夏の夜の夢
「……ごちそうさまでした」
私はフォークとナイフをそっと置いた。お皿に半分ほど食事を残してしまった。
「ん?最近、食欲ないんじゃないか?」
リヴィオが眉をひそめる。
「うーん……かもしれないわ。少し食欲落ちてるし、ダルい気がする。風邪じゃないみたいから夏バテだと思うわ。最近、暑い日が続いたから……」
「仕事も忙しそうだしな。トーラディム王国とウェンディム王国を行ったり来たりしてるだろ?明日は休んだほうが良い。なにかオレが変わりにできることあればする」
心強いことを言ってくれるリヴィオだった。……が、私はいまいち素直に甘えられない。
「大丈夫よ。ひと晩寝ればスッキリするわ!お風呂に入って寝るわ!」
よしっ!と私は気合を入れて立ち上がる。おい!無理するなよ!と心配する彼を夕食の場に置き、お風呂へ向かう。
お風呂でゆっくり疲れをとって、ぐっすり寝ればきっと明日は大丈夫。
「さて……あら?」
……また来てるわ。私はお風呂場の扉の向こう側に影が3つあることを確認した。
「黒龍のところの守護者は面白いな。トーラディムにも温泉とやらを作り出している」
光の鳥だろう。青年の声である。
「フンッ!怪しいやつだ!勝手に他国に入り込んでいる」
間違いなくこの否定的な物言いと低い声はフェンディム王国のワンタローもとい、白銀の狼。
「狼よ。自分の油断で捕らえられたのじゃろ?セイラのせいにするのはやめよ。この温泉とやらを味わえるのも彼女のおかげじゃぞ」
「極上の酒をいつも置いてくれてあるし、気の利く良い娘だと思うが?お湯に浸かりながら飲む酒は格別だ。しかも満点の夏の星空と月を眺めながらとは風流だな」
アオと光の鳥は庇ってくれている。なんというか……これ聞いていて良いのかしら?
「おや?セイラの気配じゃ」
アオが気づく。私は中へ入って行っても良いのかわからないので、ドアの前で話す。
「立ち聞きするつもりはなかったんだけど……気に入ってもらえてて良かったわ」
「いつものお礼に一つ教えよう。君が欲しがっている答えのヒントになるかもしれない」
光の鳥の声だ。
「珍しい!おまえが人に関与するのか!?」
驚く狼の声。
「一人のためにしか動かないのかの思っていたのじゃが、気まぐれな鳥らしいのぅ」
アオの声。二人の言葉に少し不満げに光の鳥の神は言う。
「なんだと思ってるんだ?めんどくさいが、一応、あの人以外にも助けているんだけどな……さて、娘。おまえが探している魔物の発生装置だが、制作者をみつけるといい」
「えええ!?でも何百年も前のことだから、生きてないんじゃ……!?人の命には限りがあります!」
光の鳥の神は少し笑いを含んだ声音で言った。
「いいや?生きているよ。その身が亡霊となり彷徨っている。あんなものを作り出してしまった罪から亡霊として、この世界へ留まることとなった愚かな者だよ」
「可哀想にのぅ。ある意味死にたいが死ねないようになっておるわ」
「当然の報いだろう!フェンディム王国まで巻き込み、切り裂いてやりたいところだ」
アオとワンタローも付け加える。
「そのうちあっちから会いに来るかもね。君は目立つからね」
目立つ?そんなに目立っているかしら?亡霊が私に会いに来る?
「セイラはシンの変わりに『繋ぐ者』としてよく働いてくれておるわ。……黒猫は扱いにくいからのぅ。ほれ、我らの気配を察してやってきたわ」
そうアオが言った瞬間に『セイラ!』と呼ぶリヴィオの声がした。
気づいたときにはベッドの上だった。リヴィオが心配そうに金色の目で覗き込んできた。
神様たちの話は夢だったの?少し頭がボーッどしている。
「大丈夫か!?風呂場で倒れていたんだ!だから休めと言ったみたいけどだろう!?今、医者を呼んでいる!」
「え!?医者を!?大げさよ……大丈夫よ。今のはたぶん倒れたんじゃなくて眠らされたんじゃ……」
リヴィオが私の両頬をパチンと叩いて挟む。地味に痛い。少し怒っているようだ。
「なっ、なにするのよ!?」
「大丈夫とか……言うな!休む時は休め!無理するんじゃない!明日はセイラの仕事はオレがする。たまに頼れよ。甘えることを覚えろ」
私はリヴィオの手をとり、頬からはずして、可笑しくて笑う。
「フフフ。ずいぶん、私に甘くなっちゃったんじゃない?黒猫ともあろう者が」
「オレくらいセイラを甘やかしても良いだろ?」
私は甘えるのが下手だし、苦手だ。弱い自分を見せるようで嫌だ。でもリヴィオは本気で心配している。ここは素直になるところなの……かな?
「えっと……ありがとう。じゃあ、明日はゆっくりしようかな。お願いします」
「よし!お願いされるぞ!ちゃんと休めよ?」
リヴィオはそう言ってホッとしている。彼だって決して暇ではない。忙しい日々なのに……そう思うと私の仕事をお願いするのは、申し訳なく感じる。
それにしても神様たちの話では……魔物の発生装置という気持ち悪い物を作った人は生きていて、私に会いに来るだろうと言う。
それを言われたのは夢だったのだろうか?夢にしては鮮明だった。
夏なのにゾッとして寒気がした。
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