監視者は助けを呼ぶ

 父が領地やバシュレ家の物を放棄したとこで、私は王都の旅館が赤字だったことを知る。その負債もなかなかの金額であった。


「……と、いうわけで、改装してスーパー銭湯を作ることにするわ」


「ナシュレでも銭湯は根付いたから、王都でもいけそうだろう」


 リヴィオも賛成してくれたので、工事を始めることにした。


 最近、監視者のはずのフリッツがリヴィオのところより私のところへ来る。なぜならリヴィオが父から買ったカシュー地方の領地経営で忙しくて、傍にいると仕事を振られるから逃げているらしい。


「こっちはこっちで温泉旅館の手伝いさせられるんですけどねぇ〜。リヴィオさんの仕事の振り方半端ないんですよっ!」


「忙しいのよ。そう言わず手伝ってあげて。仕事のついでに監視すればいいじゃない?」


「仕事のついで……って、反対でしょ!?監視が本業なんですよ!?」


 もう良いです!と去っていくフリッツ。冗談だったんだけどな。背中を見送る。


 でも確かに、一人で二人の監視役も大変よね。


 ……と、思っているところに厄介な助っ人を呼んできたフリッツだった。


「おう!久しぶりだなぁー!バーサーカーのエイデン様が来たぞぉ!」


 癖っ毛の銅色の髪を一つに束ねて体格の良い男がやってきた。一応、騎士の制服を着ている。ライオンのように毛深いモシャッとした人だ。


「だれ?」   


 私が半眼になってフリッツに尋ねる。


「ええええ!?エイデンさんはセイラさんとリヴィオさんのこと知ってましたよ!?」


「な、なんで覚えてねーんだよ!?この俺様を忘れたのか!?バーサーカーのエイデンを!」


 私が首を捻っていると、リヴィオが玄関の騒ぎを聞きつけて来た。


「なんでいるんだよ」


「あら?リヴィオ知ってるの?」


「遊びに来てやったぞ!フリッツがなにか知らねーけど、大変だとぐちゃぐちゃ言ってたからなっ!ありがたく思えよ、リヴィオ!」


 リヴィオは心底迷惑な顔をしている。


「クラスにいただろ?大声で勢いだけはあるやつで、エイデンってやつ。うるさくてジーニーにめちゃくちゃ嫌われてたぞ」


「居たような居なかったような……」


「マジで、覚えてねーのかよおおおお!?」


 確かに大声だ。屋敷中に響く声で使用人達も集まってきた。


「まあ、玄関先ではなんだから……」


 私が招こうとすると、リヴィオが帰れよ!と冷たく言い放つ。クラスメイトを門前払いするリヴィオだった。


「せっかく来てやったのに、それは冷たくねーか!?フリッツ、連れてきたのお前だろ?なんか言ってやれよ」

 

 連れてきた張本人のフリッツはエイデンに言われ、困った顔をしてきる。


「えっ……もともとエイデンさんが会いたいと言って、休日だから来たんでしょう!?」


 ……暇人か。


「とりあえず、玄関は人の迷惑よ。一応客間にいれてあげるわ」


「相変わらず、セイラ=バシュレは冷たいけど優しいところもあるよなっ!」


 セイラに近づくな!とリヴィオは私に寄ってきたエイデンを足で蹴ろうとした。さすがにエイデンは軽く避ける。


「……ったく、そっちも相変わらずセイラ=バシュレに……って結婚したんだったよなぁ?すげーな。リヴィオ、良かったな〜。俺は片思いで終わる方に賭けてたぞ」


「どこでそんな賭けしてるんだよ!」


「は?クラスでしてたぞ。おまえが追いかけてるのはバレバレだったじゃねーか?」


 リヴィオが沈黙した。私もえっ!?と驚く。


「ほれほれ!さっさと客間に案内しろよ!」


 偉そうなエイデンを仕方なく客間に通した。


「……で、本来の目的はなんだ?」


 リヴィオか金色の目を光らせて尋ねる。


 メイドがお茶とお茶菓子のバニラアイス添えアップルパイを持ってきてくれる。エイデンはうめぇー!と嬉しそうに食べている。


「本来の目的ぃ!?フリッツ、なんだ?なんか目的あんのか?」


 エイデンがフリッツに聞く。


「何もないですよ。もー、ナシュレでのリヴィオさんは厳しくて人使いが荒いって騎士団の詰め所で愚痴言ったら、エイデンさんが帰りについてきてしまっただけです」


 ………なんというやつだろう。私はリヴィオとジーニーがあまり好ましく思っていなさそうということで、早々にお帰り願おうと決めた。


「じゃあ、用も無いってことで、王都まで送ってあげるわ。転移魔法でひとっ飛びよ!」


「待て!セイラ=バシュレ!」


 な、なに?私は詠唱を止めた。エイデンは言った。


「俺と付き合ってくれ!」


「はあ!?………人妻ですけど!?」


「構うもんかーーー!リヴィオめ!一人で良い思いしやがってえええええ!!」


 パリンと花瓶が割れ、窓ガラスがビシッと音がしてヒビがはいる。……無論、これは私やエイデンではない。リヴィオだ。魔力が溢れている。ゴゴゴゴゴと怒りの音がリヴィオからする幻聴がした。


「リヴィオ落ち着いて!」


 エイデンはやや逃げ腰になりつつ、あわてて言いだす。


「リヴィオ!待て!……と、いうわけで俺様と剣の勝負をしろ」


「とんなわけだよ!?オレは忙しいんだぞ!」


 リヴィオの苛立ちはMAXにきている。私は呆れて言った。


「リヴィオと剣の手合わせしたいなら、普通にたのみなさいよ。そういうことでしょ?からかわないで!」

 

「おもしろくねー女だな。女であんまり賢いと可愛げねーぞー?」


「大丈夫よ。私もエイデンはタイプじゃないわ」


 私の一言に傷ついた顔をしたエイデンだったが、リヴィオは静かになり、じゃあ手合わせしてやるよと言ったのだった。


 フリッツはめんどくさい人を連れてきたものだ。フリッツは、今になって、エイデンのめんどくさい性格に気づき、すいませんーと軽く謝った。

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