歌に秘められし真実
白い雪に包まれたエスマブル学園の校庭では、初等クラスの可愛さの残る子どもたちが、雪合戦をしたり雪だるまを作ったりし、楽しげな声をあげながら遊んでいた。
窓から眺めて、ジーニーは眩しそうに目を細めた。
そして私に白い布に包まれたナイフを返す。父が持っていた物だ。
「賢者達に見てもらった。そのナイフはフェンディム王国で作られたものらしい。かなり細かい術式で、人の魔力を奪う類らしいが、セイラの魔力をこのナイフに入れようとしても途中で魔導具の方が耐えれなくなるだろうという見解だった」
普通の魔力を持つ者なら脅威だろうけどねと肩をすくめるジーニー。そう、ありがとうと私は言いながら、誰が父に渡したのか?それとも自分でみつけたのか?何か意図があるようで、気になった。そっとナイフはしまった。
「リヴィオ、おまえ……そんな落ち込むなよ?温かい紅茶でも淹れて、慰めてあげようか?」
ジーニーがやけに静かなリヴィオに、ニヤリと悪い笑みを浮かべて、そう言った。さすが親友だけあって、いつもと違う彼に気づく。
「いらねーよっ!表面は優しいこと言いつつ、それ嫌味だろっ!……さっさと本を見に行くぞ!」
リヴィオがそう言って、そっぽを向く。父のことに関してはシンの記憶が色濃く、リヴィオはアルトを救えず、私を傷つけたと後悔し続けているところがある……。
ジーニーに言っていないのに何かあるとバレている。さすが長年の付き合いだけある二人だわ。
「やれやれ、素直じゃないなー」
そう言って、ジーニーは金色の少し古びた鍵を渡してくれた。
「ちょっと禁書の部屋に入るのはドキドキするわね。勝手に入って大丈夫なの?」
「ま、二人なら信用しているからね」
ジーニーは行って来いと手を振った。私とリヴィオは禁書のある部屋へと行った。そこには貴重な本がズラリと並び……。
「うわ!この本、初版だわっ!こっちの本はもう廃版になってるやつ!!」
思わず興奮してしまう私。
「おい、落ち着け。歌集を探すんだろ」
リヴィオの声にハッ!と我に返る。危うく脱線するところだった。
古い本は少し傷んでいるものもあったが、きちんと管理されているため、歌の本はすぐにみつかった。
これかな?と思うものを開いた。随分と古い本だったので、そっと扱う。
『光輝く鳥は舞い降りる 深き青の瞳の色と出会う 地上の炎は燃えて明るく照らす 遠く 近く 時は流れ 望みはなにぞ 彼の人に手を伸ばし 羽ばたき すべてを越えてゆけ』
「恋の歌って言われるこの歌はトーラディム王国の歌なのよね?どこが恋の歌なのか謎だけど……ほんとにそうなの?」
「こっちはフェンディム王国だと思う」
リヴィオは違うページを開く。
『星は輝く されど弾ける 救いの手を伸ばせ 祈れ 白銀の矢は射られた 黒く染める 地を空を 弓で払え 禍々しき この世』
ページをめくると、まだ他にも歌がある。すべてなにか予言書のような曖昧な書き方をされている。本の題名は『鎮魂歌』。これはと……私は息を呑む。
「これは、あの神殿で見た黒の時代の歌ね」
「そうみたいだな。この王国にも残っていたほどの激しく広範囲で行われていた戦だったんだな」
私とリヴィオは無言になった。神殿深部にあった記録。あの凄まじい戦いを思い出す。
国を閉じていたウィンディム王国は巻き込まれることは無かった。運良くと言えばいいのかしら?それとも黒龍が民を守るため、意図して閉じていたのかもしれない。
シン=バシュレが黒龍の助けを得て、繋げた海路。あれがなければ、今でも他国との行き来は難しい。
ナシュレに帰ってからもリヴィオとその話をしていると、暖炉の前で、ゴロゴロと寝ていたアオがムクッと起き上がった。
「あのスカした鳥の恋愛話など聞きたくないわ。馬鹿者が、人に恋をしてしまったのじゃ!その歌は呆れてしまうわっ!我らが止めても止められず……ちなみに、いまだに引きずっておるわ」
「えええええ!?やっぱりこれ、恋の歌なの!?そんなロマンチックなことだったのー?」
何がロマンチックなものか!とアオはどこか怒ったように言って、また寝そべる。ちょ、ちょっと!話を聞かせてよと言いたいが、聞くな!と言わんばかりに、こちらに背を向けて寝ている。こうなっては、アオはもう教えてくれない。
「歴史に残る恋愛かよ。神様も恋愛するんだなー」
リヴィオはそう言って笑ったのだった。まさか歌にされてるとは神様も誤算だったかもしれないわと私も肩をすくめた。
でも神様が、誰に恋したのかは歌集からは読み取れなかった。
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