白銀の狼の守護者

 これって!?これっ!


 私の驚愕した様子にリヴィオはウンウンと頷いた。


「セイラが何を言いたいのかよーーーくわかるぞ」


「えっ?いや、おかしいでしょ!?ここ異世界でしょ!?」


 そうだとリヴィオは頷く。


「なんで日本の城が!?松本城があるのよおおおお!?」


「だよなぁ。オレも最初に見たときは驚いたが、子どもの遊び心だな。面白いよなぁ」


 面白い?そんな簡単に片付けられる!?私がポカンと眺めていると、こんにちはー!と挨拶する少年達が現れた。風貌は小学生くらいだ。しかも甚平と草履姿のラフな格好をしている。


「シン……今はリヴィオだっけ?とその奥さんかな。オレはアサヒ!」


「僕はヨイチです」


 黒髪、黒目のそっくりな二人は性格が正反対のようで、一人は明るく、一人は落ち着いている雰囲気だ。に、日本人?


「ええーっと、はじめまして。セイラです……これ、あなた達が作ったの?」


「すごいだろ?」

 

 私の驚く様子を面白そうに見て、明るい雰囲気の少年アサヒが言う。


「すごいけど、まさか……ここで見るなんて思わなかったわ」


「セイラさん召喚者なの?」


 落ち着いた雰囲気の少年ヨイチが静かに問う。も!?……ってことは?


「召喚者なの!?ま、まぁ、この城みたらわかるけど。私は転生して、記憶があるの。あなた達ほど、あちらの記憶は鮮明ではないわ」


 松本城と彼らを交互に見る。クスクスと楽しげに笑う双子の少年達。


「僕たちの城へどうぞ」


 城の中へ招待される。中も和風で、日本にいるの?という幻覚にとらわれる。


 最上階まで……ここにもエレベーターを設置しようかしら?と私は階段を上がりつつ思った。


「魔法を使ってもいいのに、階段を使うなんて、律儀だね」


 ヨイチがそう言う。そう言われればそうかもしれない。


「ヨイチ、体力ないからなぁ」


 からかうようにアサヒが言うと……だまれ!と怒られている。


 最上階はリビングになっているらしく、キッチン、机、座布団、本などがある。壁には墨で書かれた書がいくつも貼られていた。上手な字であることは素人の私でもわかる。


 その壁の真ん中には……この国の地図?☓と○が書かれている。これは解放されていった街とそうではない街なのかな。


「何か食べたいものありますか?」


 ヨイチがそう言って、広めのちゃぶ台に手招きしてくれる。フカフカの座布団を差し出される。リヴィオがニヤリとした。


「アレだろ?セイラが食べたいものと言えば……」


 もしかして!?私はキラリと目が輝く。


「えっ!?なんでも!?なんでもいいの!?」


 私の勢いに、なんでも良いですよとヨイチが引き気味に頷いた。


「あの……お寿司!お刺し身のお寿司が食べたいですっ!」


 アサヒがあー!わかるわかると笑う。ヨイチがテーブルのところのでキリッとした表情をし、集中したのがわかる。


 筆で白い紙に『特上寿司』と書いた。輝く文字、浮かぶ………お寿司!?


「………こんなことってある?」


 私は呆然とした。アサヒがあるんだなぁと笑って氷入りの麦茶を出してくれた。


「新鮮なうちに召し上がってください」


 キラキラとした私の目の輝きに見つめられ、二人共、嬉しそうに見返した。


「ありがとう!」


「どういたしまして……って、変わった人を奥さんにしたね。僕らの術を見ても、あんまり動じないんだね」

 

 リヴィオにそうヨイチが言う。


 え!?動じてるわよ!?でも……お寿司は早めに頂きたい。生物だもの。私はいくらのプチッと感を味わいつつ顔を上げた。


「面白いだろ?でもこう見えても……優秀で頼れるんだぞ」


 こう見えても……?私はどう見えるのか!?

  

「シンを虜にしてしまうんだから、わかるぞ。シンはけっこーハラグロ男で非情なとこもあるのにさー。幸せそうに食べる顔、いいね!」


 アサヒが私を見て、そう評した。シンヤ君というか、リヴィオは優しいけどなぁ?と思いつつ、次はマグロをお醤油につけて食べ、口の中でとろける感じを味わう。最高です!


「今はリヴィオだ。シンは帰った」


「そうだね。で、代わりに来てくれてるけど、僕らは僕らでやるべきことをちゃんとしてるから、心配しないでよ」


 ヨイチはしっかりしてるなぁとリヴィオは言うが、アサヒがそりゃそうだと笑って言う。


「見た目は小学生だけど、中身はそれなりに年齢を重ねているんだからな!転生したリヴィオ、セイラさんより年上になるんだ」


「それでも何かあれば、相談しろよ」


 双子の男の子たちはその言葉に、顔の表情が崩れた。まるでリヴィオに父の姿を重ねてでもいるような、そんな二人の表情だ。


「はー、お寿司、とっても美味しいけど、リヴィオや私も黒龍の力があるのに、ここまでの具現化できる力はないわよね?なぜなの?」


 あったら……お寿司出せた。そこがうらやましかった。


 リヴィオが二人を指さして気をつけろという。 


「この二人は……ほぼ神だ。白銀の狼は自分の力のほとんどを彼らに渡してしまった。守護者どころか神様の域だ」


 さすがに私のお寿司を食べる手が止まる。白くて透明感もあるプリッとしたイカを箸でつまもうとしていたところだったのだが……。


「どうして!?」


「白銀の狼は人に嫌気がさして、二人に任せてしまったんだ。当初、小学生だった彼らにね」


 リヴィオが苦笑している。小学生に任せたの!?テキトーな神様すぎる!いや、でも私の父がその原因を作ってしまったとも言える。


「それで心配したシンが度々、ここに訪れて見張っていたのか、手伝ってくれていたのか知らないけど度々訪れて、いてくれたんだよなー!」  

 

 アサヒが神様の力を使って、悪いことしないのにさーと冗談めかして言う。


「そんなわけで、セイラさん、シンとは付き合いが長いんだ!これからよろしくね」


 明るいアサヒが話をする。ヨイチは大人しく、私に熱い緑茶も出せますよと気を配ってくれている。

 

「たまに忘れそうになるけど、日本の話をまたしたいから来てください。いつでもお寿司だしますから……」

  

 私にヨイチはそう言った。


「日本に帰りたくないの?」


 私の問いに二人は首を横に振る。


「この世界なら僕らを必要としてくれる」  


「そうそう。オレらはこっちの世界の方がピッタリだったんだ」

  

 私はそれ以上は問わず、そうねと頷いた。


「パズルのピースみたいに合う合わないはあると思うわ」


「帰れと説教されるかと思ったけど?セイラさんは言わないんだね」


 ヨイチはジッと私を見た。私はお寿司を指さして、ニッコリと微笑んだ。


「だってお寿司食べれなくなるでしょ!」


 アハハハとリヴィオとアサヒが笑う。私も笑った。ヨイチは少し顔を赤くして、お寿司、また作りますからと言ってくれた。


 アサヒとヨイチを見てるとなんだか懐かしいような、どこかで会ったような気持ちになる。日本のどこかですれ違うことも、あったかもしれないと思った。


 それに……私はバシュレ家に居場所なんてなかった。だから双子の少年達の事情は深く聞かないことにする。彼らが、この国を守護し、自分の居場所づくりをしているのだから、それで良いのかもしれない。


 これで三神すべての守護者と会ったことになる。黒龍の願いを叶えるため、世界の平和のため、私達の未来のため、駒は揃い、動き出そうとしている。

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