


 え!?と私が驚く。アサヒが肩をすくめる。


「いや、そんな驚かなくてもさ。家はキリスト教徒じゃないし、両親は仕事が忙しいからそんなイベントを楽しむ雰囲気じゃなかっただけだよ」


「そっか。そうなのね……そう言われてみたら、まぁ、私の家も旅館してたから、忙しくて、その手伝いして、遅い夕食にクリスマスケーキついてたーってレベルのクリスマスだったわね」


 私はそうねと顎に手を当てて考える。


「その家、それぞれね。むしろ、今のほうが楽しめてるかもしれないし……別にパーティーをしなくても、いろんなクリスマスの形があってもいいわよね」


「いや、でもクリスマスパーティーはしてみたいよな!」


「そうだなぁ。一度くらいホームパーティーってのはしてみたいかもね」


 え!?けっきょく……してみたいの!?


「そうなの!?クリスマスパーティーしてみましょうか!?」


 双子の少年たちは、はりきりだした。屋敷の一角の部屋をパーティー用にすると、そこに飾り付けをしだす。


 トトとテテもその様子に気づいて、部屋をヒョコッとのぞく。


「ん?なにしてるのだ?あの黒髪の少年たちは?」


「紙の……輪っかなのだ?繋げてなにしてるのだ?」


 トトとテテが輪繋ぎを見て、これどうするのだ?と聞いている。アサヒが窓に飾る!と返事をし、ヨイチがキラキラの紙を折ってハサミで切ると……トトとテテが『星ー!?』と驚く。


「す、すごいのだ」


「紙でそんなことができる……確かに展開図にしたら、できることはわかるのだ……でもその発想かなかったのだ……」


『天才発明家のライバル現る!なのだーっ!』


 ただの切り紙だけどね……と私は冷静に見守る。得意げにアサヒが折り鶴や紙風船、カメラ、手裏剣を披露し、トトとテテに渡すとすごすぎるのだ!と言われている。ヨイチがアサヒか考えたものではないとツッコミをいれる。


 それにしても同じ顔が二組もいると、なんか変な空間である。


「飾り付けにはヨイチとアサヒは力を使わないのね。その方が早そうなのに……」


 私の言葉にヨイチがそれじゃあだめなんだ!と言う。


「せっかく正しいクリスマスのホームパーティーするなら、手作りのほうが良いと思うんだよね。ハイ。セイラさんの分」


 渡される紙。意外と律儀ね……と私も紙を折りだす。


 何ができるのだ!?とワクワクするトトとテテ。


「できたわ!お花よ!」


『おおーっ!セイラもすごいのだーっ!』


 紙のお花を作り上げてドヤ顔をする私。


「セイラさん、お花って……クリスマスじゃなくて、卒業式とか文化祭とかじゃ?」


 控えめにヨイチが言う。


「そっ、そうだった!」


 これはクリスマスじゃなかったわ。トトとテテがダメなのだ?と言ってフワフワの紙のお花を自分たちの頭につけてみている。可愛いけど、なんか違う。


 飾り付けをし、クラッカーを用意し、ツリーにイルミネーション、チキン料理にケーキ……みんなでするためのボードゲーム。


「どう!?ホームパーティーになったかしら!?」


「具体的になにするの?」


「僕たちはわからないよ?」


 アサヒ、ヨイチ……そして私もクリスマスのホームパーティーというものの経験はなかった!リヴィオを呼ぶと、彼はサラッと言ってのける。


「は?クリスマスパーティー?ただ飲んで騒いでる大人がいるイメージだなぁ。オレの家は接待の場になってた。あとケンタッ○ー食べる感じだろ?」


 し、しまったーっ!シンヤ君、確かお坊ちゃんだったわ。ホームパーティーってレベルのクリスマスパーティーじゃなかったのね!この場にいる誰の経験も参考にならなかった!


 トトとテテがお酒を持ってきて笑う。


「そんなの楽しめばいーのだー!」


「パーティーとはそんなものなのだー!」


 ポンッとコルクの栓のいい音がした。ヨイチとアサヒがそうか!と笑う。クラッカーを鳴らして、にぎやかな音楽をかけた。大きいなケーキや一羽丸々のチキンを切り分ける。


『メリークリスマス!!』


 ヨイチとアサヒの言葉に、なんの呪文を叫んだのだ?とトトとテテは首を傾げるのだった。


 その夜、窓の外は静かに雪が降り出していた。暖炉の火が燃える温くてみんなの笑い声がする部屋。それ以上に何がいるか?と言われたら実は何もいらないのかもしれない。

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