時を越えて民人は出会う

 賢者ブリジットがブスッと不貞腐れている。自分の作った迷宮を秒殺と言っても過言ではないくらい、楽勝でくぐり抜けられてしまい、面白くない!面白くない!とブツブツ言い続けている。


「早く転移装置を進めるのだ!」


「賢者ブリジット!約束したのだ!」


「往生際が悪いぞ」


「迷宮作り直しの経費は落とさないよ」


 トトとテテ、リヴィオ、ジーニーが口々に言うので、よけいに意地になってる。


 私は苦笑して口を開きかける………と、そこへ、ごめーんと軽いノリでやってきた子どもがいた。


「温泉の掃除の手伝いしてたら、遅れちゃった〜って………あれ?終わっちゃった!?」


 ミラである。遅れてやってきて、微妙な空気に、あれっ?となっている。


「スタッフたちの手伝いしてくれてたの?ありがとう」


「良いのよ。お世話になってる身だもの!」


 私がお礼を言うと、にこやかにミラは答える。旅館のスタッフたちと仲が良くて、ミラは最近は街にも一緒に遊びに行ってるらしい。馴染んでるなぁ……。


 ガタンと椅子の音がした。賢者ブリジットがいきなり、床に膝をついて、ミラに頭を垂れている。


「な!?なにしてんだ!?」


 リヴィオが驚く。私達はミラとブリジットを交互に見る。されたミラも何事!?と、驚いている。


「その容貌……ルノールの長ではありませんか?」


「そ、そうよ。大昔の話だけど……なるほど。あなたは記憶を持つルノールの民なのね」


 賢者ブリジットの先程までの高慢な態度は霧散し、そうですと声を震わせている。


「長様、会いたいと思っていました。我らを守ってくれ、感謝しておりました」


「……この国の転移装置を作ったのはあなたなのね?」


「先祖代々、受け継がれてきた技術でございます。この地に逃げてきて、ルノールの民である事は決して話すなと言われて、我が一族は隠れるように生きてきました」


 ルノールの民と分かれば迫害されたり囚われる可能性があるからだろうけども……。


「まったく隠れてないのだ。その派手な服装からして改めるのだ」


「潜むどころか賢者として活躍していたのだ」


 黙れ!トトとテテ!とブリジットに怒られているが、ごもっともな意見を言う双子ちゃん。


「長様は……もしや天空の地へお戻りになるのですか?」


 老齢のブリジットが子どもに膝を付き、礼をとっている。


「顔を上げて、立ってくれる?今の私はルノールの民の長ではないし、もう民はバラバラなんだから……」


 ミラはそう言って、ブリジットに立つように促した。


「そう。天空の地へ戻るというか……行く用事ができたというか……」


「それが長様の願いであるならば!このブリジット!全力を尽くします!」


 ………私達は顔を見合わせる。


「おい。さっきとだいぶ違う対応じゃねーかよ!?」


「迷宮にわざわざはいった僕らは……」


 リヴィオとジーニーが半眼になっている。


「では、賢者ブリジット、どうか力を貸してください」


 私がそう頼むと、もちろんと頷いた。天空への装置の設計図を持ってくる。トトとテテが作成したものだ。


「トトとテテの設計図の復元率は大変素晴らしかった。ただ、壊れた球体は新たに鉱山から掘り出す必要があるね」


 ブリジットが多少手直しはいると設計図にメモを書き足しつつ、そう言う。


「巨大な転移装置を動かすこの鉱石は、この辺りの鉱山では採れないし、見たこともない。あちらの大陸、トーラディム王国のある大陸で採れる希少な物だろうね。それを探すことが先だね!」


 ミラが、キサに相談してみるわと言う。確かに彼なら、手に入れられそうだ。


「ルノールの民の末裔として長に仕えされていただきます」


 そう言った賢者ブリジットはふざけた老婆ではなく、真面目で真剣な表情であった。時を越えてなお、繋がっている民人達。


 ミラはすこし潤んだ目でありがとうと言ったのだった。

 

 私はというと……活躍の場がまったくなく、ちょっと寂しくなっていた。



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