【彼女はめんどくさがり屋】
「こんなに逸材がいる年はめずらしい。歴代最強の三人」
「まずセイラ=バシュレ、そしてリヴィオ=カムパネルラとジーニー=エスマブル。この三名の能力、魔力は並外れて高い」
そう先生方が言っているのを偶然耳にしたことがある。
エスマブル学園に入学して何年目のことであっただろうか?
「セイラ!そこ、どきなさいよっ!」
またこの人?なぜか絡んでくる人がいる。私は冷たく一瞥する。廊下は広いのにわざわざ横に広がり、五人で歩いてきて言うセリフ!?
とてつもなく、めんどくさい……私は無視して、スタスタと近づく。普通に歩いて行き、中央突破した。女子の一人がキャッと可愛い声で避けた。
「なっ!なんで平然と通って行くのよおおお!」
やや怯えた表情をされたが、自然と避けてくれたということにしておこう。私はめんどくさい人だと思いつつ、教室へ入る。
「またダフネがセイラにからんでるのか。しつこいな」
リヴィオが自分のことのように嫌そうに顔を歪めて、そう言う。公爵家の坊っちゃんのくせに机に座り、行儀悪い。逆にキチンと椅子に座り、ハハッと笑う優等生のジーニー。
女子生徒に大人気の二人は見た目も家柄も他に並ぶものはいない。一人でも目立つのに二人でいるから、よけいに目立つ。
「セイラ=バシュレ!いる?」
ドアのところに立っている人が私を呼ぶ。
「はい?私です」
返事をすると、ちょっと顔貸しなさいよと……多分、最高学年の先輩方?だと思う。四人の女子生徒達が私をドアのところへ呼びつけて、ジロリと見る。
女子生徒達は集団で行動するのが好きだ。そのほうが学園生活を楽しくすごせるなら、それはそれで良いのだろう。
私達は幼い頃から寮生活で、両親と離れて過ごしてる分、友人たちとの距離が近いのかもしれない……と分析してみる。
「フーン、あんたがねぇ」
「どこが最強で優秀なのかわからないけど、リヴィオ様やジーニー様がそう言われているのは納得よ?」
「こんな冴えない子が?笑っちゃうわ」
「先生方に取り入るのが上手いだけでしょ?」
もしかして悪意を向けられてる?見たことない人達なんだけどな。
「ちょっと来なさいよ」
お昼休みは後20分しかない。私はちらりと時計を見た。
「15分間だけならば大丈夫です」
良いから来なさいよ!と半ば無理矢理連行される。強引な人達である。連れて行かれたのは演習場。
「卒業前にちょっと相手してあげようと思ってんのよ!」
「後輩の指導してあげるのよ。有り難く思いなさい!」
先輩がどうやら、戦闘術の手合わせをしたいってことなのかな?卒業前に私と?卒業記念だろうか……その割に殺気立っているが。
ごちゃごちゃ考えてる暇はない。何せ授業まで時間がない!さっさと終わらせよう。終わるまで離してくれなさそうだし。
「なんだ。それなら、そうと言ってくれたら良いのに、びっくりしました。悪意を向けられているのかなって思いました」
私はニッコリと微笑んでみせた。
『え!?』
先輩達が私の微笑みに動揺した。もう心理戦は始まっている。
「ちょ、調子にのらないでよねっ!」
「なに、余裕ぶってるの!?」
一人が苛立ちながら、捕縛の術をいきなり放つ。もう一人が氷系の呪文を唱え始めるのが見えた。
私はタタタタタッと走って捕縛の術を軽く避ける。ありがちな戦法だ。私は右手で床に触れ、術を発動させた。ドンッという振動が起こる。広範囲に渡って、地面が割れる。
「キャア!!」
立っている場所が崩れた驚きで、彼女たちの呪文の詠唱が止まる。地割れした床に付いた手を反動にし、くるっと前転して素早く次の術を紡ぐ。
辛うじて、詠唱を中断しなかった一人の先輩の完成させた術が私を襲う。大きな岩の塊かズンッと落ちてきた。相手はニヤリと笑う。
「潰れなさいっ!」
私は唱えておいた術にもう一つの術を被せる。
「なっ!?ど、どういう術の使い方を!?」
「一度に二つの術!?」
バリバリと感電するような雷と岩を半分に割る衝撃波が同時に発動した。
キャアアアという叫び声で先輩達は雷に感電し、動けなくなる。岩は2つに割れて転がる。
私は手の中に剣を生み出す。四人の先輩達に向ける。衝撃波で吹っ飛ばし、一気に終わらせよう。
「すいません、時間が無いので、これで終わりで……」
待って!と彼女達が叫ぶが、私は構わず、剣を横に一閃しようとした。その瞬間、呑気な声がした。
「もうすぐ授業始まるぞー」
「相変わらず、見事だな」
リヴィオとジーニーが来ていたらしい。時計を見ると……ピッタリ三分前!私は慌てる。授業が始まってしまう。
剣を消し、場の修復の術を素早く構成して、パチンと指を鳴らして放つ。何事もなかったように綺麗に元に戻る演習場。地面のボコボコも元通りだ。
「えっ……この規模の修復を一瞬で………?」
「な、なんなのよ?」
呆然としている先輩方。
「呼んでくれてありがとう。授業に遅刻するわね」
私は足早に教室へと向かう。リヴィオとジーニーが私の後で早歩きしながら喋っている。わざわざ呼びに来てくれたのかしら?
「心配するほどでもなかったか」
「それでこそ僕らも納得できるだろう。簡単にやられるようでは首席はとれない」
「わかってるよ!でも……別に心配くらいしてもいいだろっ!」
やれやれとジーニーがリヴィオを見て笑ってる。二人共仲良しだなぁ。
ちょうど演習場をでると、風紀委員がいた。
「私闘を行っている生徒がいると聞いたが?」
どこから聞きつけたのか、めんどくさい。ここで風紀委員にまで目をつけられたら、とてつもなくめんどくさい。
「卒業記念に私に手合わせしてもらいたかったようです。卒業前に演習を少しでもしようとするなんて、先輩方は勉強熱心ですよね。私も指導して頂きました」
私はとっさに勉強熱心な生徒を装う。絡んできたのは先輩方だろうから、処罰はあちらになるだろうが、聴取されるのはめんどくさすぎる。……ので、適当にごまかそう。
「本当に一方的ではないのだな?通報してきた生徒によると四対一であったと聞いているが?」
「多少のハンデは必要ではないかしら?たいした演習ではありません。怪我人もいませんし、演習場も綺麗なものです。その目で、確かめに行かれたらいかがですか?」
「ハンデ……ね。その発言はセイラ=バシュレならではだな」
風紀委員がそう言うと、真偽を確認するために演習場へといった。
「いいのかよ?素直に言えば、処罰はあっちだろ?」
「僕たちが証人になっても良かったのに」
リヴィオとジーニーは苦い顔をした。
「これでいいのよ」
先輩方を庇ったわけではない。私は肩をすくめる。
授業後の自由時間や自習時間をめんどくさいことにとられたくない。課題もあるし、読みたい本もある。
教室へ入ると同時に始業の鐘がなった。間に合って良かった。
「なんだかセイラは目が離せないな」
私の保護者みたいなことをなぜかリヴィオは言った。失礼だわ。リヴィオのほうがヤンチャじゃない!彼に言われるなんて納得できないわ!と思ったのだった。
リヴィオはこのときはまだ知らない。目が離せないその理由を。
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