少年達の遊び場

 ヨイチとアサヒは二人でいるからこそ、強い。どちらか一方が欠けてはきっと上手く生きていけない。


「わかってるよ」


 そう言うのはヨイチだ。アサヒの方を見て笑う。


「アサヒの明るさが僕を救ってくれる」


「ヨイチがいないと、俺はテキトーだから、生きることに苦労するだろうなー」


 そう思うなら、もう少しそのへんを片付けなよ!と怒られるアサヒ。室内に鉄道模型が散らばっている。


「ま、待て!そこ触るなよ!作ってる途中なんだ!」


「セイラさんたちが座るところないだろ!?」


 良いのよと私は笑う。リヴィオも気にするなと言う。相変わらず、微笑ましい二人だ。


「今日来たのは魔物の発生の原理がわかったことと、発生装置を作ったやつが何故かセイラにコンタクトをとってくることなどの経過を話しに来た」


 ふーんと二人共、興味が無さそうだ。


「別になんでもいいよ。目の間のやつを倒せと言われれば倒すだけだ!」


「魔物がいなくなれば討伐しなくていいし、隠居生活送れるからね。目指すところはそこだよね」


 アサヒはお土産に持ってきた温泉饅頭をガサガサ開けている。♨マークの焼印入りだ!すげー!日本だー!と感動して食べている。


 二人と話していると、緊張感が薄れていく……。まぁ、いいかとリヴィオも言う。


 ずっと寝ていた白銀の狼のワンタローがムックリと起き上がる。


「先人達ができなかったことをやろうとしておるが、危険だぞ」


「心配してくれてるの?」


 私が聞くと、ち、ちがう!とプイーッとあちらを向いてしまう。さっきから白銀の狼の毛並みを撫でたくてソワソワしている私だが、怒られそうなので、とりあえずお饅頭を手にのせて、差し出してみる。


「どう?温泉饅頭食べない?」


「餌付けしようとするなっ!」


 ワンタローは察してしまった……バレたか。残念。いつの日か、その素晴らしい毛並みを撫でてみせる!私の思惑に気づいてるヨイチとアサヒはクスクス笑う。


 外に出て、銭湯に行こうという話しになった。真夏の国では汗をかく。お風呂に入って、アイスクリームを食べる予定にする。


 ……街へ入ろうとした瞬間だった。


「今日は白銀の狼の守護者といるんだね。トーラディム王国の次はフェンディム王国か。ホントに取り入るのがうまいよね」


 バッとリヴィオと私、アサヒとヨイチは声の方向に、すばやく反応した。浅黒い肌の少年が不敵に笑っている。


「魔物が順調に浸透し、滅びた国の守護者さん。こんにちは」


 嫌味ったらしい言い方にアサヒとヨイチは目を細める。


「ふーん。こいつがセイラさんを狙ってるやつ?自分からくるとか、好都合だなー」


「よく僕らの前に現れることができたよね」


 不敵にニヤリと笑う双子の少年。


「さっさと倒して、隠居生活送らせてもらうっ!」


「何かを救うとか本来は僕らの目的ではないよね!自分たちのためにやるだけだよ」


 アサヒとヨイチは筆をスッと一閃した。本気だ。白銀の狼の力が満ちる。


「アサヒ!ヨイチ!」


「あの二人なら大丈夫だ、見てろ」


 私が心配して声をあげると、リヴィオは制止し、私を守るように前に立って、剣を抜く。


 間もなく、少年達は戦い始めた。


 黒い亀裂が生まれ、中から魔物が生まれてきた。四本脚の獣がゾロゾロと……止まらない!?


 アサヒがヒュンッと音を立てて、筆で円を書く。その中に炎竜と文字を書いた。ゴオッとオレンジや赤色の大きな炎が黒い亀裂を飲み込むように襲いかかった。


「この暑い時に、火系の文字を使うなよっ!」


「攻撃効率こっちのほうがいいだろー。どうせ風呂入るんだしさ」


 言い争う二人の油断を相手は見逃さない。炎の中から避けた魔物が襲いかかってきた。ヨイチが氷刃と文字を書くと真っ二つに魔物は氷の刃で切り裂かれた。


「仕上げだな!やるぞ!ヨイチ」


「了解だよ!」


 アサヒがそう言うと、天に向かって雷神と書く。その横でヨイチが雷槍と書き足す。鋭い閃光が幾つも空から降ってくる。増えた魔物たちは雷に打たれて一匹残らず殲滅した。


「すごい……」


「あの二人は白銀の狼の力をほぼ受け継いでいる」


 驚く私にリヴィオはそう言う。気づくと、あの少年の姿はなかった。


「僕たちの力を測りにきたのかな」


 ヨイチが黒の目でじっと少年がいた方を見た。アサヒはいくらでも来いって!と楽しそうだ。


「守護者がいる場所を巡り、力を測るか……あり得るな。しかもそれを、わざわざセイラに見せつけようとしてる気がする。なんなんだよ」


 リヴィオはクシャリと自分の髪を掴んで困惑した。


「まぁ、リヴィオ安心しろよ!オレらが、また追っ払ってあげるさ!」


「汗を流しに行こうよ。予想外の運動にベタベタだよ」


 頼もしい二人が、夏に時折吹く、爽やかな風のように、元気に駆けていく。それが眩しく感じた。


「あいつら頼もしいけど、時々、兄弟喧嘩するから、シンヤは目を離せなかったんだ。喧嘩だけはやめてほしい」


「激しそうな喧嘩になりそうね」


「手がつけられない」


 リヴィオはイヤ~な顔をして、銭湯のある街へ歩いていった。私はもう一度振り返る。何者もそこにはもういなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る