リヴィオのお節介

「オレ、そんなガラじゃないんだけどなあ」


 朝からブツブツ言ってる。何事?私がなんか言った?と聞くとなんでもねー!と言って、仕事へ慌てて出ていった。なんだろうか??


 夕方はそろそろ秋を感じられるようになってきた。日が落ちるのが少しずつ早くなってきた。


「お客様、ナシュレの栗を使った栗まんじゅう!この時期ならではなんですよ。限定なんです。皮がしっとりとしていて、美味しいんです」


 売店でミラが楽しそうに語っている。商売上手で売店の売上は伸びている。


「ゆきんこちゃんシリーズ!先行販売してますよー!」


 ……すごく。才能があると思うの。スカウトしたいくらいだけど、我慢しよう。相手はなんといっても力こそ今は失われてるかもしれないけと、元エリート神官なのよ!


 私はリヴィオの帰りが遅かったので、焼きおにぎりを夜食に作ってみていた。ジジジと網の上で焼け、香ばしい味噌と醤油の香りがただよう。


「うわ!いいにおーい!」


 頭にタオルを巻いて、現れたのはミラだった。お風呂の後に屋敷に来たらしい。


「あら?どうしたの?ミラも食べる?」


 食べる!食べる!と嬉しそうに言うので、追加でお米を三角に握って焼く。新米だから、絶対に美味しいだろう。


「え??リヴィオが、今夜、話があるから屋敷の方へ来いって言ってたのよ?」


「リヴィオが?」


 私は聞いてないなぁ?言っていたかしら?と首を傾げる。


「うわ!なに……このお焦げのおにぎり!すっごくすっごく美味しい!」


 目をキラキラさせてミラは感動したように一口噛じったおにぎりを掲げた。


「ここに居たのか。良い匂いがしたから、そうじゃないかと思った」


「ほんとに良い匂いだなー」


 ミラがおにぎりをポトッと手から落とす。危なっ!とキャッチする私。お米を無駄にしてはいけない!でも驚くのは無理ない。リヴィオと一緒に何気なく顔を出したのはトーラディム王。ジーニー並みに親しげにやってきたから一瞬、誰なの!?と思ったわ。少し痩せた気がする。


「キ、キサーーー!?」


「久しぶりにキサと言ってくれたね」


 陛下の名前を思わず呼ぶほどに油断し、驚くミラ。陛下はやや不安と暗さのある困った顔をしている。いつも微笑んでいた彼が、その仮面をかぶれないほどに気持ちに余裕がないことがわかる。


 二人をそっと残して、私とリヴィオは部屋から出た。


「神様の通り道から、行ってきた。光の鳥も黒龍も今は力を使いすぎたから寝てるけど、道はつかえるからな」


「そうだけど……よく呼んできたわね」


 リヴィオが、私にニヤリとヤンチャな顔をしたが、どう説得したのかは内緒らしい。


「こんなお節介、オレには向かないと思ったんだけどな」


 クスッと私に笑われると少し顔を赤くしている。


「優しいと思うわ。リヴィオ……大人になったわね。あなたが、こんな人の恋愛に、気を回すことできるなんて、ちょっとびっくりしちゃったわ」


 うるせーと照れ隠しに言って、目をそらすリヴィオ。『黒猫』と呼ばれ、ツンツンとしていて、誰も寄るんじゃないという雰囲気でいた頃が懐かしいわ。過去の彼も成長した彼も……どっちのリヴィオも私は好きだわ。大人になった黒猫を見つめた。


「そろそろいいかしら?」


 私はそっと扉を開いて覗いてみる。ミラが涙を拭う。トーラディム王はヒョイッと小さな彼女を抱きかかえた。やめなさいよー!なにするのよー!とミラに言われているが、嬉しそうに笑う陛下を見ると、話し合いはうまく言ったらしい。いい雰囲気で、ついリヴィオと私が隙間から見ていたら………。


「入ってきていいよ」


 ……トーラディム王には隙間から見ていたことがバレていた。苦笑された。


「えーと、うまくいったか?」


 リヴィオが言うと、トーラディム王はうんと頷いた。


「……3年。3年猶予をあげるよ。なんとかその間はごまかす。だけど3年たったらトーラディム王国から出ることは許されない。その姿、力が戻ろうと戻らなくてもトーラディム王国へ帰ってくることを約束してくれ」

 

 真っ直ぐに青い色の目は抱きかかえたミラを離さず、見ていた。ミラの方はもう容量オーバーらしく、赤い顔を手で隠して、コクコク頷いている。


「3年か……トーラディム王、オレ達も元に戻せる方法がないか探していく」


 ありがとうと陛下はお礼を言った後、ニコッと親しげに笑った。


「今度からは王や陛下ではなく、キサって名前で呼んでくれないかな?……つまり、その……一緒に魔物の装置を破壊した同士であるし、もう友人のような気持ちなんだけどな?」


 私とリヴィオは顔を見合わせた。そして『キサ』と呼ぶ。


 呼ばれた瞬間に光の鳥の若き王は年齢相応の飾らない笑顔を見せたのだった。……きっとここまで来るのに、苦悩をしていたんだと思った。ミラを見て、受け入れてくれたことの嬉しさを隠しきれていなかった。王という名の姿を装っていた彼はやっと私達にも本当の姿を見せてくれたのだった。


 3年……それは彼の立場で、守れ、耐えれると計算した年月。ミラにくれた時間だった。

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