秋雨が降る夜
「キャー!奥様、ずぶ濡れですっ!」
「どうしたんですーーっ!?」
メイド達がバタバタとタオルを持ってくる。私とアオから滴る水が玄関に落ちる。
「なんで雨に濡れて帰ってくるんだよー!?」
騒ぎを聞き、リヴィオが駆けつけてきた。
「それが……さっきまで晴れていたのに、急に降られちゃって……」
「転移魔法はどうした!?」
「セイラがダッシュで屋敷まで行く!っていうからのぅ……」
もう目の前に屋敷は見えていたのよと私は言う。リヴィオがまったく、変なところ頑張るなよ!と呆れつつ、風呂の準備をしてくれとメイドに頼んでいる。
私とアオはお風呂で温まる。湯気の中でアオはハァーと一息ついた。私も手足を伸ばす。頭にはタオルを巻く。
「神様たちは何を考えてるの?」
「なんのことじゃ?」
お風呂でする会話ではないかもしれないけど……。
「この時代に力の強い守護者を用意したのよね?」
「……妾はあまり語りたくない。話すことで、ミスリードしてしまうかもしれぬ。人が自ら考えて行きたい方向へ導き出すことこそ、この世界の良き未来ではないかと思うからじゃ」
浴槽の縁に顎を置いて、半眼になる私。
「もっともらしい言い方だけど、めんどくさいだけじゃないわよね?」
「違うわっ!」
パシャッと小さな水音をたてて、私に肉球パンチしてくるアオ。可愛いすぎる猫だ。
泡立てて、綺麗に洗ってあげる。ハーブの良い香りがする。泡だらけのアオは白猫だわとクスッと笑う。
「人の姿でお風呂入らないの?」
「この世界に長く具現化する時には、何故か、この姿が一番長くおれるのじゃ」
なるほどーと私は頷く。お湯で泡を流すと気持ちよさそうなアオだった。
「温泉とは不思議よのぅ」
お風呂に入るアオが言う。
「あらたまってどうしたの?」
「心を穏やかにさせ、神も人も寄ってくる。そんなお風呂は、この世界になかった。セイラは面白いものをつくったの」
私自身も必要だったのよ!と笑ってゆっくりとお湯に浸かったのだった。
そしてアオの言葉でハッと気づく。
神様は私の転生に関しては関与していない。イレギュラーな存在だと。……温泉が欲しかったのは私。神様ではない。守護者にするために転生したのではない。じゃあ、なんのため?たまたま?私がいなければシンヤ君がそのまま守護者としてこの世界で動いていたのだろう。
「いきなり静かになってどうしたのじゃ?」
「え?なんでもないわ」
アオにそう言ってごまかしたが、とても重要な何かを忘れているような気がした。今はわからないけれど、思い出さなければならないような記憶があった気がしたのだった。
「何だって?トーラディム王国で!?……いや、わかった。セイラから目を離さないようにする」
お風呂後に私とアオがトーラディム王国であった話をリヴィオにした。彼は気持ちを引き締めるように、金色の目がキッとなった。
メイドがお風呂上がりだが、温かい飲み物を持ってきてくれる。心配かけたようで、徹底的に身体を温めようとしている。
私は熱い生姜入りのお茶の入ったカップを持ち、飲む。アオはホットミルクをペロリと美味しそうに舐めていた。
「だけど、なぜセイラが魔物の発生装置を作ったやつに狙われるんだ?」
「それは妾もよくわからぬ。嫌な空気を感じたから、セイラの元へ行ったのじゃが、なぜセイラへ殺意を向けたのか?……光の鳥ならば、わかるかもしれぬが、あやつはあまり人に興味がなくてのぅ」
「とにかく、セイラはオレが守る」
「妾の守護者に手を出させぬわ」
二人が燃えている。
「ありがとう。ちょっとだけ怖かったの。戦うことはできるけど……あそこまで殺意を向けられるとは驚いたわ」
ソフィアや父に向けられたものとはまた違う恐ろしさがあった。そう……あの少年は神にも匹敵しそうな力を持っていることに、私はなんとなく気づいた。だからアオが来た。
しかしその彼はやけにミラに怯えていたが……?
「その辺にしとけ。考えすぎると疲れる。せっかくの温泉のリラックス効果台無しだろ」
ポンッと私の頭に手を乗せるリヴィオ。
「そうじゃな。考えても今は答えが出ぬ」
アオが安心させるように私の膝にのる。二人が私に寄り添ってくれることが何より嬉しく思い、頬が緩んだ。
夜の闇も秋の雨音も今は怖くない。私は悪意や憎しみに負けることはない。この暖かい部屋にいると、ホッとし、そう思えたのだった。
亡霊が形を成し、新たな敵との戦いが始まったことを感じた。
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