恋する乙女は不屈の精神
「ジーニーに想いを伝えたの」
マリアがいきなりそう言う。
ブッ!とお茶を吹き出しかけて、私は踏みとどまる。逆に飲み込んでしまって、熱くて舌を火傷した。
「えっ!?……いつ?」
「つい、こないだよ。『花葉亭』のお風呂に来ていたから、中庭の散歩に誘って……話をしたの」
マリアが一緒にお茶をしたいというので、午後にお茶会を用意したのだが、まさかそんな話になるとは!
「どうなったの?」
テーブルに私は食べようとしていた、スコーンにイチゴジャムを添えた物を口に入れる雰囲気ではなくなったと、ソッとテーブルへ戻す。
「わたくし、公爵家に帰るわ。ダメでしたわ。予想どおりでしたわ」
あーあーとマリアが悔しそうにクッションを抱えた。
「ステラ王女は恋を実らせたのに……わたくしはダメでしたわ。まだ諦めきれないんですわ……だから……」
だから?……私は聞き返す。マリアはキッと強い眼差しになった。彼女の祖母、ルイーズを思い出す強い眼差し。嫌な予感がする。
「周りから堅めますわーーっ!わたくし、最後の悪あがきをしますわよっ!」
恋する乙女は不屈の精神だった。
それからのマリアの攻撃……もといジーニーへのアタックは凄かった。
もう兄達にも隠さず、公爵家の力をも利用する。
「まぁ、ジーニー君なら好青年だし、良いだろう」
あの溺愛していた父のハリーまで許す。母のオリビアも良い方ですものねと微笑んでいた。ジーニーの株は高い。
「あいつ、外面良いからな」
リヴィオはそのことに納得していない。長兄のアーサーもジーニーの本性を知っているため、好青年か?と首を傾げていた。
「公爵家のパーティーに招待したり、あいつの出る会に行ったりマリアの勢いはスゴイ……今度は両親含めての会を設けて、会うらしい。ジーニーの両親も公爵家なら願ってもない!と乗り気らしいぞ」
「周りを堅めるってそういうことなのね。なるほど〜」
私はリヴィオの説明にすごいわと感心する。
「セイラは良いのか?」
リヴィオの目を驚いて見返した。なぜ聞くのだろう。まったく……と私は肩をすくめる。
「良いも悪いも、ジーニーが決めることだし、本人が好きなようにするべきよ……なぜ私に聞くのよ?むしろリヴィオにいいの?って聞きたいわ。親友と妹のことよ?」
「オレ?オレもジーニーが好きなようにすればいいと思うぞ」
そういうことでと私達はこの話を終えた。と、思ったら執務室にジーニーが逃げるようにやってきた。
「はー……まいったよ!」
「おー、うわさをすれば、だな」
リヴィオの言葉にジーニーは他人事すぎる!と怒るのだった。
「おまえの妹だぞ!?勢いがすごすぎて追いつかない!」
そうだろうなぁとリヴィオが腕組みして、ウンウンと頷く。マリアの性格をわかっている兄らしい。
「嫌なのか?」
「はっきり言おう。僕のことはそっとしておいてほしい!……のが本音だ」
「そうかー、マリア、残念だなー。それなら、オレから言っておこう」
「悪いな。頼む。……まだ正直、無理だ」
私にちらりと視線が一瞬きて、ドキッとしたが、気づかないフリをした。
「なにより両親が乗り気で疲れる」
ぐったりしてソファに座り込む珍しい姿のジーニーに私はお茶を淹れる。
「今まで無関心だったのに……まぁ、三賢者を使わせてもらったお礼もあって、断れなかったんだ」
「ええーっと……それは私達のせいじゃない?ごめんね」
私がそう言うとジーニーは茶色の目を優しく細めた。
「そんなことない。この国のこの世界のことに関わることだ。リヴィオやセイラだけの力だけじゃなく、皆の力を借りてするのは当然のことだろう」
困ったら頼っていいんだよと言う。
「ありがとう。助けられているわ」
私がお礼を言うとジーニーがリヴィオの方を見た。
「……リヴィオ。たまに僕にも良いセリフくれてもいいだろ?睨むなよ」
「睨んでねーよ!」
プイッとそっぽを向く、子供じみたリヴィオの様子に私とジーニーが顔を見合わせて、笑ってしまう。
「でも恋する乙女の焦る気持ちや誰かにとられてしまうかもって心配してしまう気持ちはわかるわよ。恋してるときは無駄に不安になったり急に浮足立つものよ」
恋愛初心者マークの私がそう一生懸命言ってみると、ジーニーは真面目な顔をした。
「そうだな。やはりちゃんとマリアには自分から話をするよ」
リヴィオがはぁ……嘆息して椅子に深く腰掛けた。
「やっぱり領地経営やこの先の世界のことを話している方が気楽だな」
「なんでだよ!?僕の恋愛話より、そっちの話の方が重いだろ!?」
世界と恋愛を天秤にかけたリヴィオの言葉にジーニーは困惑したのだった。
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