異世界からやって来た者

「なんと元の世界へ戻っておったのか……しかし帰ってきたと?そっちの女も共にか?」


 美しい黒髪の女王陛下は記憶で見たときより、実物はもっと美しくて、私はやっぱり綺麗な人ねぇーとウットリしてしまった。シンヤ君がそんな私を呑気すぎると半眼で見てから、陛下に視線を戻す。


「まあ、こいつのことは放っておいてください。とにかく!なにが起きてるのか教えてくれ……ここに戻ってきてしまった意味がなにかあるはずだ」


「魔物の発生装置は破壊され、セイラ=バシュレが死んだ」


『えっ!?』


 陛下の言葉にシンヤ君と私の声がかぶった。


「魔物の発生を食い止めるために犠牲になった。これより先、魔物が増えることはないであろう」


 シンヤ君が息を呑むのが聞こえた。


「ほ、ほんとに……?魔物に滅ぼされる未来は無くなったのか?だけど……セイラが……か」


 震える声で尋ねるシンヤ君に、女王陛下がそうだと頷いた。そうか……と何度も言葉を噛み締めるように言うシンヤ君。


「セイラが犠牲になるなんて、そんなことって……ないわよ!悲しすぎるわ」


 いつの間にか私はポロポロと泣いていた。


「待て、カホ、落ち着け。おまえがここに来た意味がなにかあるだろ?セイラが呼んだんじゃないのか?セイラを見たんだろう」


「た、確かに……っ……グスッ」


 シンヤ君が意外と涙もろいんだよなと、ポケットからハンカチを出して渡してくれる。


「セイラに呼ばれた?見た……どこでじゃ?」


 陛下が眉をひそめる。


「セイラの体は?どこにある?」


「王宮の部屋に寝かせてある。王宮医師が言うには仮死状態であるらしいが……目覚める気配はない」


 女王陛下はシンヤ君の問いに目を伏せながら、そう言った。


「私に会わせてもらえませんか?」


 何の考えもなく、そう私は言っていた。もう一人の私が私を呼んでいる気がした。


 うまく説明はできないけど、助けてほしいと……そう感じる。


「とりあえず王宮に留まると良い。急なことで、話し合う必要がある。シンがセイラに害することはないだろうが、我々も現状の把握に今は必死だ。頭が追いつかない」


 宰相のハリーは私とシンヤ君に王宮での部屋を用意してくれる。


「一人で出歩くなよ!?危ないからな!?部屋から出るときは声をかけろ?」


「修学旅行の約束みたいよね?」


「緊張感ないな」


「セイラの記憶があるせいか、懐かしく感じてるわ。故郷のような気がしてしまうのよね」


 なるほどなとシンヤ君は頷いた。


「オレがここへ来たときより落ち着いてるよ。窓の外の景色、良いから眺めて見るといいよ」


 私はそういえば!と窓に駆け寄っていく。


「落ちるなよ!?」


 いちいち保護者みたいなシンヤ君だ。さすがにそこまで夢中になって落ちたりは……高っ!


 窓を開けると下は崖。高い!!風が下からビュッと吹き付ける。しかし眺めは良かった。海の道の向こう側に見える王都の町並み、海には薄っすら霧がかかっていて、幻想的だ。


「私もとうとう来れちゃったわって実感しちゃうわね!」


「来たかったのか?」


「興味はすごくあったわ……ナシュレも行ってみたいなー」


 あんなにセイラが大切にしていたものを見て触れてみたかった。風に髪が揺れる。そんな私を眩しそうにシンヤ君が見ていたことに気づく。


「もう一人のオレのリヴィオには助けてもらった。たぶん今頃落ち込んでいる。今度はオレが助けたい」 


「私も私のためにしてくれたことを返したいの」


 異世界に来た意味を私達はわかってる。顔を見合わせる。


 きっと絶対に助ける。今は絶望の淵にいるもう一人の私達。待っていて。今すぐそこへ行くから。

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