賢者は怒られる

 ジーニーが言った。


「頼まれていた件について、知識の塔に来てもらい、話をしても良いらしいが……僕には、まったくこれっぽっちもミクロたりとも理解できないが、母が、あの変人奇人の見本の父と温泉旅館に行きたいと言っていて、そちらへ行くから、よろしく」


 リヴィオがニヤニヤとして、おまえも来ないの?と聞くとイラッとした表情を隠すことなく、連絡球をプツッと一方的に切られた。私は慌てる。


「もう!からかわないのよ!ジーニー、最初から、すごく不機嫌そうだったじゃない!?」


「いーんだよ!たまには、あいつのああいう顔もみたいだろ?いつもすましてるんだし、崩してやりたくなるだろ?」


「えっ?……うーん……そうなのかな?」


 やはり悪戯っ子のヤンチャなリヴィオは健在らしい。


 私はとりあえず、もてなす用意をすることにした。


「いらっしゃいませー!お久しぶりです」


 私が挨拶すると、元エスマブル学園長は来ることがめんどくさかったらしく気乗りしない顔をしていた。


「もうっ!あなたったら!いつまでもそんな態度はやめて!」


「研究していたかったのに……友だちとでも行けばよかったじゃないか……」


 ブツブツと言っている。美人なジーニーの母は目を鋭くさせ睨みつける。睨んでも綺麗な顔をしているので、余計に迫力がある。


「あ・な・た?」


「はいはい………」


 二人のやりとりに私は苦笑しつつ部屋に案内した。お茶とさつま芋を練り込んだクッキーを一緒に出すと、穏やかな雰囲気になった。座ってお茶を飲む二人は仲の良い夫婦に見えるんだけど。


「美味しいわー。これお土産に買っていかない?」


「君の好きなようにすればいいさ」


「お風呂を先に入ってくる?それとも夕食にします?」


「君が決めてくれ」


「今度はジーニーも連れて来たいわね」


「あいつは来ないだろ」


 …………バーンッ!部屋の机をものすごい力で叩いた。数センチ、お茶のカップやお菓子のお皿が浮いた。


「もーーーーいいですわっ!」


 怒って部屋から出て行く。慌てて、私が追いかけると、お風呂へ行ってくるから気にしなくて良いわよ!とプンプンしながら歩いていく。


 私が部屋に戻ると、出ていった扉もそのまま開いていて、どうしようかしら……と思いつつ、そっと閉めようとすると、ジーニーの父は止めた。


「おーい!ルノールの民の魔力について聞いていたんじゃなかったか?」


「え、ええ。今、大丈夫なのでしょうか?」


 私はなんとなく、この場の空気では聞きにくいから、後からにしようと思っていた。


「べつに今で良いだろう?」


 いいんだ……?いいのかしら?夫婦喧嘩に私はオロオロしているが、まったく当事者は気にしてないようだ。


 ずずっと音を立てて、お茶を飲むマイペースな賢者。


「ルノールの民の住んでいた天空の地を探すことだな。彼らは我々とは違う理屈の力を持つから、よくわからない。ルノールの民の住まう地でならヒントがみつかるかもしれない」


「……天空の地にどうやって行くんですか?」


「それはトーラディム王国になら手立てはあるかもしれないな。ルノールの民が天空の地を捨ててきたのを積極的に保護していたのがトーラディム王国だからな。元々行き来していたのだろうと推測てきる」


 あの王国内にある……?ということなのだろうか。


「魔力は決められたコップに例えると、決められた分だけ注がれ貯めておける。枯渇したなら、魔力が徐々に貯まるだろう。時間が解決すると思うが、幼い姿になるとは前例がない。驚くべきことだな。役に立ててない気がするが……研究にルノールの民を貸してくれたら捗る気がする。どうだ?」 


 さらっと最後に、怪しいことを言いだす。目がキラーンときらめいているのが気になる。狙ってる!研究用にミラを貸せと言っている!


「いえっ!大丈夫ですっ!調べてくれてありがとうございます。さすが賢者と呼ばれるだけあります。天空の地を探してみたいと……」


 と、私がそう言った瞬間、バーンと部屋の扉が開いた。


「追いかけてきなさいよーー!?」


 ジーニーの母が怒っている。わざわざ戻ってきたらしい。


「えっ?追いかけてほしかったのかい?」


 知識によって、その先のことを見ることができる千里眼の賢者は驚いている。


 ……いや、追いかけるとこだったよね?


 遠くのことは見えるのに、近くが見えない賢者。


「いい加減にしなさいよ!?この研究バカーーーっ!」


 ジーニーの母の怒りは止まらず……悪かった。すまない。と何度も謝っている。


 そっと私は部屋から出ていったのだった。夫婦喧嘩は犬も食わないっていうしね。二人で解決してもらおうっと……ふと、ジーニーの不機嫌そうな顔を思い出し、彼は大変だわと思ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る